ドラゴン首、落ちた、堕ちた
「ぐるー。ぐるうううー、ぐる、ぐるるー…………、がう?」
この場を急いで離脱する望月さんと逢坂さん。と同時に、ドラゴンへ向けて駆け出した俺と香苗さんとマリーさん。
となれば当然、これまで俺たちを隠していたスキルは関係なくなるし、向こうもこちらに気付いてくる。なんなら敵意だって感知しているだろう。
大きな目が、こちらをたしかに捉える。瞬間。
「《光魔導》!」
香苗さんが鋭く叫び、力強くスキルを発動した。
途端に生み出される虹。規模はダンジョンで見た時より遥かに大きく、目に見える端から端までを鮮やかな虹の、美しいアーチが空へと架かっている。
なんて広範囲だ……町がいくつ収まるんだ? これが香苗さんの全力なのか。
驚く俺に構わず、香苗さんは続けて宣言した。
「行きがけの駄賃です、先攻はこちらにいただく! ──プリズムコール・ジャベリンスロー!!」
「ぐるぅ、ぁ────?」
とてつもない規模の虹から、これまたとてつもない数の煌めく槍が無数に射出された。狙いはもちろんドラゴンの巨体、満遍なく光槍の雨霰が降り注ぐ。
突然現れた虹に、驚いた様子のドラゴンだったが、そこからまさか攻撃が行われるとは思わなかったようで明らかに虚を突かれている。
香苗さんの宣言通り、先手は取った形だ。
とはいえ驚愕すべきことに、向こうにさしたるダメージはない。一撃一撃が、少なくともB級モンスター程度なら、瞬殺できるだけの威力を感じる槍の嵐だというのに……まるで意に介さず、平然としている。
しかしその間、着実にやつの懐まで潜る俺たち。悔しげに、香苗さんが舌打ちした。
「全力で放ったというのに無傷、どころかシャワー程度の扱いですか。さすがにショックですね……!」
「だが気は引けたさね。ようやった御堂ちゃん、ほれ、鈴山ちゃんも機を合わせたみたいだよ」
「…………追撃ですか!」
マリーさんの言葉に後方、探査者たちの待機している箇所を見る。
遥か遠方から、さらなる追撃が行われていた。矢や銃弾はもちろんのこと、《投擲》スキル持ちでもいるのだろう、石やら岩なども見る。
無論、先程のプリズムコール・ジャベリンスローとは比べるべくもないが……
「ぐるぅぅぅぅぅぅ? ぐるぁぁぁぁぁぁあ!!」
目的通りドラゴンの気を引くことには成功した! 怒ったように叫びだす敵が、今しがた攻撃をしてきた遠方を見る。
俺たちはさらに距離を詰めた。そろそろだ。そろそろ、攻撃を仕掛けるに丁度いいところまで来る。
激しく叫ぶたびに、それと比例して激しさを増す大地の揺れ。くそっ、やりづらい! 地面が揺らぐとは、ここまでやりにくいものなのか!
「……っ、公平くん! ドラゴンの様子が、変ですっ!」
「っ、ううっ!?」
揺れの中、香苗さんに呼ばれて見上げる。やつが、口を開けていた。
収束していくエネルギー……放つつもりか、あの光線を!
しかも矛先は遥か向こう、鈴山さん率いる探査者たちだ!
「防御は私が! プリズムコール・ミラーカーテン!!」
咄嗟に香苗さんが防護態勢を取った。遥かに渡る虹の橋から、銀幕にも似た反射膜が展開される。
当然ながらドラゴンの攻撃せんとする、射線を遮る形のシールドだ。どれだけの強度かはさておくにしても、まったく通用しないことはないと信じる。
「公平ちゃん、頼むよ!」
「はい!」
マリーさんの指示に従い、俺はフルパワーを引き出した。
今にもドラゴンは光線を放たんとしている。間に合うか? いや、間に合わせる。
全力で、全身全霊を込めて、遥か山頂へと拳を突き立てるように俺は、衝撃波を放った──狙うはまさにドラゴンの顎。下から押し上げるように、持てる力のすべてを放つ!
「でりゃあああああああああっ!!」
「ぐるぅうううううあああああああ、あおおおがうううう──!?」
刹那のタイミングだった。
もはや放たれていた光線──ほんの数瞬、当たっただけで香苗さんのシールドをたやすくぶち抜いていた──を下から蓋するように、俺の衝撃波はやつの顎をアッパーカット的に打ち上げた。
当然、頭部全体が空に向けて跳ね上がり……光線もまた、天高くへと打ち上げられることとなる。
「ぐううううううっ!? み、ミラーカーテンを破った!?」
「香苗さん!? く、流れ弾が……! 望月さん、逢坂さん!?」
かち上げられる直前の、ミラーカーテンで防ぎ、しかし相殺しきれなかった流れ弾が、俺たちのやって来た道の途中に落下していく。
まずい、と直感的に、案内役を務めてくれた望月さんと逢坂さんを危惧するが。
──次の瞬間、ドーム型の透明なフィールドが広がり、流れ弾を弾いてかき消していた。
「……スキル、《防御結界》ですね。あれがあれば少なくとも5分は、あの二人は無事です!」
「よ、良かった……! 5分か、マリーさん!!」
「あいよ。ここまで来たら5分もかからんさね、ファファファ」
ホッとすると同時に叫び、呼びかける。
老婆は既に空高く。打ち上げられたドラゴンの頭の、更に高い所に舞っていた。
「ぐるぅあああっ!? ぐるうあああああああ!!」
「──させるかあっ!!」
マリーさんに気付き、その大きな口で反撃を試みるドラゴンだったが。
称号効果による転移を用いて既に、当初の狙いである首元にまでたどり着いていた俺が、特効も載せた連撃を無数にぶち当てて。
呻きと共に今度は、頭部が項垂れるように下がった。
「ナイスさ、公平ちゃん──さあて! 鱗も皮もたたっ斬ってご覧に入れよう、実に34年ぶりのドラゴンキラー!」
必然、上空のマリーさんに差し出されるは竜のうなじ。
S級モンスターに、今、S級探査者の必殺剣が振り下ろされる!
「這い出てきたなら、這いつくばるのが道理さ、トカゲ。《居合》大断刀────」
居合一閃。仕込み杖から逆さ手に引き抜かれた刀が、超神速を以て世界を走り、断ち。
「ぐるぅあうううううううう!?」
ドラゴンの首を直撃し、その体もろとも、大地に叩きつけるに至った。
「────ロンドンブリッジ・フォーリンダウン」
この話を投稿した時点で
ローファンタジー日間2位、週間2位、月間1位、四半期2位
総合月間4位
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