悪の組織あるある:理由はどうあれとりあえず既存社会が気に食わない
神の顕現とそれによる新秩序の構築だの、既存社会の崩壊だの……物騒極まる単語が目白押しなスクリーン上に映る資料、サークルとダンジョン聖教過激派の目的。
それが具体的にはどのようなものなのか、如何にして行うつもりなのか。そもそもどうしてそんなことをやろうと考えたのかについては目下のところ不明だとヴァールは語った。
『詳細は不明だが、取り調べで判明しているところはこのような形になる。先に関西圏にて対応した犯罪組織、倶楽部の目的も真人類優生思想社会の実現と似たようなものだったが……委員会はよほど既存の社会基盤がお気に召さないらしい』
無表情のまま肩をすくめるその姿からは怒りは感じられない。どちらかというと呆れの色が濃く、ちょっと意外な気もしなくもない。
大ダンジョン時代を牽引してきた彼女の立場からすると、もうちょっと怒りや苛立ちを見せてもおかしくないんじゃないかなーと、思ったりもするんだけれど。
と、思っているとマリーさんが後ろで軽く笑った。
お隣のサウダーデさんやベナウィさんに、あるいは俺にも聞こえる程度の声で囁き教えてくれる。
「ぶっちゃけね……過去起きたモンスターハザードって大体この手の理由が多いから、慣れっこなんだねあの人は。私でさえ、またかいって感想しか出てこないんだから、もはやいつものことでしかないんだと思うよ」
「怖ぁ……狙われすぎでしょ既存社会」
「私ゃ第四次、第五次、あと第七次にちらっと参加しただけだけど毎度こんなだったよ。第一次から見事に毎回関わってるヴァールさんからしたら、うんざり通り越してるんだろうねえ」
愉快げに話しているけど割と壮絶だ。
つまるところそれだけこの大ダンジョン時代社会が100年もの間、委員会をはじめとする各種悪の組織に狙われているってことにほかならないわけだし。
織田との話し合いの際にいろいろ聞かせてもらった過去のモンスターハザードについて思い返す。
各時代ごとに各地域で、あるいは世界規模で起きていたその戦いのすべてに参戦していたヴァールやソフィアさんからすると、そりゃまたか! ってなりもするよなあ。
納得した気配を見せつつ、サウダーデさんがうなずいた。
「それだけ悪しき者にとり、ソフィア・チェーホワ率いるWSOが主導している今の社会が不都合であるということですね。つまりは連中の目的達成とはイコール、闇の時代が訪れるにも等しいと」
「ワルの理想が実現したりなんざしたら、そりゃ言うまでもなくワルの社会と時代になるんさね。だから止めなきゃならんのさ……少なくともソフィアさんとヴァールさんは、そのために100年も戦ってるんだ。その時々、その時代を駆けた名探査者達とともにね」
「そして今は我々とともに、ですね。先達に恥じない姿をミス・ヴァールにもお見せしなければなりませんね、これは」
ベナウィさんもまた、静かにつぶやき気合を入れたようだった。マリーさんのお言葉に、100年も社会と時代を護り続けてきた統括理事への敬意を、滲ませるように決意を示す。
そうだね。ソフィアさんとヴァールはそうやって、いろんな探査者達と一緒に戦ってきたんだ。大ダンジョン時代を護るために。
かつてはエリスさんやマリーさん、それにリンちゃん達シェン一族の始祖シェン・カーンさんもともに戦った。そして今度は俺達が彼女と一緒に戦うのだ。
偉大な先輩達から引き継いできたものを、俺達もまた後世に引き継いでいく。そのために護らなければならないものを護る……先の倶楽部との戦いからこっち、首都圏での戦いもつまりはそういう性質のものとなるんだろう。
守り抜かなきゃな。
俺も決意を固めて、ヴァールの話に引き続き耳を傾けた。
『仔細はともかく、実際に日本国が威信をかけて執り行なう式典に襲撃を仕掛けてくるつもりでいることから本気度は高いと思われる。幹部が捕まり情報漏洩したことはすでに向こうも承知しているだろうが、それでも今回の認定式はやつらにとって千載一遇の狙い目だ。構わず強行してくる可能性は高い』
S級探査者認定式は本来、別に行わなくても良いはずのものだと以前、他ならぬ香苗さんがそんなことを言っていた。
執り行なうのは結局のところ世界に向けて彼女をアピールしたい日本の、政治的都合であるところが大きいとも。
であれば、そんな式典を襲撃してすべてを破壊し尽くせば少なくとも日本国内はパニックになるだろう。総理とかの偉い人、国内外からたくさん来るみたいだしね。
関西で活動していた倶楽部が壊滅した今、サークルや過激派からしても一刻の猶予もないはずだ。多少計画がバレていても強行突破を図るってのは、まあ当然有り得る話だな。
そしてもっと言えば委員会側の概念存在達にとってもおそらく、この襲撃は大きな意味を持つもののはずだ。
こないだシステム領域に帰った時にヴァールが言っていたけど、連中は自分達の手で大ダンジョン時代を支配し屈服させることで、概念存在の復権を目論んでいるようだからね。
新たなS級の誕生を祝う式典を地獄に変えた上で神や悪魔の存在をアピールすれば、世の中のバランスは著しく変動しかねないだろう。
サークルや過激派とはまた異なる視点でのメリット……あるいはその二組織の動きなんて概念存在からすれば単なるカムフラージュまであり得るかも知れない。
いずれにせよ敵側が認定式を襲う意味はたしかにあるのだ。少なくとも向こう側にとっては。だからこそ、俺達はそれを迎え撃つ。
日本政府にとっては記念すべき祝典だが、今ここにいる大勢の守り手達にとっては明日の式場は……天下分け目の大合戦の舞台なんだ。
『やつらが仕掛けてくることを前提として、式場にまで敵が到達する前に叩き潰す。式典館内はもちろん厳重な警備で固めるが、周囲10km以内も鼠一匹通さぬ陣形を構築する! そのためにWSO、全探組、日本警察が一丸となって総力をあげるのだ、各員そのつもりで臨んでくれ!』
力強く呼びかけるヴァール。
誰もがうなずき、気炎を吐く。この国を、いやこの世界と時代を護る戦いに向けての、戦士達の士気は十分に高まっていた。
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