日本いいとこ、できれば観光していって!
神奈川さんの存知しないうちに、シャーリヒッタの脳内家族構成に組み込まれていく様を静かな諦念とともにスルーしつつも、案内されるがままにホテルに到着した。
案の定ながら超でかい。縦にも横にも高くて広く、織田の住んでいるマンションの倍はあるんじゃないか? って規模だ。
超高層ビル群の中でもとりわけでかい。それ以上立てると言語とかバラバラにされませんかね? ってくらいに大きな建築物を前に、関西から来た俺達はただただ圧倒されるばかりだった。
「怖ぁ……素泊まりでも一泊100万とかいきそう」
「ファファファー、分かってたけど和風じゃないね。でもいい感じのホテルじゃあないかえ」
「こうしたホテルも素晴らしいサービスがあるものですよ、先生。俺としては、そもそも太平洋暮らしが長いので宿を取ること自体滅多なことですが」
和風旅館好きなマリーさんが、若干残念そうにしつつもホテルの面構えを見て好意的に評する。日本フリークとしてはさておき、WSO特別理事としては素晴らしいものだと思えていらっしゃるのだろう。
そこにサウダーデさんも続けてのお言葉。宿を滅多に取らないと言うけど、たしかこの人はこの人で毎年、母方のお墓に参るべく来日されているって聞いた覚えがある。
その時は過ごされているんだろう? やっぱり母方の実家とか泊まってたりするのかな。
風貌からして筋肉ゴリゴリのマッチョ修行僧さんだから、なんとなし山奥にて野宿! とかワイルドすぎる風景も似合っちゃいそうなのでなんとも言えないんだよなあ。
「ハッハッハー、このホテル丸々貸し切りってヤバいねWSO! まあいわゆる外賓は軒並みここに押し込まれてるってだけだろうけど」
「警護対象はなるべく一点に集中しているほうが、何かとやりやすいですしねーはっはっはー! ……まあさすがに、そうした方々の個人レベルでの観光までは制限できないでしょうね」
「そこはさすがにな。日本政府からも観光立国アピールのためにも止めてくれるなと要請は受けているので仕方ない。その分、スタッフとエージェントをさらに増やして対応している」
エリスさんと葵さん、さすがに能力者犯罪捜査官だけあって真っ先にこのホテルを貸し切りにした意味を解き明かして話し合っている。
まあ、そういうことだろう。S級探査者認定式に際して海外からお越しのみなさまをここに集中させて、来るかもしれないテロやらなんやらからまとめて守ろうってわけだね。
ただ個人的な観光については日本政府が自由にさせたがっているってのは、なんとなし俺も理解できるよ。
パンピー視点でもせっかく来てくれたんなら、なるべく日本に良い印象を持ってもらいたいって思うからね。その分WSOや全探組が人員を動員してくれている件については、ありがとうございますの一言だよ。
ともあれ、神奈川さんの案内を受けてホテル内部へ。予め待ち構えていたのかホテルの従業員さん達がズラリと並んで俺達を出迎えてくれる。
大袈裟だよ……! たしかにソフィアさんやマリーさん、S級探査者の人達はそうされるべき立場の人かもだけど、俺含めたそれ以外の人員の大半はごく普通の探査者なんだから!
「ようこそおいでくださいました、ソフィア・チェーホワ統括理事御一行様。当ホテルをご利用いただき、まことにありがとうございます」
「こちらこそ、3ヶ月もの貸し切りなどと無茶なお話にもかかわらずお聞きくださり感謝に堪えません。本日よりしばらくの間、お世話になります」
「もったいなき御言葉。どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ」
支配人らしい、身なりの良いジェントルマンさんがソフィアさんに扮したヴァールとすごくこう、お貴族様的な雰囲気のやり取りをしている。
怖ぁ……場違いにもほどがあるじゃん俺。最初に首都圏行った時のホテルもだけど、普段の生活レベルと明らかに桁が違う環境に放り込まれるととりあえずすみっこ見つけてそこで丸まりたくなるんですよね。
自室とかに案内してもらったら、そこからしばらく部屋の隅にいるかもしれない。ぷるぷる震えてたまに光って瞑想する人の形をしたオブジェクトの完成だ。心霊現象かな?
見ればエリスさんや葵さん、リンちゃんも大分緊張しちゃってるし。堂々としているサウダーデさんやベナウィさんはさすがだよ、渋くてダンディ。
まあそんなこんなしつつもそこからはお部屋の案内を受ける。各自ルームキーをもらいお部屋番号を教えてもらい、エレベーターにてそれぞれ向かうのだ。
さしあたって自室で荷物を置いて落ち着いて、そこから昼休憩も含めて2時間後には専用の会議室に集合し、さっそく会議を始めるんだとさ。
「このホテルは北館と西館、東館に分かれていてそれぞれ連結通路があるものの、東館についてはいわゆるVIP専用のエリアとして今回用いている。よって連結通路については出入り禁止のため、くれぐれも入り込むなよ。SPやら何やらに取り囲まれたくなければな」
「怖ぁ……ええと、俺達って西館だよなリーベさんや」
「そうですねー。東館へ直通の通路はありますけど、見ればすぐ分かるくらい特徴的な構造みたいですよー?」
ヴァールからの忠告にゾッとするものを覚えつつリーベに尋ねる。ロビーにあるホテル構内の地図を二人で見ながらのやりとりなんだけど、彼女が指差す地点にはたしかに、3つある館をそれぞれ三角状につなぐ通路が見える。
俺の部屋とは……やった、大分遠い!
これなら迷った挙げ句ノロノロと迷い込んで怖いおじさん達に囲まれてニュースになっちゃうシャイニング山形容疑者はいない! たぶん。
ホッとしつつも、身近に地獄への道があるという事実にやっぱりドキドキな俺ちゃんでした。
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