コバンザメさんのこと山形って言うのやめろよ
「『あなたが時代を創るのです。救済の刻来たれり』……ですか」
「とてつもない効果に、明らかにこちらを覗いてきている何者かによる、答え合わせのような称号」
「もはや我々の中だけでしていい話ではありませんね。各々、組織に持ち帰り十分な議論の上で検討せねば」
「私たちは、神話の誕生に立ち会ったのかも知れない」
いやそんなに? そんな大袈裟?
新川さんも烏丸さんも広瀬さんも、どこか畏敬の念で俺を見てくるし。御堂さんに至っては何か、涙流してるし……
何だこれは。システムさんやい、答えてくれよう。
呼びかけてみてもまるで返事はない。言いたいことだけ言いに来やがって、まったく。ここ見てるんだろ、今も!
行われてきた話の流れに、まるで応じるかのような称号更新と解説文の内容。高らかに世界へと告げる、システムさんの無機質な音声。
何もかもが異質極まりない。俺は一体どうなるんだ?
ひとまずお偉方は、今日のところは帰るみたいだ。時間にして1時間くらいか……ダンジョン探査はできるなあ。
まあ、元々の予定だったし潜ってみるかな。
その場を後にし、組合本部一階のロビーまで戻る。
ここで申請して、ここの組合が担当する範囲内のダンジョンを探査するのだ。
「えーっと、講習後一回目の探査なんですけど。いい感じのあります?」
「かしこまりました……そうですね。この近くだとすぐ向かいの商店街にある、豆腐屋の側道にできたダンジョンが適切でしょうか」
「あ、わかりました。それならそれを受けます」
「では手続きを進めますね……はい、できました。こちら資料になります。F級探査者、山形公平さん。探査者の誇りと勇気でどうか、ダンジョン踏破を祈ります」
「どうもです」
……とまあ、申請から手続き、準備完了まで恐ろしくスピーディーだ。何しろ冗談抜きにダンジョンだらけの世の中だからな、変に事務上のことで時間をかけてもらいたくないみたい。
ここからはややこしい話も抜きに、探査者としての活動だ。俺は御堂さんに向き直り、挨拶する。
「今日は助かりました。ありがとうございました、御堂さん」
「えっ……私も、付いていきますよ? ダンジョン」
「えっ」
「だって、一番近くでいつだって見たいじゃないですか。公平くんが紡ぐ、新しい時代」
いやいやいや。あなた何を仰ってるの?
A級探査者がF級に引っ付いてダンジョン踏破に同行なんて、それ俺がコバンザメ扱い受けるやつじゃん。ただでさえ御堂さんには気にかけてもらってるのに、そこまでされるといよいよ彼女のファンに刺される。殺られる。
関口くんみたいなのもいることだしなあ。
「うん? 何だ、まだ香苗さんに付き纏っているのか、底辺探査者」
「あっ、関口くん」
噂をすれば影が差す。昼前、御堂さんを巡って俺に八つ当たりしてきたイケメン先輩探査者クラスメイト、関口くんのお出ましだ。
ロビーに入ってきて俺たちを見つけるなり、開口一番の悪態ぶりはさすがだ。俺を見る目も侮蔑を隠すことなく、嘲笑を浮かべている。
うーん。別に仲良くなりたいわけじゃないが、ここまで敵視されるのも嫌だなあ。でもこういう手合いはもう、一度敵として認識するとどっちかが潰れるまでしつこいからなあ。
俺の学生生活、一日目にしていきなり怪しくなってきたなあ。
明日からの学園生活にそこはかとない不安を抱く俺をよそに、またしても御堂さんが関口くんに噛み付いていた。いやさっきの比じゃない、殺しかねない勢いだ。
「関口……! 消えなさいクズがっ、この人の邪魔をするな!」
「か、香苗さん? 何をそんなに、そんな奴よりこの僕の方が」
「この人は、公平くんは新しい時代を創られるお方だ! お前みたいな万年D級の、探査者であることを悪用するしか能のない馬鹿とは天地の差がある! もう一度言う、消えなさいっ!!」
「っ……!? 山川ぁっ!」
「山形ですけど」
あまりにもあまりな言葉の羅列に耐えかねて、関口くんは矛先をこっちに向けて来た。勘弁してくれ、良いからダンジョン行きたいんだよ。
すわ殴りかかられるか!? とも一瞬思ったが、探査者が人間相手に暴力を振るうのは一発アウトの大犯罪だ。レベルの都合上、非探査者よりも凶悪になりやすいから仕方ない法規制なのよね。
おかげで俺も荒事に巻き込まれないで済むし、万々歳さ。
仕方なし、俺は御堂さんの手を引く。
「あっ。公平くん……」
「まて! どこに行く、香苗さんを連れて行くな!」
「いやあ先輩探査者さんにご指導いただこうかなと。じゃあ俺、これから探査するんで。また明日ねー」
「貴様っ、虫けらぁっ!!」
「山形ですけど」
もはや山すら残っていない虫けらな俺は、もう付き合いきれんとばかりに御堂さんを伴い、組合本部を出た。
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