新幹線内での飲食はなぜあんなにも特別感が出るのだろうか。謎である
さて新幹線も走ることしばらく、そろそろ小腹も空いてくる頃合いだ。
こんなこともあろうかと行きしな、あらかじめ駅弁ちゃんは購入済みだ。首都圏についたらついたでお昼ご飯を食べるだろうけどそれはそれとして、駅弁を新幹線の中で食べるってのはせっかくなら体験しておきたかったからね。
『いい心掛けだよ公平、駅弁ってやつには僕もかねがね興味があった。言ってしまえば移動手段にすぎない電車の中で食べるそれは格別の美味さだって聞くけど、実際何か特別なものがあったりするのだろうか? 君の感覚を通じて今僕も新幹線の乗り心地や空気雰囲気を味わっているけど、そこからさらに一歩進んだ"食べる"という行為には何が待ち受けているのか。ワクワクするよ、ふふふ』
などと語る脳内のアルマさんのことも考えると、とてもじゃないけど向こうについてからお昼時に食べるね……などとは言い難い。
そんなことした瞬間いつぞや言ってたアルマの美味しいものラジオを24時間いつでもどこでも垂れ流しにされちゃいそうだしね。
俺自身もやってみたいってのを加味しても、今ここで食べないという選択肢はなかった。
というわけで座席に付いている物置用の台座を下ろし、そこにペットボトルのお茶とお弁当を乗せる。
俺が買ったのは牛タン弁当。ご当地感はないけどすっごい美味そうだ、堪んないや。ぎっしり詰まった白米の上、牛タンがところ狭しと敷き詰められていて、添え物の漬物が彩りにアクセントを加えているね。
これには涎が出るのを自覚する。脳内ではアルマもさあ食えやれ食えしこたま食えよと一人で大合唱だ。
割り箸を取り出し、いただきますと一言告げてさあ実食。気になるお味のほうはと言うと……?
「…………美味いっ!」
『素晴らしい……単純にこの弁当単体でも大変な美味しさだよ、値段的にこのくらいしてないとおかしいんだろうけどにしても美味しい。温まってはないけどだからこそ甘みを増している白米に牛タンの旨味と脂身が絡んで、冷たいのにどこかぬくもりを感じさせる。噛めば噛むほど米と肉が混ざり合い相乗効果で味わいを増していくこれは、これはハーモニー!』
俺は短くアルマは長く、異口同音に同じ想いを口にする。
すなわち美味。この弁当、コンビニ弁当に比べると大分割高だったんだけどそれだけの価値が、いやそれ以上の価値があると思えるほどに美味いのだ。
肉は柔らかくジューシーで、白米に絡んでさらなる旨味を引き出している。噛めば噛むほど美味しくなる、まるで魔法のような味だ。
一口一口に幸せが宿るそんな感覚。満腹中枢に快楽の刺激が与えられている気がして、思わず頬も緩むってなもんよ。
隣で俺を見ていたエリスさんが、ごくりと喉を鳴らすのが見えた。急ぎ彼女も弁当を取り出す。
「そんな美味しそうに食べられたらこっちも食べたくなるじゃん、公平さん! いやーもうちょいしてから食べよっかなーとか思ってたんだけどねハッハッハー。いま食べちゃお」
「はっはっはー! じゃー私もー。わーいお弁当だー」
「わーい海鮮丼だー。エリスさんカニ結構好きー」
俺に釣られて海鮮丼弁当をパカリと開ける彼女……に釣られてさらにその横、葵さんも弁当を取り出した。
こちらはいわゆる幕の内弁当ってやつで、焼魚を筆頭に野菜やお肉、天ぷらなどがバランスよく盛り込まれたお約束感あるけどゴージャスな内容だね。
そうしてここの三人、いそいそと食事を開始する。時刻は10時過ぎと昼にしては早めながらまあまあブランチ時かなって頃合い。
いやまあ朝はちゃんと食べたし昼もまた別に食べるんだけどもね。これはほら、戦の前の腹拵えだから。そもそも外勤探査者やってる以上、カロリーオーバーとか太るとかって概念ないから。戦いって思った以上にカロリー消費するんだよね、当たり前かもだけど。
「あー、三人ともはやーい! シャーリヒッタ、私達どうしますー?」
「そりゃー食う一択だろ! へへ、正直いつ食べようかなーって迷ってたんだよな、オレ!」
「気は早いがまあ、目的地には昼前に着くからな。軽く小腹を満たすという意味でも、このタイミングで別に構いはしないか────っと、あら? ええと、ヴァール?」
「おーうソフィア、おはようさん。飯の時間だぜ? アイツ、お前さんに食わせたくておにぎり買ってるみたいだ。良かったら食べてやってくれよ」
「まあ。あの子ったら、もう……」
後ろの座席の三人、精霊知能達も呼応して弁当を開けだしたみたいだ。ヴァールがソフィアさんに交代している。
お肉が苦手なソフィアさんのためにおにぎりを買ってきていることをシャーリヒッタから聞かされると、彼女はヴァールに向け、どこか怒ったような、けれど嬉しそうな声を漏らした。
いつでもソフィアさんを優先的に考えているヴァールに、彼女自身複雑なのかも知れない。
もっと自分のことを考えてほしいとか、あまり過保護にしないでとか……そんなことをブツブツ言いながらも、けれど声はどうしても気遣いへの喜びを隠せないでいる。
反抗期の娘さんと親って感じだな、なんか。
またヴァールは歴代アドミニストレータ達のパートナーだったわけで、その最後の担当たるソフィアさんなんてもう、本当に娘か何かみたいに思えているのかもしれない。
あるいはそんな子を、今ここに至るまで付き合わせていることも関連して……どうしても手を尽くしてあげたくなるんだろうなーと、なんとなくそんなことを思った。
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