フリーダムだ、フリーダムになれシャイニング山形!
席に座って落ち着いたところで、ぼちぼち新幹線も出発する頃合いだ。
ここから首都圏までは概ね2時間ほどかかるそうで、つまりは11時頃に到着の予定だ。めちゃくちゃ早すぎてビックリするわけなんだけど、やっぱり新幹線ってすごいよなあ。
「あ、いよいよ動き出すよ公平さん。ハッハッハー、ワクワクしてきた!」
「おお……なんかすごい滑らかですね、始動っていうかスタートが」
並んで隣に座るエリスさんと二人、ゆっくりと動き出した新幹線の感覚に思わず声を上げる。
なんていうのかな、慣性的な負荷がすごく少ないっていうか。普通の電車だとどうしても出発時、ちょっとした揺れは感じるものなんだけど新幹線はそれが格段に少ないのだ。
しかもそうしてまるで揺れのないまま、窓から見える景色はぐんぐん加速をつけて移ろいで行く。
速度までもが負荷を感じさせない上昇の仕方をしているんだ──もちろん電車の、普通よりも快速よりも新快速よりも特急よりも早く、速く。
リンちゃんが瞳を煌めかせ、誰もいない座席を豪勢に独り占めしてははしゃいでいる。
「はやーい! でも星界拳士の蹴りのほうがきっと、もっと速い!」
「怖ぁ……」
新幹線にすら対抗心を持つのか、星界拳士……飽くなきチャレンジ魂というか、そもそも土俵が違うようにしか思えないんだけどそこはまあ、リンちゃんなりの基準があるんだろう。
苦笑いしつつも窓から外を見る。これは油断してたらあっという間に俺達の住む町も、うちの県が誇る湖も、なんなら富士山も見逃しちゃいそうだ。具に確認しないとね。
いやーしかしすごいわ、2時間ちょいで首都まで行けるわけだよ。
ちょっと仲間達と雑談してたら、あっという間に到着するんだろうなーってのが分かって改めて感動だ。修学旅行の時には思わなかったけど、現世日本の技術力ってやつに感嘆する。
「エクセレント! 素晴らしいですねえ、移ろう景色を眺めつつのんびりリラックスするというのは。ここに酒があれば尚良しでしたが」
「さすがにそれはな……現地に到着後、特にやることもなく自由行動ならば好きにすれば良かったろうが、明日には状況が動くこのタイミングでそれはあるまい」
「ま、一段落ついたあたりで酒盛りはすると良いさね。少なくとも今日明日は止めときなよベナウィ、荒事控えてんのに酒なんざ若い頃の私だってしなかったしね」
「ハハハ! いくら私でもそこは弁えておりますとも!」
ベナウィさんも窓際に座って、景色を堪能しつつどこか惜しんでいるのはやはりお酒についてだ。よく聞くもんね、新幹線での移動中に美味しいもの食べてお酒飲んでーって。
そこについては師匠のサウダーデさん、大師匠のマリーさんもちょっぴり残念そうにしていて、どこか宥めるように忠告してたりするね。
というか今のやり取りで気づいたけど、現地ついてからの話ってあんまり聞いてないな。一応聞いとこうか。
俺の座る席の真後ろ、やはり窓際に座るヴァールのほうを首だけ向けて、隙間からその顔を見る。
無表情ながらたしかに感情を宿す精霊知能の三女ちゃんは、すぐ気づいて俺を見、首を傾げた。
いつもよりどこか幼気な感じがするのは、なんだかんだ彼女も道中は多少、リラックスするということなんだろう。軽く微笑みかけてから、質問を投げかける。
「ヴァール。現地についたらすぐホテルに向かって行って、そこからは俺達はどうするんだ?」
「うん? ……そうだな。まあ話しておくが、現地の能力者犯罪捜査官チーム──すなわちアンジェリーナ、ランレイ、神奈川、ステラを呼んでいるので彼らと合流する」
問われてヴァールの答えるところ、どうやら到着後すぐに現地の捜査官チームと合流するみたいだ。
マリーさんのお孫さん、アンジェリーナ・フランソワさん。
リンちゃんのお姉さん、シェン・ランレイさん。
そして異世界から来たりし概念存在殺しの聖剣を管理する精霊知能ステラと、彼女のパートナーである人間、神奈川千尋さん。
いずれも只者じゃないメンツなのは間違いなくて、そんな人達でさえ手を焼かされていたのがサークルという組織になる。
改めて気を引き締めていかないとな、と思っていると、さらにヴァールはそこからの予定を話していった。
「そして情報共有と引き継ぎを行ってから人員の再配置を行うことになるが、そこは今回連れてきたスタッフ達が主だな」
「んー? オレ達もどこぞかに配置される感じか?」
「うむ。ワタシとマリアベールは指揮役として全体を見るがサウダーデ、ベナウィ、フェイリンは今月末までの協力者として」
名を呼ばれた3人、前の席のお二人と2つ並びの席でなんかグデっと横たわる垂れリンちゃんが頷く。
この御三方は元より別の用事で来日されている。そのため今回の件では8月いっぱいまでご協力くださり、それからそれぞれの国や地域へ帰っていくことになる。
「エリス、葵はアンジェチームの補佐と別働隊としてサークル、ダンジョン聖教過激派の拠点捜査役として」
関西においては倶楽部を相手に大立ち回りを演じてくれた能力者犯罪捜査官のお二人、エリスさんと葵さん。
彼女らは首都圏においても事実上の単独行動を主とするみたいだ。二人して軽く笑ってうなずく。
「そして山形公平、後釜、シャーリヒッタについては……例の件について。折を見て現れるだろうミュトスと合流することを視野に入れつつ、場合によってはアンジェチームのサポートを頼むことになるかもしれない。とはいえ、基本は自由に動いてくれて構わないが」
「良いのか? 勝手に動き回ることもあり得るんだぞ」
「あなたがそれを良しとされるのであれば、ワタシもそれを良しとするまでだ。言ってしまうがこと今回の件においては、あなたこそが切札にして独自勢力のリーダーなのだと思ってもらいたい」
「……わかった。なら俺達は俺達の意志と選択の下に、お前やお前が率いる人々の力になるさ」
怖ぁ……なんかすごい重責を投げかけられた気もするけど、まあ仕方ないよね。
今回の件、すなわち異世界の神については俺とリーベ、シャーリヒッタ、そしてミュトスの4人は完全に独自勢力として立ち回ることになるだろうし。
そして現世にいるシステム領域からの使者の中でも、コマンドプロンプトたる俺こそがリーダー的な立ち位置になるのは仕方ない。
となるとミュトスという事態打開のための最重要ファクターを抱えるわけなので、ヴァール以下現世の勢力にとっても俺達こそが切札と言ってしまってもいいんだろう。
責任重大だけど、きっちりやりきらなくちゃな。それが意志あるコマンドプロンプト、山形公平の在り方なんだ。
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