大勢で列を作って移動するなんて経験、大人になったら意外とない気がする
昔日の英雄譚もそこそこに、俺達を乗せたリムジンは隣県の中枢とも言える駅に到着した。
竜虎大学に行った際にも立ち寄った駅だね。ここから今回は新幹線に乗換え、一路首都圏目指して出発進行ってのが本日の行路である。
「駅前の、往来の邪魔にならないところに同行する能力者犯罪捜査官やエージェント、スタッフ達がいるはずだ……ああ、あれだな」
「ふむ? 結構いますね、30人ほどですか」
「対サークル用に数を揃えたからな。能力者ですらない非能力者が構成員にいるとなると、連中の総数などもはやなんの手がかりもない。人海戦術さながらに人を投入せねばならんのさ」
駅前の、人通りの比較的少ない空き地に固まっている群衆を指してヴァールが説明した。なるほど、サークルのダミー拠点や悪魔憑き非能力者達を相手取るための人員ってわけか。
織田に聞いたサークルと悪魔についての話は、俺からソフィアさんに伝えた以上当然ながらヴァールにも伝わっている。
道中の車内にて、厄介なことになったと無表情の中にも難しいものを感じさせる表情を浮かべた彼女を、リーベとシャーリヒッタが労っていたのが印象的だね。
そんなこともあり気を取り直したヴァールとともにスタッフさん達の元に向かえば、気付いたリーダーらしい女の人が挨拶してきた。
「統括理事! それにみなさま、お疲れ様です」
「ああ、ご苦労……首尾はどうだ? すぐにでも行けるか」
「万事滞りなく! 能力者犯罪捜査官5名にWSOからの出向者が10名、そして全探組から協力探査者8名に事務および雑務請負の内務探査者が私含め5名! 総数28名、いつでもお供できます!」
「分かった。こちらも特に問題はない、以後ホテルにつくまで手筈通りに進行できるようにしてくれ」
結構な数の探査者さん達がいるけど、誰しも荷物をまとめてリラックスした様子でいる。いかにも準備万端、いつでも行けるぜー! って感じだ。
実際にスタッフさんが言うように今すぐにでも出発できそうな感じだよ。ヴァールもそれを受けて鷹揚にうなずき、また以後の進行をその人に託した。
ハイ! と意気も強く応える姿に、頼もしいものを覚えているとさっそくだがその人はみんなに向けて呼びかけていた。
すぐ出発みたいだ、まあ揃った以上はここに滞在してる理由もないしね、往来だから固まってると迷惑だし。
そんなわけでみんなの指揮役らしいその人に沿って、一同ゾロゾロと歩きだす。ヴァール率いる俺達は先頭集団で、計40名近い大所帯で新幹線の改札へと向かう。
なんか……なんだろこれ。
整然と2列になって歩くのをちらと後ろ目で見て、俺は小声でつぶやいた。
「修学旅行とか、遠足みたいだなあ」
「……ああ、たしかに。年代はバラバラですが、人まとまりの行列としてどこかに長距離移動する感覚は、いかにも学校行事めいていますね、ミスター」
「無論、今から向かう場所は物見遊山の地ではなく戦場であり、また新たにS級となる偉大な探査者を祝する場でもあるのだが……言われてみればそうだな、懐かしい気持ちになる光景だ」
ベナウィさんとサウダーデさんの師弟が俺に同意し、同じくチラリと後ろを見てうなずいてきた。
世代や地域を超えても、やはり大人数が2列になって歩く光景には幼少の記憶を刺激するものがある、ということだろうか? 見ればマリーさんも軽く笑ってるしね。
後ろで並んで歩いている能力者犯罪捜査官さんやエージェントさん、全探組の探査者さん達も今のやり取りは聞こえたんだろう。多少声は抑えていたけど、高レベルのオペレータの聴力なら普通に聞き取れる程度の雑談だったからね。
なんか遠足みたい、という俺達の声を受け、口々に雑談を展開していた。
「うお、なんかシャイニングの言葉に俺も懐かしさを覚えてきちゃったよ。そういやあったわこんな光景」
「大人になるとなかなかなくなるよな、こういう大規模集団での旅行とか。会社勤めなら社員旅行とかあるんだろうけど」
「一応全探組主催の探査者慰安旅行とかはあるけど……正直なあ」
「面倒くさいよなー」
全探組のみなさんは元からして普通にこの近辺で働く地元の方だからか、気心知れた顔ばかりで固まって話しているみたい。
探査者慰安旅行についてはたしかに俺も、うちの県の全探組施設内の掲示ポスターで見かけたことあるな……そして行きたいとは思わなかったな……
慰安って割にはなんか、どこぞの有名探査者さんの講演だのどこかの理事さんの労いの言葉だのを売りにしてたし。
悪いことじゃないにせよ、あまり惹かれる内容じゃなさそうだったのは事実だ。
「S級に囲まれて普通に雑談してるルーキー、か……シャイニング山形。聞きしに勝る胆力と言うか、向こう見ずと言うか」
「統括理事や特別理事、それに御堂香苗がお熱の天才ですもんね。いくつか探査動画見ましたけど、そうなるだけのすさまじさはありましたよ」
「虚仮威しじゃなさそうだし、まあお手並み拝見ってとこだな。それはそれとして修学旅行っぽいのは分かるわ。土産、なんか買うかなー」
「世界を股にかける能力者犯罪捜査官の醍醐味ですよね、現地のお土産買い漁るのって。まんじゅうとかあるかなー」
一方こちらは能力者犯罪捜査官チームのみなさんが、そもそもサウダーデさんやベナウィさんとしょうもないことペラペラ普通に喋ってるルーキー山形くんへの所感を述べられている。
お手並み拝見と言われましても、別に俺が矢面に立って何かするとも限らないからなあ。まあ何もないのに越したことはないから、ただの虚仮威しの子供ってことで済むのが一番かもしれないね。
そしてお土産の話が出たけど、これについては俺も悩みどころだ。
何買うかなー。魚や酒や菓子ジュースについては確定だけど、梨沙さんはじめ友人の皆様に向けてもいろいろ買いたいしなあ。
不意に聞こえてきたやり取りに、今度はこちらが悩む番だった。
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