お肌は触れ合わない通信
一時間と少しほどの会議も終わり、いよいよ、対ドラゴン作戦は実行に移される運びとなった。
ことここに来ればもう、一刻の猶予とてない。いつドラゴンが気まぐれを起こして、暴れるなり熱線を放つなりするか分からないのだ。というかむしろ、今までよく大人しくしてたなとすら思う。
『元が右腕ですからねー……赤ん坊より何の思考能力もないでしょうから、本当にただ、心地いい場所には留まって、それが妨げられそうなら反撃するだけの、それこそ細胞みたいなものなんでしょう』
リーベの推測を脳内にて聞く。実際のところはさておくにしても、たしかにドラゴンは今のところ、陽の光を浴びて心地よさそうにしているのはたしかだ。
なんならうつらうつらと眠たげにしているし。迷惑極まりない二次災害とか巨体がなければ、あるいはかわいいと評することもできるかもしれなかったくらいだ。
けれど。現実にあるあの竜は、紛れもなく災厄なのだ。
人間社会に突如現れ、我が物顔で居座り、何の気もなく辺りを破壊する厄介な化物。
倒さなければならない。排除しなければならない。人々の暮らしを守り、これ以上壊させないためにも。
「さあ、そろそろ行きましょうか。決戦チームは望月、逢坂両名のスキルを受けて共に目標の懐まで。それ以外の探査者は、目標が不意な動きを見せたらすぐさま本部に報告。やつの気を引いてください」
「リーダー、アドバイザー共に決戦チームとして出払うため、以後は僕、A級の鈴山が指揮を取ります。これはマリアベール氏、御堂氏両名からの要請に基づくものですので、ご承知ください」
香苗さんの号令に次ぎ、鈴山さんがリーダー役の引き継ぎを宣言する。S級がおらず、A級探査者もさほど数いるわけでないこの状況下で、香苗さんとマリーさんの共通の知り合いである彼に白羽の矢が立つのは、頷ける話だ。
緊張した空気が場に、満ちていく。決戦の火蓋が切られる。
勝つんだ、俺たちは。託された想いが俺に、力を与えてくれている。
『その意気です、公平さん……称号、変わりましたよ』
「……ステータス」
リーベの声に、静かに頷いて俺は、ステータスを開いた。
名前 山形公平 レベル162
称号 昨日の荒野は明日の沃野へ
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
称号 昨日の荒野は明日の沃野へ
解説 風は光を纏い、光は闇を祓い、やがて緑はよみがえり地に水は降る。荒野が希望に満ちていく
効果 決戦スキル保持者が半径1km以内にいる時、該当者のすぐ近くに転移できる
《称号『昨日の荒野は明日の沃野へ』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……荒野が、沃野へと変わりつつあります。壊された時代が、蘇っていくのです。この流れを今、止めてはなりません》
また、ずいぶんとレベルが跳ね上がったな……思い当たるのは端末を倒したことくらいだけど、あいつそんなに経験値あったの? むしろ世間知らずのボンボン感やばかったんだけど。
称号効果も、ワープ山形じゃん怖ぁ……念話といいマリーさんをびっくりさせるには良いかも知れないし、今回で言えば連携を取ったり、緊急時の移動なんかに使えるかもしれない。
というわけで、マリーさんに念話と転移について白状する。この際だ、使えるものは何でも使わないと。
称号効果としては破格かつ、決戦スキル保持者が対象というピンポイントさに、さしものマリーさんも困惑していたみたいだった。
「テレパシーとは、また……転移もそうだが一旦、やってみてもらえるかえ? 感覚を試してからじゃないと、いきなり実戦投入はかえってやりにくかろうし」
「分かりました。やってみます、…………」
言われて、彼女から結構、離れたところに立って俺は念じた。
『マリーさん、マリーさん……聞こえますか……今あなたの脳内にいるの』
「怖いし、どっちかと言えば私がやるようなネタさねえ。おっと」
『……これで伝わるかね? 私もエスパーの仲間入りとは、まったく人生何があるんだか知れたもんじゃないねえ。ファファファ』
おお、マリーさんと脳内でやり取りしている。奇妙な感覚だ。
ちなみにこの通話……通話? は、リーベと俺で普段やってるのとはまた別の回線を使ってるみたいだ。少なくともリーベの声はマリーさんに届いてない。
ただ、さすがにシステム側と言うべきか、リーベは念話を聞き取れていた。曰く、こちらの方が上位チャンネルゆえとのことだが、思考を盗聴されるに等しいマリーさん的には迷惑な話だなこれ。アルミホイルでも巻いたら防げるかな?
「ご歓談中のところすみませんが、お二人共。そろそろ行きましょうか」
と、香苗さんが呼びかけてきた。そろそろ作戦開始か。
現地に行くまでに転移も確認しとかないとな〜と考えつつ、俺は応える。
「分かりました、今行きます!」
「? 御堂ちゃん……?」
何やら首を傾げるマリーさん。何かあったかな?
聞いてみるといや、なんでもないさねと釈然としてなさそうな顔で答えられた。うーむ、謎だ。
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