世界一豪華な自宅警備員×2
香苗さんを見送って後、電車で家の最寄駅まで帰る。夕方前の夏の空は曇りがかっているけど概ね晴れで、でも少しだけ秋の訪れを予感させるような涼しさを孕んでいるように思えた。
どこか寂しい切なさを、感じさせる季節がこれからやってくる──盛りに栄えた生命の賑やかさが一旦落ち着いて、徐々に静けさを増していくからだろう。
蝉の鳴き声も心なしか元気がなくなってきた。そんな帰り道を乗り越えて、俺達は無事に山形家へと帰還するのだった。
「まあ、秋は秋でいろいろあるから騒がしいと思うんだけどね、結局……と。ただいまー」
「季節の移り変わり、目に見えての変化を感じることから感情が揺れるんでしょうねー。ただいま戻りましたー」
「エモいってやつだな、なんかよく分かんねーけど! ただいまだぜー!!」
それぞれ秋の到来とそれに伴う謎の侘び寂びについて、若干話しつつの帰宅。ふう、帰ってきたー。
なんやかや織田との会談に多少緊張していたのが、一気に緩む心地。やっぱりホームは良いよね、心が落ち着く。
──と、玄関にうちのじゃない靴が2人分、置かれていることに気づく。
女性ものの、シンプルなデザインながら刺繍なんか加わっているお高そうなやつだ。どこかで見たことあるような?
誰かお客さんでも来てるのかな? オペレータの気配はたしかにするから、俺の知り合いだろうか。
思いながらもひとまずリビングへ。仮に知らない方であれ、帰ってきたからには会釈の一つもしなきゃ失礼だもんね。
というわけでひょっこり顔を出してみると、そこには。
「おかえりー。3人とも、意外と早かったわねえ。お客様が見えているわよ」
「おかえりなさいませ山形様、リーベ様、シャーリヒッタ様。お邪魔しております、ソフィアです」
「邪魔してるよ公平ちゃん。なんぞ大物と会談したんだって? もうすっかりフィクサーだねえ、ファファファ!」
「…………ソフィアさん! マリーさん!?」
まさかまさかの超VIP。WSO統括理事のソフィア・チェーホワさんと特別理事のマリアベール・フランソワさんがいたのだ。
テーブルに母ちゃんと座り、お茶啜りながら煎餅を齧っていらっしゃるよ。のほほんとしている!?
世界的な大物が二人、一般ピーポー山形家にて寛いでいる光景はそこはかとなくシュールさがある。
いやこれどういうこと? 特に何か、今日来るみたいな話も聞いてないんだけども。もし聞いてたら少なくとも悠長に帰ったりせず、マッハで空間転移して戻ってきてたって。
動揺とまではいかないものの、さすがに驚く。
ついてきたリーベやシャーリヒッタも同じで、口々に反応していた。
「二人とも、来られてたんですかー!?」
「なんだよーオイー。言ってくれりゃせめて父様だけでもすぐさま家に届けたのによォー。いつから来てんだよ二人とも?」
「3人が出かけて一時間くらいしてからかしらね。いきなりの話だったから、まーた公平ってばダブルブッキングかしら? って思ったら特にアポ無しみたいらしくて。とりあえずおもてなししてたわ」
「すみません、お伝えもせずに……概念存在との会談に臨まれる御三方に水を差すわけにはいかないと思いまして。ですが報告を待つだけというのも焦れったく思いつい、来ちゃいました」
さり気なく俺をダブルブッキング常習犯みたいに扱う母ちゃんに物申したい気もあるけど、それより彼女とマリーさんの対応のほうが先だ。
来ちゃいましたって、そんな女の人に言われてみたいようなそうでもないようなセリフ上位ランカーなことを仰るソフィアさん。
俺達に気を遣ってくださったみたいで、やはり会う約束とかはしてなかったみたいだ。そこは安心しちゃうけど、連絡くらい別にしてくれても良いのになーって思わなくもないや。
そのへん、マリーさんは苦笑いしてらっしゃるね。
お茶を一口呑み、ファファファといつもの笑い声を上げて彼女が続けて言った。
「いやごめんねえ、公平ちゃん。私ゃ連絡くらい入れといたほうが良いって言ってんだけど、この人もヴァールさんと同じで妙なところで頑固だからねえ。何があっても邪魔はできません! の一点張りでさ」
「えぇ……?」
「まあ、あとはアレさね。公平ちゃんが留守の間、変なちょっかいをこの家に仕掛けてくるようなのがいないか確認がてらさね。ファファファ! 地域全体の警備体制も相当だがこの近辺は特に網目が細かいねえ。これなら私らが首都圏行ってても大丈夫さね」
「そ、そうなんですね。ありがとうございます」
怖ぁ……しれっと抜き打ちで現地の警備を測ってるよ、この二人。警備してらっしゃるエージェントの方々はさぞかし緊張されただろうな、いつもお疲れ様です本当。
しかしそうか、知ってはいたけどこの近辺の警備は特に固いか、そりゃそうだよね。少なくとも委員会側の概念存在は俺を狙ってる可能性だってあるわけだし。
ヴァール並に頑固とか言われたソフィアさんが若干頬を染めた。かわいい。
今回ばかりは言われても反論できないのか、こほん、と咳払いだけして、彼女は真剣な表情に切り替え、俺に向き直った。
「……とまあ、それはさておき。山形様、落ち着かれましたら今回の会談の結果と分かった事実について、お伺いしたいのですが大丈夫でしょうか?」
彼女の立場からすれば実際、気にならないわけがないよね。昨日も会談に同席したがっていたほどだ、それが叶わないにせよ、顛末については誰より先に知りたいのだろう。
こうなると俺としても手間が省ける。直接やり取りするほうがやはり、伝わりやすいからね。
というわけで俺もすぐにうなずき、母ちゃんを除いた今いるメンツが揃って、自室に向かうのだった。
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