その笑顔こそ、戦い護るに足る理由だから
織田のマンションを出て帰路に着く。アーケード街を戻り、駅までみんなで歩くのだ。
香苗さんとはこの駅でお別れになる。俺達の家の方面とは逆方面の電車に乗るからね。そしてそのまま何もなければ明日、彼女は一日早く首都圏へと向かうことになるわけだ。
「ミッチーはここから認定式のリハとかで大忙しですかー。無理しない範囲でがんばってくださいねー?」
「ありがとうございますリーベちゃん。ええ、適度な塩梅でやりますよ。敵が襲撃してくることを思えば、多少やる気にもなります」
リーベの励ましに微笑んで応える香苗さん。
あんまり意気込んでいる感じでもないのは、そもそも認定式とかやる必要ある? という思いが正直なところあるのかもしれない。
さっきも句読点飛ばしていた中でそれっぽいことポロリとこぼしていたしね。
たしかに言われてみると、日本人のS級って括りだと直近で愛知さんって先例がいるわけで。でも彼女がS級になった時、ここまで国を挙げての祝典を開いたなんて話、聞いたこともない。
元々A級トップランカーとして、世界規模で有名だった香苗さんだからだろうか? だとしたらそれは愛知さんに失礼じゃないかなって話だし。
もしくは香苗さんが言ってたように、愛知さんが何やら公安関係? の方で表には出しづらいから開かなかったとかだろうか。いや、それならそれでなんでS級なんて目立つ立ち位置に据えさせたんだって話だし。
いろいろ考えれば考えるほどこう、お上の事情がもろに絡んでます的なモノを感じ取ってしまってなんだかなーって感じにもなる。
俺でさえそうなんだから、当事者たる香苗さんはもっとそんな思いを抱いちゃうんだろうな。今もほら、ため息を吐いているし。
「どんな事情であれ、祝っていただけるというのはありがたく思うべきなのですが……政治が絡む話は複雑怪奇。海千山千の老獪な方々がそれぞれの利権や思惑を絡めて、笑顔の下からそれを滲ませながらおめでとうと言ってくるのを相手するのは、少々疲れるというのが本音です」
「香苗さん……」
「彼らもそれが仕事な以上、それも一つの正解なのでしょうけどね。と、言うわけなので公平くん、リーベちゃん、シャーリヒッタ。私は一足先に首都へ向かい、そこでみなさんを待っていますよ。現地でまた、お会いしましょう」
ニコリと笑って明るく振る舞う香苗さん。内心ではいろいろ、抱えるものもあるだろうに大人だなあ。
水面下でバチバチにやり合っているような人達を、香苗さんが若干引いた目線で見るのもある種、仕方ないことかも知れない。
彼女の場合はその来歴から長いこと、人間不信と言う形で大人を疑ってきた時期もあったろうしね。
ただまあ、こうした国を挙げてのイベントだもの。
利権や思惑なんてのは関係者の誰しもが抱えていて、それぞれにとって最大限の利益を享受できるように調整しながらも進めていくのは当然だ。
それを大人として受け止め受け入れ、一つの正解であると言った香苗さんは素敵な人だと俺は思うよ。
S級探査者にふさわしい、立派な態度だと思う。
だから俺はそんな彼女に言うのだった。
「香苗さん。俺達は心の底からあなたがS級になれたこと、嬉しく思っています。純粋にあなたを大切に思う者として、とても誇らしいです」
「公平くん」
「サークルや過激派のこともありますけど。ていうか俺なんかはそっち対応用にお呼ばれしてますけど……それでも俺は、あなたを祝いに首都に行きます。他のことなんか二の次として、ただあなたの栄達を祝い、その行く末を祈り、幸多からんことを願いに行くんです。それをどうか、忘れないで」
利権も思惑も、優先順位も大義名分も関係ない。祝いたいと思い、祈り、願い、想う心。それこそが俺や俺達が香苗さんに届けたい真実なんだ。
ただ、彼女を言祝ぎに行く。サークルだの過激派だのが襲ってくるなら、そんなのは返り討ちにして祝宴を守り抜く。
さしあたってはそれだけだ。少なくとも認定式が終わるまでの間はね。
もちろん、連中の野望や野心を挫くために微力ながら協力いたしますけれども……せめてそれまでは、香苗さんというかけがえのない人のためを第一に、頑張らせてほしいよね。
「公平さんの言う通り! リーベちゃんもねミッチー、いろんな事情や利害はひとまずうっちゃって、あなたの友人としてただ、祝いに行くんですよー!」
「オレもだぜ、御堂香苗! 付き合いは浅いけどなぁに、こういうのは時間の長さじゃねえんだ。公平サンやリーベに負けないくらい、アンタの出世を祝うつもりだぜー!」
「リーベちゃん、シャーリヒッタ……ありがとうございます。とても、本当にとても、嬉しいです」
精霊知能達も同じ想いでいてくれている。みんな、香苗さんのことが大好きなんだよ。
だから大丈夫。あなたが祝われるのは、利益や思惑だけのものでは決してない。ただ祝いたいという、それだけの真心からのことでもあるんです。
駅前、切符売場から少し離れたところにて。
改めて向き合って想いを告げれば、香苗さんは心から嬉しそうに、俺達に笑顔を向けてくれる。
この笑顔こそが俺達の理由であり目的だ。S級探査者認定式は、必ず成功に導かせるよ。
そう、強く決意させてくれる素敵な笑みだった。
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