二人はサポーター!マックスハート
ドラゴンの、剥き出しになっている皮膚部分。そこさえ突ければ討伐の余地はあると踏んだ一同は、そこを起点にした作戦を練ることとした。
といっても単純至極、大勢の探査者が囮となってやつの目をひきつけている間に、本命となるパーティで接近。一撃必殺を念頭にした、大攻勢を仕掛けるのだ。
囮となる、と言ってもあくまで無理しない範囲でだ。命を懸けるとドラゴン相手だ、途端に死屍累々となりかねない。とにかくそうした人たちと、それとは別に最大火力で一気にやつを打ち倒す、本命のパーティ。
ここが、この作戦の肝だった。
「私、御堂ちゃん、公平ちゃんは確定として……あと一人二人は欲しいさねえ。火力があればなおよしだが、なければないで、あのトカゲのところまで私らをなるべく、安全な形で誘導できるサポーターが良い」
「無茶言うよな、このS級……」
マリーさんの言葉に思わず、最前列のおじさん探査者がぼやいた。その近くの人たちも、顔を引きつらせている。そりゃそうだと、俺も内心、頷いた。
どう考えてもヤバい役目だ。あんな危険生物の懐にまで人を三人、温存させたまま案内できるサポーターなど早々いない。
何しろ、一挙手一投足が災害めいた化け物だ、相手は。
それを回避するスキルにしろ、気取られないスキルにしろ、現場まで俺たちを案内するスキルにしろ……どれか一つでもあればその人は、名のあるサポーターとして引っ張りだこだろうさ。
ましてや、もし、それらのスキルをすべて持つ探査者がいるとしても。まず間違いなく現地での決戦に巻き込まれた時、犠牲になってしまう。
サポートスキルに特化した結果、戦闘力が低くなる探査者は少なくない。
通常のモンスター相手ならばそこを他のメンバーでフォローするのだが、こと今回、S級モンスターであるドラゴンを相手するのにそこまで手が回る保証などどこにもないのだ。
さすがに無理のある要求だ。静まる一同に、諦めの空気が漂い始めた中。
二人、手を挙げる者がいた。
「あの……私、たぶんやれます! サポーターとしてのスキルなら、誰にも負けません」
「案内を務めた後のこの子を保護して退避するのは、私がやります!」
「逢坂さん!? 望月さん!?」
まさかのE級探査者の逢坂さんと、その師匠でありD級探査者の望月さんだ。二人とも、決意に漲る眼差しで佇んでいる。
そう言えば、逢坂さんはサポーターだったはずだ……それも極端なまでに特化した、自衛の手段すら持たないほどの。
香苗さんが訝しむように、彼女らへと問いかけた。
「失礼ながら……ドラゴン相手ですよ。生半可なスキル、レベルでは案内役も務まらないかと思いますが。自信の根拠はあるのですか?」
「はい。レベルはともかく、スキルは……こちらを見てください」
「併せて私のもどうぞ。この子をバックアップしてきた、コンビネーションには自信があります」
そう言って逢坂さんと望月さんは、自身の探査者証明書を提示してきた。
名前 逢坂美晴 レベル38 ランクE
称号 隠者
スキル
名称 気配感知
名称 気配遮断
名称 ステルス迷彩
名称 煙幕
名称 周辺把握
名称 デコイ
名称 消音
名称 隠密行動
名前 望月宥 レベル83 ランクD
称号 防人
スキル
名称 防御結界
名称 俊足
名称 身代わり
名称 気配遮断
「……こりゃまた、極端なスキル構成しとるね、お嬢ちゃん」
「運動音痴でさえなければ、いくらでも戦闘用スキルを取るのですけど……」
「この子、山の中を10メートル歩くだけで両足を挫くくらいなので」
「むごい」
前から運動が苦手なのは聞いてたけど、そこまでなのか逢坂さん……ああ周囲の哀れみの視線に顔を赤くしている。この空気はこれはこれで辛いよな、きっと。
にしても、マリーさんの言うようにいっそ、清々しさすら感じる極端なスキル群だ。普通のサポーターが二つ三つ、それ系のスキルを持つようなものを八つも備えていて、しかも他には何もない。
称号の《隠者》ってのもたしか、隠れている時に見つかりにくくなる効果を持っていたはずだ。となるとこの子、とことんまでサポートに全振りしてることになるんだな……本人は望んでないようだけど。
「そしてそっちの嬢ちゃんが、この子の護衛かい……《防御結界》ってのは、また珍しい」
「一時間に5分だけ、あらゆる外部からの衝撃をシャットアウトする結界を張れます。これで美晴ちゃんを護りつつ、俊足によるスピードで戦闘領域から二人、全力で離脱します」
「ふむ……レベルが低すぎるのがどうも気にかかるが、ねえ」
こればかりは少し、マリーさんも悩むようだった。なるほど、スキルこそこの場に適した優秀さだけど、単純にレベルが低すぎて危うい。
ドラゴンに気付かれて反撃でもされたらそこで終わりだ。いかに防御に長けた望月さんがいたとしても、リスクはあまりに高い。
「おねがいします! 私たちも、私たちにできる限りを尽くしたいんです!」
「かつて、私が助けられたように……今度は私が、誰かを助ける番と信じています! 助けられる力が、私たちにはあります!」
強く訴えかける二人。そこに宿るのは、探査者としての誇りと情熱、使命感。
何より人を助けたい、救いたいという純粋な想いだ。
それを受けてマリーさんは、深く悩んでから。
「……四の五の言ってる時間もないか。悩む分、人々の暮らしが破壊されていくなら……不甲斐ないが、嬢ちゃんたち。力を貸してくれないかね」
しばらくして、そう、告げたのだった。
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