サークル?あぁもうじき滅んじゃう、あの……
昼食を食べて満腹になったところでまた、シリアスな話になるわけだけど……さすがにそこまで時間はかけないつもりだ。
何しろ満足感から若干の気怠さもあるし、なんならもう帰ってのんびり過ごしたい感まで出てるし。向かい合う織田だって酒までしこたま呑んでるんだから、そろそろお開きに向かっていきたいとは思っているだろうからねえ。
「と、いうわけでちゃちゃっと済まそうか。まずはソフィアさんからの質問の続きな──"概念存在の中でも、特に現世に対して働きかけそうな勢力があれば聞きたい"とのことだけど。さっき言ってた散発的にちょっかい出してるような連中のことまで含めての聞き方だろうな、これは」
「ふむ? 一応聞きますが、ソフィア・チェーホワはなぜそのようなことを?」
「あなたの制止さえ振り切って仕掛けてくるような連中なら、先に把握しておけば対応も考えていけるってことらしい。行動範囲さえ分かれば、決め打ちめいたエージェントの配置もできるだろうからね」
ソフィアさんの質問を投げかけ、そこに秘められた意図さえも過不足なく伝える。
WSO統括理事たる彼女としては、いかに北欧神話の大神が動いてくれているとは言え任せきりにはしたくないというのが本音なんだろう。
あるいは織田の制止についてはあまりあてにしておらず、あくまでシステム領域とのパイプ役としてしか見ていない可能性さえあるかもしれない。
いずれにせよ、能力者犯罪捜査官の定義の件でも分かるように初手から概念領域の横槍については想定していたソフィアさんとヴァールにとっては、人任せならぬ神頼みなんてする気は毛頭ないという意志が強く感じ取れたよ。
「くくくっ……さすがといったところですかね、かの統括理事も。彼女のような存在が現世を取り纏めている限り、生半な概念存在では現世にちょっかいをかけたとて、立ちどころに返り討ちに遭うだけでしょう」
「"大ダンジョン時代の守護者"、"永遠の探査者少女"……彼女を指す二つ名はいくつかありますが、そのいずれも誇張抜きに相応しいものであるということですね。まさに彼女こそは、大ダンジョン時代の守護者なのです」
織田が感嘆とともにソフィアさんを讃えれば、香苗さんも敬意をもって肯定している。
彼女と、ヴァールと。2人で一つの統括理事であり、100年続いた大ダンジョン時代を牽引してきた偉大なる守り手。改めて俺も、彼女達の功績の大きさに敬服するよ。
妹と、その相方さんが褒められているのがよほど嬉しいのだろう。
シャーリヒッタもリーベも誇らしげにうなずき、満面の笑みでヴァール達を自慢している。
「へへへ、スゲェだろソフィアもヴァールも!」
「誰も知らないところでずーっと、ずーっと頑張り続けてきた二人ですからねー! 素敵、素敵!」
「ソフィアさんとヴァールが創り上げ、そして数多の実力ある探査者を育て上げてきたこの時代と世界。いかなる概念存在が来ようとそうそう当たり負けることはないだろうね」
もちろん、俺だって敬意を払って彼女らを賞賛する。
わずか100年でここまでオペレータを世界に浸透させてくれたこと、そしてコマンドプロンプトをして驚嘆に値するような実力ある探査者を多数、生み出すだけの土壌を作り上げてくれたこと……
その果てに三界機構をも打倒できるほどの存在が出てきてくれたこと。それらすべてが、ソフィア・チェーホワとヴァールが二人がかりで生み出した、かけがえのない世界の至宝なのだ。
そうした想いの籠もった言葉に、織田もなるほどとうなずき微笑んだ。
さすがに酒ではなくお茶を呑んでいて、ティーカップに口をつけると、やがて彼は切り出した。
「それらの言。いくらかはあなた方のものとは伏せ、私の所感としてあらゆる概念存在に伝えます。さすればさすがに、今に至るまで少々ながら現世に手を出していた連中も大人しくなるでしょう」
「っていうか、そもそもちょっかい出してるって具体的には何してるんだ? まさかサークルの悪魔よろしく、人間に力を与えたりやしてねえだろうな?」
シャーリヒッタが鋭く問いかけた。午前中の話し合いの中、サラッとだけ現世に多少、ちょっかいをかけている神話があったりするというのは言われていたけど……具体的に何をどこまでしているのか。
人間に力を与えている、とまではいってないはずだ。そこまでやってたら多少どころじゃないし、織田の口ぶりからもまだそうした行為には手を付けていなさそうというのも感じるし。
ただ、別の形でなんらかの干渉を行っている可能性はある。
そうした危惧まで含めての質問に、織田は首を横に振り、軽い調子で答えた。
「いえいえ。あくまでアバターを使って、観光を兼ねて調査めいたことをしている程度ですね、それもごくごく僅かな数が。大きな介入などはさすがにしていませんとも」
「だけど、サークルに力を与えた悪魔のやり方に感心はしている、と」
「ええ。ですのでそこは私が止めておくのです。どのみちもうじきサークルは滅ぶのでしょうし、それも踏まえて説得すれば思い留まるでしょう。繰り返しになりますがやはり誰も、わざわざ対岸の火事に首を突っ込みたくなどないのです。精々が野次馬しに行くくらいでね、くくくっ」
愉快げに笑う織田。もうすっかりサークルなどは崩壊が確定したものと見ているらしい。
たしかに……人間に力を貸すとこうなるよつって、現在進行系で倒されていくサークルと与する悪魔が現世にはいるわけで。説得材料としてはこれ以上ないよなあ。
というか概念存在達、観光みたいなことしてるのか。
お忍び旅行みたいなノリで、ついでに調査も兼ねている程度の干渉ならたしかに大事にはならないだろうけど……意外とアグレッシブな神々もいるもんなんだなあ。
日本の神々は引きこもってるらしいから、やはり神話ごとの性格の違いというのもあるんだろうね。
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