大ダンジョン時代が終わっても、世界は変わらず続いていくよ
遅れました、すみません!
一般人に契約の範囲で力与えて犯罪させるね。これなら能力者犯罪捜査官もやりにくいだろ──などと、悪魔側が思っていたのかどうかは定かではないけれど。
仮にそうした目論見があったとしても、特にWSOとしては態度を変える理由などないらしかった。それこそこんなこともあろうかとってなノリで、能力者じゃないけど能力者並にやらかせちゃう相手に対しての対策はあらかじめ打たれていたのだ。
織田が呆れたように、今ここにいない統括理事にコメントした。
「そこまでやりますか……対象が表舞台に出ることのない類だから良いものの、恣意的な運用次第では独裁めいたことさえしてしまえるでしょうに」
「能力者犯罪捜査官が初めて設置されたのは92年前の能力者戦争終結後、国際探査裁判所が創設されると同時でした。おそらくは能力者の強大さ、そしてそれが悪意ある犯罪行為に加担した時の危険性に対する危機感は昨今と比べものにならない時代だったと思われます」
「ハハーン、やるじゃねえかソフィアにヴァール! それに乗じてどさくさ紛れにこんな文言つけて能力者犯罪捜査官の適用範囲をしれっと広げてたってわけだな! 概念存在の干渉も、アイツからすりゃあ普通に警戒対象だったってわけだ!」
シャーリヒッタが会心の笑みを浮かべる。90年もの昔に、すでにこうなることを読み切っていた妹達を誇りに思うかのように鼻高々って感じだ。
能力者を用いて行われた大戦争終結後の、ある意味一番、能力者に対しての風当たりがキツかっただろう頃合いに……あの子やソフィアさんはそれでも未来に起き得る問題をしっかり見据え、万一に備えていたんだ。
いつか必ず、概念存在が人間に対して何かを仕込む時が来る。
いつか必ず、能力者ではない超能力者が何かをしでかす時が来る。
その時、探査者社会となっているだろう大ダンジョン時代の秩序を護るためには、能力者犯罪捜査官の行動原理を大きく解釈できる余地が必要なのだと。
そう、信じて文言を仕込んだわけだね。
本当に、偉大という言葉さえ陳腐に思えるほどの功績だ。
帰ったらすぐに連絡を入れて、2人に改めて感謝を伝えないとな。
「ソフィアさん、ヴァール……大ダンジョン時代の守護者は、いろんなところから今のこの世界を護るための手を尽くしてくれているんだな」
「くくく……概念存在としてはここまで警戒されているというのも複雑ですが個人的には敬意を払いますよ、かの統括理事には。これで一部の概念存在による、余計な行動に釘を刺す大きな理由ができました」
「あれ? 織田さんも、もしかして概念存在が人間に干渉するのには反対派なんですかー?」
織田もまた、ソフィアさんとヴァールの用意周到さには驚きつつも見事と言うほかないようだ。苦笑いなどこぼしつつ、軽く拍手などしてみせる。
と、そんな言い分にリーベがおや? と質問した。サークル側の悪意が今回用いた、契約による非能力者強化法について、否定的な色を見せたのが気になったんだね。
いくら静観しているからって概念存在も、いつまでも永遠に見ているだけってのは考えにくい。何かしらのきっかけやうまい方法があるならそれを使って、現世に介入したいとは思っているはずだ。
実際、織田だって俺の出現を機に動き出したも同然だしな。そんな彼がしかし、委員会流のやり方には同意しないでいる理由。
ワインで喉を潤しつつ、彼は微笑みとともに答えた。
「大半の概念存在はやはり、それでも静観を選ぶでしょうからね。向こう数百年ほど待っていれば勝手に終わる騒動に、わざわざ首を突っ込む理由はまずありません。私も同じ思いですとも」
「なんかこないだもそんなこと言ってたな。たしか、概念存在の中でも叡智に関わるモノ達の見立てなんだっけ」
「ええ。コマンドプロンプト、あなたから得たヒントを元に真相に辿り着いた今の私からしても彼らは偉大ですよ……少なくともダンジョンとモンスターが消滅する時期について、ほぼ自分達だけで正解を導き出していたのですから」
そりゃすごい。ほとんどノーヒントだろうによく、大まかにでもモンスターこと異世界の魂達がすべて輪廻に還るタイミングを読めたもんだ。
おそらくはここ100年で魂の総数が増加し続けているから、そこからある程度予測したのかもしれないけど……あるいは寄り集まって権能をフルに使って導き出したのかも。
いずれにせよ概ね当たりだ。
システム領域的には邪悪なる思念を倒し、最終スキル《攻略! 大ダンジョン時代》を発動した時点で大ダンジョン時代には一区切りがついており、今や復興の時代とも言うべき状態なんだけど……
そんなこと知る由もない現世や概念領域的には、ダンジョンとモンスターが消滅しない限りは大ダンジョン時代が続いているわけで。
そういう意味での時代の終わりは、まさしくあと数百年はかかるだろうってのが俺の見立てでもあるね。
「大ダンジョン時代が終わる日、ですか……想像もつきませんね。そこから先の人類はどうなっていくのでしょうか。もちろん私はその頃には死んでるでしょうけど、なんだか気になりますね」
香苗さんが遠く、想像もつかないような未来に想いを馳せた。その言葉には希望のような、期待のような、それでいて不安のような複雑な響きが篭っている。
大ダンジョン時代が終わってから、先の人間社会……か。さすがにどうなるかは予想もつかないなあ。未来ってほら、無限大だから。
なんだかんだいろいろありつつも、それでも前に進んでいけるのが生命なら、きっと良いことも悪いこともひっくるめて人類も先に進んでいくんだろう。
これまでもそうだったように。これからもそうなんだ、きっと。
それを見守る俺はその時きっともう、私に戻っているだろうけど……
いつかの巣立ちに向かって進む未来を、優しく見守っていけたら良いなって思うよ。
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攻略! 大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど
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