お前たちを狂信者にしてやろうか
関口くんから勇気をもらって、俺はいよいよ始まるドラゴン退治の最前線にいた。あの後すぐ、病院へと搬送された彼だけど、スキル《勇者》の力はこの身体を強化し続けている。
ありがとう、関口くん。君の分まで、きっと戦い抜くよ。
自治会館の窓から敵を見る。ドラゴンはあいも変わらずのんびりした様子で、つい先程からは暇つぶしか、その辺の目に映る建築物を叩いては潰している。
その度に大地震が起こって周辺の家屋が崩れていくのだから、見ているだけで腹立たしい光景だ。
「作戦を練るよ、公平ちゃん。適当に群がって突っ込んだってあんなもん相手じゃ、勝負になりやしない。ちゃんと連携するのさ。ツアーの経験を活かすと思えば気も楽さね? ファファファ」
「マリーさん……」
S級探査者、マリーさんが怒りに震える俺をなだめた。気楽に笑うその顔は、歴戦の余裕と、年長者としての気構えに満ちている。
そう、今から探査者を総出でかき集めた作戦会議を開くのだ。かつてドラゴンを相手取った経験のあるマリーさんが音頭を取り、リーダーはA級トップランカーの香苗さんが務める。
三十年以上前に退治したというドラゴンと比較して、マリーさんは言った。
「幸いにしてありゃあ、かつて仕留めた個体に比べて幼体も良いところだ。S級をかき集めて死地に送るような真似せんでも十分に戦える。そしてそれにはもちろん公平ちゃん、あんたが必要なのさ。さあ、行こう。会議さね」
そう、俺の肩を叩いて促してくる。俺も頷き、会議室に入った。
広々した部屋に所狭しと椅子が置かれ、ほとんどを埋める勢いで探査者たちが座っている。ツアーで見た顔もいれば見ない顔もいる。
そういえば鈴山さんが、近場の探査者をかき集めたとか言ってたな。それゆえのこの大所帯なのだろう。
とにかく俺も席につく。マリーさんに促されるまま、香苗さんの隣だ。何人か、列前の人たちが訝しげに俺を見ては香苗さんと見比べ、ああ……と何やら納得した様子でいる。
例のチャンネル見たな……とこちらも納得していると、そのうちに会議は始まった。
「大概揃いましたね? それではこれより、県境に突如現れたドラゴンを討伐するための、対ドラゴン会議を開きます」
「ここでのリーダー及び司会進行は御堂ちゃん──御堂香苗。アドバイザーにはこの私、マリアベール・フランソワが務めるよ。ファファファ、よろしく」
香苗さんとマリーさんが口火を切る。何はともあれ状況説明から入らないと、この手の会議は始まらない。
探査者ツアーの最中、なぜかE級ダンジョンに例のドラゴンがいた。という、初っ端から恐ろしく肝心なところを省いているが、これはマリーさんと香苗さんの判断によるものだ。
邪悪なる思念云々の話を今したとて、余計な混乱を招くだけだと省略されたのだ。
ドラゴンはダンジョンを崩落させてでも地表に出ようとしていたので、居合わせた探査者たちは、咄嗟の機転でダンジョンそのものを消失させ、それによるドラゴン消去を目論んだ。
しかしなぜか──ここについてはそもそも俺以外、誰も理由を知らない──ドラゴンは健在で、地下を吹き飛ばして地表に出てきた。そして今に至る。
「どうしたわけかドラゴンは未だ、大した破壊行為にも出ずにいますが、いつそうなってもおかしくはない状況です。今、ここで。我々は一致団結して打って出て、やつを討伐しなければなりません」
「しかし、具体的な方策はあるのですか? 正直ドラゴンだなんて……悔しいですが、我々のような下級探査者には手に負えません」
探査者の一人が悔しげに言う。この人も、きっと自分に力があるならば今すぐにでもドラゴンを討ちたいのだろう。破壊される町並みを見る探査者の目は軒並み、怒りと悲しみとやるせなさに満ちていた。
だが現実問題、あのドラゴンに少しでも有効な攻撃を行えるだけの力を持つ探査者は残念ながら、この場にはほとんどいないのだろう。あの硬い鱗は、俺のフルパワーでようやく砕けたほどなのだから。
そう、砕けたのだ。
「あのドラゴンは既に、負傷しています」
香苗さんのその言葉に、ざわりと場が揺らいだ。
思わぬ発言だったのだろう、誰もが窓から外、遠くにいてもなお巨大な竜の胴を見る。たしかに立派な姿だが、そこには明確な弱点がある。無理矢理弱点に仕立てた俺にのみ分かる、その位置。
「不自然に鱗のない、皮膚だけの箇所がいくつかあります。あれこそは我らの救世主、山形公平様がたった一人、やつをダンジョン内にて食い止めていた時に与えたもの」
「救世主……山形公平……って、あんたの推しじゃねえか」
「こんな時までカルト勧誘かよ!」
「失敬なことを言わないでください! 本当のことです、証人もいます!」
普段の行いぃ……香苗さんが俺について言及した時点でもう既に、探査者の皆様は呆れ返ったような顔をしている。さもありなん、俺だってその立場ならそーする。
だがこと今回に関しては明確な証人がいるのだ。香苗さんに呼ばれ、中島さんが立ち上がった。
「本当のことです、皆さん。俺は、彼、山形くんが一人でドラゴンと渡り合うのを見た。恐ろしく硬そうなあの、鱗を。拳から出した衝撃波で打ち砕いていくのを」
「衝撃波……おう、それなら知ってるぜ!」
「昨日の午後に一緒に探査した時に見たな。ありゃあとんでもない威力だった」
続き、奈良さんと新田さんも挙手をして発言する。何なら鈴山さんや掛村さん、高木さんもうんうんと頷き、周囲の探査者たちに向け、香苗さんの言葉が嘘でないことを説明していく。
この場の面々も次第に、疑わしいながらも一定の信憑性を感じたようだった。
「マジで出したのかよ、衝撃波……」
「それで鱗を? 砕いた? 信じられない……」
「御堂の例のチャンネルの動画にもあったな、そういや……まじかよ、狂人の捏造動画じゃなかったのか」
「何たる言い草! 伝道して差し上げましょうか!!」
何やら煽られて香苗さんがキレた。伝道するってなんだよ。
と、とにかく、これでドラゴン突破口は見えたわけだな。
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