スキルがないなら、悪魔と契約すれば良いじゃない
委員会が俺を狙って来ている、という話もそれなりの信憑性をもって受け止められる中、ともあれ委員会周りについての説明は終わった。
ここから先はこれからの話だ。こうした現状を踏まえ、俺達がどう動いていくかを論ずる段になる。
結論から言って、と織田は先んじた。
「概念領域の大半は変わらず静観です。私がそうさせます。これ以上不確定要素が混入するのは、そちらとしても困りましょう?」
「間違いない。助かるよ」
「そもそも先程も申し上げた通り、委員会の動きそのものが半ば概念領域にとってはウォッチング対象ですからね。わざわざ代わりに現世にちょっかいを出してくれているモノどもがいるのに、わざわざ自分までルビコンを越えたいと思う輩はそうはいませんとも」
くくく、と含み笑いなど漏らして嘲笑を浮かべる織田。その対象は言わずもがな、委員会に与する概念存在だね。
うーむ、こうして考えると委員会側についているモノ達は、かなり掌で踊らされてる感あるな……
自分達の意志で参画したんだろうし、概念領域にとってイレギュラーな状態であるのはたしかなんだろうけど。それはそれとして逆手に取って観察対象として見なすなど、静観派の柔軟な思考が怖い。
あるいは向こうもそうしたスタンスには気づいていて、だからこそ変な横槍がないと安心しているところはあるかもしれない。
互いに互いの損得を推し量りつつの様相。一枚岩じゃないのは知っていたけど、なかなか複雑だねえ。
「ああ、ですが山形公平。先ほども言いましたが、いくつかの神々や悪魔達は少しばかり現世に干渉しています。こちらも制止しておきますが、先んじて報告だけしておきます」
「ああ、分かったよ頼む。しかし、静観してるだけじゃやっぱり埒が明かないって考えてるのかな」
「それもありますが……サークルに与している悪魔のやり口が有効かもしれないと思われていることも関係しています。連中の干渉方法、ご存知ありませんか?」
織田の言葉に一同、顔を見合わせいやいやと首を左右に振る。
サークルに介入している悪魔のやり口? それを見て、いくつかの概念存在が限定規模ながら模倣したい、とでも?
なんだそりゃ。何があるんだサークルに。
一応、ここに至るまでソフィアさん経由でいくつかサークルについての報告、特にアンジェさんチームからのそれを報せてもらったりはしたけど……悪魔が関与している割には特に不可思議な表現もなかった気がして、拍子抜けした記憶があるんだが。
戸惑いながらも、北欧の大神へと説明する。
「現地ですでにサークルと戦っているチームからは、特に違和感のある報告は受けてないみたいだぞ。普通に能力犯罪者と戦って、普通に着々と捕まえてるみたいだ。捕まえた犯罪者のその後については、あらかた調査が済んでからの報告待ちらしいけど」
「能力犯罪者でないとしたら?」
「…………何?」
「その報告にある能力犯罪者とやらが、くくくっ。そもそも能力者でないとしたら? 能力者を装えるほどに、A級探査者であるアンジェリーナ・フランソワやシェン・ランレイの目さえ欺けるほどに強化された、非能力者だとしたら?」
あからさまに面白がって話す、その内容は戦慄のものだった。同時に何が言いたいか察してしまい、思わず立ち上がる。
通常、非能力者が能力者相手に真正面からぶつかることができるなんて考えにくい。
レベルもあればスキルもある、称号効果によるフォローさえ受けているオペレータに、それらを持たない者が太刀打ちできないのが自然だからだ。
だが、ある程度の段階までなら方法はなくもないのだ。この世界に元々ある超自然的な力、オカルトとかスピリチュアルにも分類されるようなパワーを操れる者には、戦闘力だけならD級なりE級なり程度までは自力で賄えなくもない。
たとえば陰陽道とか。あるいは超能力とか。星界拳が極まった時に放たれる蒼炎なんかも、その分類に入るだろう。
あの炎自体は、リンちゃんやランレイさんのお兄さんであり非能力者であるハオランさんも出せるみたいだからね。
そうしたこの世界特有の特殊能力は、多くの場合概念存在とのなんらかの交信をもってもたらされることが多い。
特に悪魔の場合など、巷にもよく聞かれる話があるだろう──俺は自然と厳しくなる顔でもって、織田に確認した。
「まさかサークルの構成員の中には、悪魔と契約を交わして超能力を得た、非能力者もいるのか。能力者に誤認できるような力を、彼らは悪魔から受け取っているとか?」
「その通り。ダンジョンコアの調達は在籍する能力者部隊に任せつつ、外部組織への働きかけやダンジョン外での暴力行為などについては悪魔と契約を交わした非能力者による部隊が行う。そういう組織形態だそうですよ? 悪魔王が何やら独自に調査していたようで、感心しながらも種明かしをしてくれました」
概念存在は概念存在でやはり調査をしているようで、彼らにとってはどうでもいいだろうサークルそのものの実態さえ把握済みみたいだ。
しかし、やはりか……首都圏での活動から考えても、犯罪能力者の数が多すぎるとは思っていたんだ。
まさか外向けの実働部隊については能力者ですらない、悪魔から力を授かった非能力者だったなんてなあ。
「いやはや、我々もなかなかに感心させられましたよ。強化したところで大したことはないものの、ステータスを持たないながら上級探査者相手に悪あがきできるほどには強化を施しているみたいですからね」
「そんなことが……可能なのですか!?」
「可能です、香苗さん」
心底から感嘆する大神。一方で香苗さんが驚きの声を上げたのを、俺は肯定した。
できちゃうんだよ、そのくらいなら。いやおそらくは悪魔の権能をフルに使っての無茶だろうけど、現世に直接介入しない形で手をいれるという範囲ではおそらく、最大規模のやり方だ。
悪魔との契約──古くからある話だけれど、人間は己の持つ何かを代償に悪魔によって願いを叶えてもらえる。
悪辣に解釈を捻じ曲げられているパターンもなくはないにせよ、意外と彼らの仕事ぶりは誠実なものが多くて大体の場合はキッチリ願いを叶え、キッチリ対価を受け取っている逸話が多い。
これは逆に言えば"対価を受け取ればそれに見合った権能を行使できる"というある種の因果操作と言ってもいい。
受け取る対価が大きければ大きいほど、悪魔側も行使できる権能が大きくなるわけだね。
そして今回、その性質をもって悪魔は非能力者を強化した。
その人の何か、それなりに大きなものを対価として受け取り……下級相当ながら探査者に匹敵するだけの強さを授けたのである。
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