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なんか……飲むと詩人になれる酒が入ってそうな水瓶だな……

 席に座り、少し息をつく。高級そうなテーブルの周り、これまた豪華な椅子に俺とシャーリヒッタが並んで座り、その左右側面にはそれぞれリーベと香苗さんが座る。

 織田が座るだろう対面の向こう、窓から見える景色がすっごい綺麗だ。我らが県の代名詞であるでっかい湖がよく見えるよ。

 ある種のオーシャンビューってやつだね、いやレイクだけども。

 

「すんごい景色……」

「見晴らしがいいでしょう? この部屋の、ここから見る景色が最も素晴らしいものだったので謁見の間としました。私個人の部屋もこれに勝るとも劣らずの素晴らしい見晴らしの良さで、なかなか気に入っていますとも」

 

 言いながら織田が、コップを人数分とジュースの入ったでっかい水瓶を持ってきた。

 いや水瓶て。中身は匂いの甘さから察するにアップルジュースとかだろうけど、容器がどことなく古びた、それでいて現世にない異質なものを感じさせるよ。

 

 これは……これだけは概念領域から持ち込んだものだな。

 興味を持って織田を見れば、彼もまた席について微笑んだ。

 

「お気に入りの品だけはいくつか、概念領域から持ってきています。新しいものに目がないと自負する私ですがそれはそれとして、やはり昔からの思い入れというのも大事にはしていきたい」

「なるほど。にしても、良い水瓶だなあ」

「元々はドワーフの製作物でしたが、紆余曲折を経て私が手にしました。元々は酒などが入っていたのですが、くくく……飲み干してしまいましたよ」

「そ、そう……」

 

 酒瓶を使い回すような話だけど、たしかに使い捨てるには惜しい見事な意匠、それに力を感じる容器だからね。仕方ないよね。

 それにドワーフとか、当然のようにファンタジー世界のワードが飛び出てきたよ……改めて目の前の彼が北欧神話の大神、オーディンであることを納得させられる。

 

 ともあれコップにジュースを注ぐ。織田はワインだ、こいつだけ酒盛りかよ怖ぁ……

 全員に飲み物が行き渡ったあたりで、彼がさて、と声を上げた。

 

「話し合いを始める前に、改めて名乗らせていただきましょうか。私についてはすでにご存知のようですが、一応ながらね」

「あ、じゃあ私達も名乗りませんとねー。公平さんとミッチーは先に名乗ってますけど、私達はまだですしー」

「名前も知らねえ相手と会談は難しいもんなァ」


 元から知り合いの俺や先ほど、成り行きで挨拶した香苗さんはともかくリーベとシャーリヒッタは未だ、織田に対して名乗ってないからね。

 織田のほうもそれでは座りが悪いのだろうし、こっちだって落ち着かないし。というわけで織田からコホン、と軽く咳払いをして、改まっての名乗りを行う。


「概念領域は北欧神話圏において最高神の役割を果たしております、オーディンと申します。現世では織田、と名乗っておりますのでどうぞそのように呼んでくだい」

「精霊知能リーベちゃんでーす! 現世ではリーベ・山形として公平さんの義妹してまーす! 織田さん、どうぞよろしくお願いしますー」

「同じく精霊知能、シャーリヒッタだ! 現世ではシャーリヒッタ・山形だぜ! 偉大なる父であるコマンドプロンプトの盟友よ、以後よろしく頼むぜ、織田!」

「リーベに、シャーリヒッタですね。よろしくお願いします……ふむ。精霊知能とは。創造神から多少伺っていましたが、なるほどなるほど」

 

 三者三様の自己紹介。

 お互い最高神と精霊知能ってことでカテゴリも違うから上下関係なんかもないんだけど、丁寧語な織田は現世では誰に対してもこういう振る舞いなんだろう。


 こないだ、概念領域におけるいわゆる本体の姿を一瞬だけ見せてくれた時は威厳を前面に押し出した言動だったもんな。

 リーベやシャーリヒッタもいつか、彼の真の姿を見ることがあるんだろうか。


 そんなダンディ紳士、織田は二人の精霊知能を見て何やらふむふむ言っている。

 俺からのヒントを元に創造神へ、システム領域について尋ねに行った彼はそこから真実に到達した。世界の本当の裏側、世界維持機構と因果律管理機構という2つのシステム本体を知ったわけだね。


 その過程で精霊知能についても知らされてはいたのだろう。納得した感じでうなずく。


「世界にそれぞれただ一つのワールドプロセッサとコマンドプロンプト。そしてそこから生まれる無数の精霊知能──これらが座す領域をシステム領域といい、本来であれば我々概念存在、概念領域はその存在をひた隠すためのカムフラージュだった。世界の真実の姿に今、私は直に接触しているのですね」

「カムフラージュという言い方も適切ではありませんけどー……今、こうしてリーベちゃん達が魂を持っていること自体が不測の事態による偶発的なものだとはご理解いただきたいですねー」


 どこか感動しているふうだが、そんな織田へとリーベがすぐさま訂正を入れた。

 システム領域が概念存在に期待していた役割の一つに、現世に対してこちらの存在を悟らせないための隠れ蓑というものがあったのは事実だ。だが決してそれだけじゃないというか、本来そんな役割は些末なものでしかなかったというか。


 システム領域に人格が発生していない本来の歴史ならば、カムフラージュとか考えるまでもなくシステム領域の存在は表に出なかったからね。

 やはりリーベの言う通りで、今のこの状態が極めて偶発的な、特殊な状況であるのだとは思っていてほしいところだった。


「概念存在の役割は昔と今とで何も変わっちゃいねーさ。仕方ないとはいえ、オレ達が横槍入れる形になったから入り組んだ話になっちまってるけど、あんたらはあんたらで変わらず現世に対して接していれば良かったんだよ、本来」

「そうですね……大ダンジョン時代という現世の大きな動きに惑わされ、軽率に動いた結果見事に虎の尾を踏んだ連中を見ていれば余計にそう、思えますよ」

 

 シャーリヒッタの指摘に肩をすくめて苦笑いする織田。

 虎の尾を踏んだ連中……どう考えても委員会に絡む概念存在達のことだね。

 少なくとも織田から見て、かのモノ達は恐ろしく軽率な振る舞いをしたとの認識らしかった。

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[一言] 北欧神話圏には今もドワーフはいるのかな?
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