北欧神話最高神、現る!
普通にマンションの一部屋まるごと指しての謁見ルームとやらに入る。玄関からしてもう広いわこれ、ビビる。
ていうかなんか、赤い絨毯をフローリングの床に敷いてあっていかにもこう、今から行く先に偉い人が待ってますよ感を醸している。
怖ぁ……思ってたより本気目に謁見ルームじゃん。
「靴は玄関口にてお脱ぎくださいませ。スリッパをただいまご用意いたします」
「あ、どうもです」
「そこは日本式なんですねー。海外だったら家の中でも、靴のままってイメージありますけどー」
イヴさん、ダグルさん、ノットさんの3人が俺達に促しつつ、いそいそとスリッパを用意してくれる。
それを見たリーベが思わずって感じでつぶやいた通りで、俺としてもなんだか意外な話だ。
北欧の、それも概念領域がどうなってるんだかは知らないけどなんとなし外国って、靴履きっぱなしで家の中で過ごしたりするよね。
だから日本で滞在する際でも自分とこのテリトリーだとそうするのかなって、だからわざわざマンション一階層まるごと買い取ったのかなって思ったんだけど。
どうやら違うみたいだね、イヴさんが微笑み、答えてくださった。
「我々の本来の領域ではたしかにそうですが、ここは現世領域でしかも、他の神話的に関わりの薄い土地ですので。我らが偉大なる大神オーディン様はそのことを鑑みられ、滞在の際はこの国の文化伝統に倣うべしと仰られております」
「それは……なんだか嬉しいですね、日本に住む者として。いえもちろん、そちら様の家のことですのでご自由にされるべきとは思っていますが」
「郷に入れば郷に従え。ローマにいる時はローマ人のように振る舞え──現世の格言ですね。蓋し名言なりと、オーディン様も仰せです」
「理解のある方なのですね……」
感心して香苗さんが言うのを、俺も同じ気持ちでうなずいた。オーディン……現世ゆえに織田と言うべきか、彼はとても柔軟で寛大な考え方をしているらしい。
最高神クラスにまでなるとやっぱり、踏ん反り返っていてもおかしくないイメージなんだけど。彼は各地の文化や伝統に対して敬意を払い、ある程度の尊重を示し、現地にいる間はそれに恭順さえしてみせると言うのだ。
そもそもが知的好奇心の強い性質の神らしいから、気の向くままにいろんな物事を調べ、実際に訪れたりして、多くのことに触れてきたのだろう。
そうした経験が開明的な思想を彼にもたらしたのかも知れない。概念存在だって知的生命体なんだ、新しいものに触れれば感じ方、考え方だって影響を受けること、成長や進化を遂げることだってあるだろうしね。
そうしたところは現世領域も概念領域も、システム領域でさえも変わりやしないってことだった。
さておきスリッパも履いたし靴も綺麗にみんな揃えて並べた。いよいよ謁見ルームを進む。
通路一つとっても本当にマンション? ってなる幅の広さと長さだ。途中に部屋もいくつもあったりして、普通に俺の家より広そうだ。
うーむ、何度目かになるけどブルジョワジー。こんな良い部屋を一つ丸ごと、謁見ルームなんて用途で使うのがスケール違うよなあ。さすがは大神、やることが違うわ。
「着きました……こちらのドアの先にて、オーディン様がおわします」
通路の突き当たり、ドアの前まで辿り着いてイヴさんが俺達に示した。一際強い概念存在の気配はたしかに、このドアの奥から感じられるね。
さすがにリーベやシャーリヒッタ、香苗さんもここまで来ると硬い表情だ。初めて会う概念存在、それも北欧神話の大神に緊張を禁じ得ないんだね。
軽く彼女らの背中を擦って、俺は落ち着くように宥めた。
「大丈夫。大神は味方だ、不安がらなくて良い。それに前も言ったけどとても理知的でかつ、聡明な方なんだから。失礼なことをしなければ何も問題ない」
「────くくく。なんとも過分なお言葉ですね、山形公平。あなたにそうまで言われるのは、恐縮という感情を抱かざるを得ません。我ながら、珍しい話ですが」
「む……」
「ドアが、ひとりでに……」
俺の言葉に返ってきたのは、身内ではなくドアの向こうにいるモノの声。愉快そうに、面白そうに語っている。
次いでドアがひとりでに開いた。香苗さんの呆然とした声をすぐそばで聞く……演出上手だなコイツ! と内心で感心しながら。
イヴさんなりダグルさんなりノットさんなりに開けさせればいいものを、わざわざ自分の権能を使って開けたぞ、これ。
まさしく俺の言葉に合わせて、大物感を演出するためだけの行使だろう。いや実際、彼ほどの大物はなかなかいないだろうけども。
「どうぞ、お入りください。レギンレイヴ、ダグル、ノット。ご苦労だった、下がりなさい……これより先の我々の話を、聞くことは決して許さぬ」
「畏まりました」
開いたドアの先、イヴさん達が促すままに入ると声の主が彼女らに命じた。
ここから先は従者のみなさんは謁見ルームを出て、俺達と彼だけになるみたいだね、三人が、部屋から出ていく。
リビング。俺の家の三倍くらい広くて圧倒されるんだけど、件の大神はその一番奥にいた。
高級そうな絨毯の敷かれた部屋、窓際にはこれまた恐ろしく豪華なテーブルやら椅子が置かれてたりして──そんな空間の一番奥のソファに座り、俺達を見ていたのだ。
黒髪をオールバックにした、30代後半くらいの男性。前に見たスーツ姿ではなく、今は休日のマイホームパパめいた青いシャツにズボンを履いている。
片手にはワイングラスなんて持って、いかにも優雅なセレブリティーだ。そんな彼に俺は、先んじて挨拶を告げた。
「こんにちは、織田……いえ、北欧大神オーディン。こないだぶりですね」
「ええ、こんにちは山形公平、いいえコマンドプロンプト。織田で良いですよ、私は現世にいる際は、オーディンとしてでなく織田としているのですから」
笑みを浮かべてのやりとり。もう三度目四度目かになるから、それなりにお互い気安いよなあ。
北欧神話の最高神、そのアバター……織田との再会であった。
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