彼女が出張るとややこしいことになる案件。だって統括理事だもの
夕飯も食べたしお風呂にも入った。あとは部屋に戻ってゆっくり休むだけだね。
今日はアイも優子ちゃんと一緒に寝るみたいだし、一人で眠ることになる。明日もいろいろあるし、早めに就寝したいところだね。
ただまあ、その前に一応ながら連絡しておかなきゃいけないところがありまして。自室のベッドに座って俺は、珍しく自分からメッセージを送信していたりする。
宛先はソフィアさんとヴァールだ。織田との面会に先立ち、精霊知能にしてWSO統括理事たる彼女達にも伝えておかなきゃなーって思い至ったのである。
『──つきましては明日、概念存在は北欧神話の最高神、オーディンと会談してきます。何か聞いておきたいこととかありますか? 代わりに質問してきますけど』
『代わりにといいますか、私もその会談に臨みたく思うのですが……WSO統括としましては、こうした話を知った以上お任せしますの一言で済ませたくないところはありますし……』
「えぇ……?」
思わずつぶやく。今、受け答えしてくれているのはソフィアさんだけどなんか乗り気だ、織田と面と向き合うつもり満々だよ怖ぁ……
気持ちは分からなくもない。大ダンジョン時代の裏側でいろいろ画策してきていたモノ達とは別口ながら、紛れもなく概念存在のトップの一体と腹を割って話すチャンスなんだ。
事態を収めるべく動いているソフィアさんからすれば、他人に任せきりにしたくないよな、そんなこと。
ふうむと考える。ソフィアさんまで絡むとなるともう、ことはシステム領域と概念領域間の話で済まず、現世まで絡めた三頭会談の様相になる。
俺としてもそれはちょっとまずいと思うし、先方である織田も望まないと思うなーってところなんだが、と悩ましい思いでいるとスマホに着信が入った。メッセージアプリに備え付きの、電話機能だ。
着信元はソフィアさん。うーん、直接会話で交渉を仕掛けてきたな、アグレッシブ。
とりあえず通話に応じる。
「はい、山形です」
『夜分遅くに失礼します。ソフィアです……あの、お時間よろしいでしょうか?』
「ええ、もちろん。というか今の話についてですよね?」
『はい。重大な話につき、やはり声を交えてのやりとりをしたく』
ヴァールと同じ声質だが、どこか無機質さの漂う彼女とは異なり豊かな感情を前面に出している。ソフィア・チェーホワ、こないだの飲み会ぶりのやりとりである。
ただ、今回は話の内容が内容だからか固さがあるな。緊張とか不安を感じる。それをも超える義務感、使命感もね。
それを踏まえた上で俺も、コマンドプロンプトとしての側面を多少表に出しながら応対していった。
「……難しいところですね、実際。元々は俺と織田、システム領域と概念領域の対談なわけですが、そこにあなたが絡むと現世領域まで俎上に乗ることになる」
『私がいようがいまいがそうなっていたとは思いますよ? あなたとかの大神の話し合いとは畢竟、数日後に控えたS級探査者認定式に現れる可能性の高いサークル、およびダンジョン聖教過激派についての情報交換の性質を孕んでいるはずです。何しろサークルにこそ悪魔が、そして過激派には異世界の神が潜んでいるのですから』
「もちろんそれはそうなんですけど、そのやりとりの中に当事者たる現世の代表者とも言えるあなたがいるのが微妙かな、と」
織田との話し合いにおいては基本、概念存在についての話をメインに聞く予定ではあったけど。
おそらくはサークルに与していると思しき悪魔、および異世界の神についても意見交換を行うことにはなるだろう。そこはソフィア・チェーホワの読みが正しい。
しかし。だからこそ彼女を交えて話すのは、毛色が変わっちゃうんだよね。だって言っちゃうと彼女、当事者だし。
こう言うとアレなんだけどサークルや過激派への対応って基本、現世の者達で行うべきってのがシステム側のスタンスだったりする。
異世界の神と一部悪魔についてはこちらでも受け持つけど、人間相手にまで出しゃばるべきじゃないってのは先日のシステム領域帰還の際、ワールドプロセッサとも話し合ったことだ。
だからぶっちゃけ、今回の話し合いもどこか第三者側というか、助っ人同士のやりとりって感じなんだが……そこに彼女が挟まると一気にメインストリームに関わる話になるんだよね。
そして、そうなると困ることになる立場の者がいたりするわけ。
もちろん俺じゃない。システム側はすでに現世にどっぷりだからね。
ソフィアさんに電話越しに、相談めいた説明を行う。
「俺やシステム領域はともかくとして、織田のほう……概念領域のほうがどう出るかってところなんです。なんせ神々は、極力現世に不干渉の方向でいますから」
『…………あっ! かの大神が"私と"交渉の場を設けたと他の概念存在に受け取られ、場合によっては神々カテゴリそのものまで巻き込むことになりかねないということですか!?』
「そうなります。なぜなら他のモノ達から見て、俺やシステム領域は"どこかのカテゴリの概念存在"あるいは"現世の探査者"に過ぎませんから。そんなところにあなたが入り込むと、それはもうあなたと織田の話し合いなんですよ」
そう。早い話ソフィアさんが出張っちゃうと、外から見た時に会談の性質が一変するんだよね。
北欧神話カテゴリと謎の概念存在だか探査者だかの対談、から……神々と現世領域の友好的接触、に受け取られかねないのだ。
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