伝道師としては絶対に参加せずにはいられない突発イベント
雑談しながら帰路に着いていると不意に、スマホが鳴動した。ポケットから出して確認する。メッセージアプリだ。
俺宛のメッセージが届いている。俺は香苗さんに一言断り立ち止まって、その場でスマホを操作した。
「……これは」
「お知り合いからですか?」
「ええ。あー、と……織田からですね」
見れば意外なモノからのメッセージ。織田……概念存在、北欧神話の神オーディンの現世での姿から、まさかの発信がなされている。
これには香苗さんも目を丸くした。周囲を見回して誰も近くにいないことを確認。それからただでさえ近かった身をさらに寄せてきて、小声で、密やかに聞いてくる。
「織田と言いますと以前、話に聞いていました概念存在の方、ですか? 北欧神話の」
「ええ。オーディン……俺の正体を知った上でいろいろ動いている、概念存在からの使者みたいなモノです」
答えながら振り返る。
織田、と現世において名乗り姿を表したその男は、当初俺について個人的な興味とあと、因果操作について警告をしにやってきたんだ。
香苗さんの実家、御堂本家に分家の方を精神操作する形で潜り込んだそのモノは、まんまと俺との接触を果たした。
ゆえに俺は彼との間に誓いを結んだのだ──自身と同格、もしくは格下に対してシステム側について話すな、と。
引き換えにシステム領域についてヒントを与えた。彼の持つ知的好奇心や知識欲を満たしつつ、概念存在側の協力者としてこちらに与してもらえるように交渉したわけだね。
まあ、彼の正体が日本でもゲームやアニメ、漫画等で有名なオーディンだとはつい最近まで知らなかったことだ。
そんな彼とは情報のやり取りのために連絡先を交換し合ってており、今回はそのホットラインからメッセージが届いた形になる。
俺は織田からの便りを確認した。
『どうも、織田です。手続きも済んでようやくあなたのいる土地のマンションに住み始めました。日本というのも住んでみればなかなかに心地が良くて良いですね。ヴァールスキャールヴやヴァルハラとはまた違う形で快適です』
「ヴァールスキャールヴ? それにヴァルハラは聞き覚えがありますけど、なんでしたっけ?」
「ともに北欧神話におけるオーディンの居城といいますか、君臨している宮殿ですね。さすがに神の宮殿と比べられてもという感じはしますが……」
「ほへー」
さすが神様、比較対象もそれっぽい。思わず間抜けな感嘆を漏らしちゃう。
神様の家と現世の一地域、一地方の土地を比べられても困るよ怖ぁ……ていうかマンション住まいっすか。なんていうか、豪華な別荘でも用意するのかと思っていたよ。なんか意外だ。
彼は現状にて唯一、概念存在とシステム領域を繋ぐ存在であるとも言える。それゆえ織田もずいぶん勢いこんで、現世に長期滞在するための手続きをするとか言ってたな。
それが済み、大手を振って正式に現世に降臨したってわけだ。もちろん俺と同じくアバター体を使って、それなりに出力を落とした状態だろうけど。
『さて、つきましては我が現世における居城にあなたを招きたいと思い連絡差し上げました。しばらく現世に腰を落ち着ける以上、改めて話をしたいですし、概念領域の様子についても報告したいですからね。あと、システム領域のこともお伺いしたく存じます』
「!! ……我らが偉大なる救世主様と、北欧神話の大神の頂上会談っ!!」
「えぇ……?」
怖ぁ……続いて届いたメッセージ相手に秒で興奮して叫ぶじゃん香苗さん。
たしかに伝道師サイドとしては大興奮ものなのかもだろうけど。宥さんやアメさんがこの場にいたらおもむろに謎の儀式が始まりそう。
まあ、いずれ近いうちに彼とは話をしなきゃなーって感じだったのでタイミングとしてはちょうどよかったな。できればS級探査者認定式が行われる前、俺が首都圏に出向くまでには一度くらいはやっておきたかったし。
いわゆる渡りに船ってやつだなーと思いながらも、俺はすぐさま返事のメッセージを送信した。
『分かりました、こちらは大丈夫です。3日後には諸用によりこの国の首都に出向くため、それまでに一度お会いできればと思います』
『それでは急ながら、明日などはいかがでしょう? あなたの家からそう離れたところではありませんし、ゆっくりと我が居城を案内したいですからね。朝から一日、互いの親睦を深めるのを兼ねてご招待差し上げたい。ご家族やご友人も連れてきてもらって構いませんよ』
「本当に急だな……まあこちらの用事に合わせてもらう以上、むしろありがたいけど」
サークルや過激派との戦いが始動するだろう、認定式に先んじて概念領域についてはもう少し、知識を入れておきたい思いはある。
だからそれまでにどうにか会えないか打診してみたところ、まさかの明日すぐ来てくれとか言われたよ。単なる親睦会も兼ねるつもりみたいだね、オーディンさん気さくだなあ。
しかも友人だの家族だのを連れてきてもいいって、大盤振る舞いだ。
まあ俺と彼、互いの正体からして事情を知ってる人しか連れていけないだろうけど。一人で行くのもなんか緊張するし、それこそリーベやシャーリヒッタあたりも同伴していこうかなあ。
……と、香苗さんがソワソワして俺をチラチラ見ている。
仲間に入れてほしそうな目と素振りだ。かわいい。
「明日なら私も空いています……公平くん! ぜひともこの伝道師めも、救世主様と神との対談の場にお誘いいただければ! ぜひにぜひに!!」
「ん……そう、ですね。香苗さんも事情はご存じですし、何より認定式の主役です。少しでもサークルや過激派の情報は仕入れておくに越したことはないかもですしね」
「良いんですか良いんですね!? ……やたっ!」
案の定、ついてきたがっているみたいで微笑んでそれを受け入れる。可愛らしく小声で喜ぶ彼女がこれまた、可愛いなあ。
せっかく友人連れてきていいよって言われてることだし、香苗さんなら安心して同伴して織田に会いにも行けるしね。
というわけで急遽ながら明日、俺は織田に会うことが決まったたのだった。
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