シン・ドラゴン
俺たちの策も虚しく、ドラゴンが外界に出現してしまった。小さな山くらいはある巨体が、のびのびと翼を振るっている。
山奥に突如として現れたモンスターに、周辺の住民はまさしく大パニックの様相だ。
「な、な、なんじゃありゃ!?」
「にに逃げて! 避難よ、避難!」
「逃げろったってどこに!?」
「いいから逃げるのよー!!」
逃げ惑う人たち。この惨状を招いたのはドラゴンだが、食い止められなかったのは俺たちだ。悔恨が募る。
だが、なぜだ? ダンジョンが消えれば、巻き込まれたモンスターも消える。前から実験や調査にて分かっていることであり、リーベですら、ドラゴンに対しても有効な手段だと仄めかしていたじゃないか。
それがなぜ、あんなにも健在なんだ……?
『わ、分かりました……! 公平さん、解析しました!』
と、リーベの声。焦ったような、口惜しげな感情を伺わせる。
どうやら一本取られたらしいな、俺たち。
『はい……! あのドラゴンは、厳密にはモンスターではありません。あくまでも邪悪なる思念が残した、肉体の一部が変質したものなんです』
「……どう、違うんだ?」
『モンスターはダンジョンに組み込まれるよう、システムさん側で紐付けしてますがアレはそうでないってことです! あのドラゴンはモンスターの振りをした……邪悪なる思念の端末です!』
絶叫に近いリーベの声。うるさいが、気持ちはよく分かる。
今の口ぶりで何となくだが、邪悪なる思念とモンスター、そしてダンジョンの関係性が見えてきた。
恐らくだが、モンスター自体は元々が邪悪なる思念によって生み出されたものなのだろう。
だが邪悪なる思念そのものではない。もしそのものなら、その辺のモンスター相手にだって特効スキルは発動するはずだしな。
そしてそのモンスターを、システムさんはどうやってかダンジョンに縫い付けた。枠を、檻を作り、そこにモンスターが現れるように仕向けたんだ。
探査者に狩らせて、邪悪なる思念を少しでも弱らせるために。システムさんの、やつに対しての敵意は先ほど、背筋が凍るくらい味わった。
ならば今回、生み出されたドラゴンもモンスターなのかと思って相手していたわけだが。そこが認識違いだったということだろう。
端末のとはいえ邪悪なる思念そのものを元にしたドラゴンは、どこまで行っても邪悪なる思念であってモンスターではない。だからダンジョンの有無に関わらず存在できるのだし、邪悪なる思念判定で特効も発動するのだ。
『どこかからドラゴンを呼び出したかと思っていたのに、まさか存在そのものを生み出していたなんて……! なんてことを! つくづくふざけてます、この世界のシステム側のモノなら、絶対にしてはいけないことです、そんなことっ!』
激高するリーベだが、システム側の話は俺にはわからん。
とにかく今すべきは、出てきてしまったドラゴン──っぽい何か、まあドラゴンと呼ぶけど──の対処だ。
「組合本部に連絡したぜ〜。向こうもドラゴンが出たってのは把握しててェ、近場の上級探査者を根こそぎ呼びつけたってさウェーイ!」
「高木さん、ありがとうございます」
「ドンマイドンマ〜イ! んでぇ、ドラちゃんどしたん? なんかじっとしてっけど」
スマホ片手に、なすべき連絡を済ませた旨を告げてくれた高木さん。軽いながらもやはりこの状況に危機感を抱いているようで、真剣な顔付きでドラゴンを見ている。
そう、ドラゴンだ。やつはどうしたことかジッとしていて、なんなら目を瞑り、伸びなどしている。もちろんそんな動作一つ取っても空気が揺れ、大地が震えるのだから迷惑極まりない。
なんだ? 何をしている? あるいはなんで、何もしていない?
『……恐らくですけど、機能不全です。元が、自立思考も何もない体の一部ですから、命を持って生まれても知性も何もないんですよ。ただ、自分にとって居心地の良い場所にいようという、本能だけが働いてるんだと思います』
リーベが推測ながら説明してくる。
なるほど……だからダンジョンから出たがってたんだな。俺たちを相手取るとかでなく、ただただ生きていたいから。自分にとって居心地の良い場所で、空の下で陽の光を浴びていたいから。
邪悪なる思念そのものだから特効が働いたけど、その心根は別に、良いも悪いもないのかもしれない。
『この際、同情はなしですよ公平さん。アレはたしかに本能だけで、それこそ善悪などないのかもしれませんけど……そこにいるだけで害をなすなら、少なくともそれだけであってはならないモノなんです』
リーベが釘を刺してくる。
わかってる、わかってるさ。逃げ惑う人たちが俺に、一切の慈悲を捨てるべきだと教えてくる。
優先順位を間違えるな──俺はアドミニストレータ。
邪悪なる思念を倒す、それが使命の存在だ。
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