親方!地下からドラゴンが!
中島さんに対して同様、端的に事情を説明すると高木さんは即座に頷いてくれた。力強く笑い、俺に向けてサムズアップまでしてくる。
「とりまコア取ってずらかるんしょ? タカちゃんやったろうじゃんウェーイ!」
「頼みます、高木さん!」
「タカちゃんでよろ〜。おっしゃ任せろ、3分でチョッパヤ戻ってきたるっしょ!」
そ、それは……チョッパヤはパリピとも、ちょっと違うような?
ともかく、高木さんは風のように走り、急いでダンジョンコアを回収しに行ってくれた。
中島さんは既に関口くんを背負い、先に出口に向かっている。高木さんが戻り次第、俺たちも脱出するだろう。
さあ、後は俺だ。
言ったからにはなるべく、足止めしてやらないとな……!
「おおおおっ!!」
全力で衝撃波を放つ。邪悪なる思念特効はもちろん、アドミニストレータ用スキルも機能していて、未だにフルパワーの状態だ。
並のモンスターならば大概を塵一つ残さないだろう、光の波動はドラゴンへと当然、直撃する──だが、効果は薄い。硬い鱗こそ打ち砕くもそこまでで、皮一枚をギリギリ穿つ程度だ。
「ぐるああああああああああああ──が、ぁ?」
「っ……」
それでもドラゴンの意識を、視線を、こちらに引き付けることには成功した。物理的な圧力さえ伴う鋭く重い瞳が、俺を捉える。
思わず息を呑んだ。だが、ここで一歩たりとて、引くわけには行かない! 高木さんがコアを持ち帰るまで、俺はこいつを引き付ける!
「ドラゴンっ! お前を、外には出さないっ!」
決然と叫び、俺は次々と衝撃波を放った。鱗自体は破壊できるのだ、連発すればダメージも通るはずだ。
拳、手刀、掌底。いずれにしろ放たれる衝撃波の威力は、ドラゴンのシールドとも言うべき鱗を少しずつ、しかし確実に削ぎ落としていく。その下に見えてくる皮膚。
いかなるモンスターでも、皮膚を直接叩けば少しは堪えるだろう!
──そんな、足止めを超えてダメージを与えようという欲目を見せた瞬間だった。
「ぐるぅあああああああああああっ!!」
禍々しい叫び。聞くものすべてを凍て付かせるような悍ましい、威圧の雄叫びを敵は放った。
同時に口腔から見える、閃光一射。
『避けてください、右っ!!』
「なっ──うおああああっ!?」
リーベの声と、俺の本能と。
両方が働きかけてきて、体はとっさに右へと飛んだ。
──直後。元いた場所を、鋭く熱線が焼いた。甲高い音を立て、まるでバターが溶けるように地面が、ダンジョンが斬り裂かれていく。
ドラゴンの、攻撃……!?
「か、怪獣かよぉ〜!?」
『怪獣ですよー!? 気を付けてください、今の公平さんでも、この土壇場で奴を倒し切るのは無理です!』
「みたいだな! くそ、欲をかいた!」
『足止めだけで良いんです! ダンジョン消滅に巻き込ませれば、モンスターなら倒せるはずですから!』
エールを受けて、俺は再びドラゴンと対峙する。一度攻撃したやつは、ジッとこちらを見ている。どういう考えかは分からないが、少なくとも俺を意識してはいるらしい。
少しの静寂。
それを破ったのは、最奥から戻ってきた高木さんだった。
「ただまーす! コアゲッツーしてきたゼッウェーイ!」
「高木さん! ナイスです!!」
「ヤマちゃんこそヤベーじゃ〜ん! なんか地面切れてっしヤベー! おっしゃそんならずらかろーぜ、トカゲくん、バイビーな〜! ウェーイウェーイ、ッフゥー!」
「高木さんどういう心臓してるんです!?」
まったく平然と、いつものペースとノリで軽い高木さん。ドラゴンにまでウェーイと言ってのけるのはもう、なんというか脱帽だ。
ドラゴンも若干、首を傾げている。S級モンスターすら手玉に取るのか、パリピ……
「っしゃ行こーぜヤマちゃん! よく足止めしてくれたぜ、あんがとな!」
「いえ! こちらこそ無理を言いました、ありがとうございます!」
「ナカちゃんと関口くんはもうダンジョンから出てるっしょ! 俺らもとっとと出るぜ〜、あのバケモンが外に出る前になぁ!」
「はい!」
二人、全力で駆ける。とはいえ俺と高木さんとの間にはスキルや称号効果での都合上、どうしても開きはあったため途中からは俺が彼を担いでいたが。
ウェーイ、ヤマガタガチハヤイーウェーイ! などと、まるで馬名みたいに人を呼んで、こんな時にも呑気な彼に苦笑いしながらも。
俺たちは光の出口へ飛び込んだ。外界だ!
「山形くん! 高木さん!」
中島さんがすかさず俺たちを受け止めた。全速力だったもんだから、息が上がる。
だがそれも気にできないまま俺は、ダンジョンの穴を見た。コアを抜き取られて外へ持ち出されたため、消えていっている。
「頼む、もろともに沈んでくれ……!」
願うと共にダンジョンは消えた。特に何か、その後に変なところはない。寺の近く、閑静な山奥だ。
風が一陣吹いた。どうやら目論見は達成できたようだと、俺はその場に座り込んだ。
「っ、はぁ〜! つ、疲れたぁ〜!」
「お疲れ様、山形くん。まったく、とんだ探査になっちゃったな」
「終わり良けりゃすべて良しっしょ! っしゃあともかく関口くんは病院行きな! ったく心配かけさせちゃってェ」
「! そうだ関口くん!」
慌てて彼を、関口くんを探す。いた、すぐ近くの木陰に横たわっている。未だに気を失っているとのことだが、命に別状はなさそうだ。
良かった……本当に良かった。
俺は今度こそ一息ついた。
その時。
『──ぐるぅああああああああああああっ!!』
地の底から響く、叫びと地震。
「っな、に?」
「……は?」
「ウェ!?」
『う……嘘っ!?』
戦慄に凍り付く俺たちを、無情に嘲笑うかのように。
「ぐるおおおおおおおあああああっ! ぐるぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ドラゴンは大地を割って、この青空の下に姿を表していた。
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