チャラ男さん!コアを頼みます!
ドラゴン。この大ダンジョン時代にあっては未だ、三度の遭遇例しか記録に残されていない超大型モンスターだ。
当たり前のようにダンジョン外の、人間世界に姿を見せて、ひとたび現れれば甚大な破壊を拡げていく、スタンピードにも勝るとされる大災害。
最後に現れた34年前には、当時のS級探査者が総出で仕留め、それでも大きな被害を残したという。
そこを由縁に、今ではこう呼ばれている。
「S級、モンスター……!」
「ぐるああああああああああああああっ!!」
魂も引き裂かれるような雄叫び。広くて高いこのダンジョンの部屋が、小さな鳥籠に思えてしまいそうな巨体。ほとんど翼の生えた恐竜といった感じの見た目で、しかし瞳に宿る威圧感は恐竜には決して、見られなかったものなのだろう。
そう、翼だ。やつの背中には大きな、片翼だけで自分の胴体の倍はあるような翼が二枚、生えている。空を飛ぶのだろう──今、それを羽ばたかせ始めている。
「と、飛ぶ気か!? この狭いダンジョンの中でどうするんだ、おい!?」
「ぐるうううううああああああっ!」
『こいつ、もしかしてダンジョンを破壊してまで外に出る気じゃないですか!? この程度のダンジョンだと、こいつ相手には保ちませんよ!?』
「なんだと!?」
リーベの、とんでもない言葉に慄く。このトカゲ、俺たちにお構い無しで外に出るつもりか!?
ダンジョンが崩落したなんて話は聞いたことないけど、こんな巨体の化け物が、まるで母胎を食い破るように中から出てきたならば。
十分にある、生き埋めの可能性に俺は泡を食った。
「どうする、どうする!? こ、こいつを今、ここで止められるか!?」
『その前に外に逃げられてしまいます! 向こうにしてみたら公平さんの相手をするにしても、広いフィールドの方がやりやすいに決まってるんですから!』
「そこまで考えてるのか!? 知性があるのか!」
『分かりませんけど、翼があるなら飛ぶことを選ぶものでしょう!?』
「それも、そうだが……!」
歯噛みする。なるほどこのトカゲにとってここは窮屈なのだろう。何より優先してまずは、外に出ることを選ぶわけだ。
今、仮に俺が決死の覚悟で攻撃を仕掛けたとして。精々が少しばかりの足止めくらいだろう……時間さえあれば倒せるとは思うが、奴が天井をぶち抜いて外界へ出るまでのタイムリミットなど、あまりにも短くて無理だ。
「ぐるおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
恐ろしい叫びと共に、トカゲは天井に頭と言わず背中と言わず、何度も何度でも体当たりをかます。その度に振動がダンジョンを大きく揺るがし、壁にヒビが入っていく。
まずい状況だ。こちらも一旦、退避しなければならない!
「山形くん、大丈夫か!?」
「中島さん! 関口くんは!?」
「気を失っているだけだ。それより、これは……!」
端末が消えたことで喋れるようになったのだろう、中島さんがやって来る。負ぶさっている関口くんの様子も、どうやら失神しているだけみたいで別状はないみたいだ。良かった。
まったく状況に追いついていない中島さんに、端的に説明する。
モンスターのようなモノが関口くんを操ろうとして俺に阻まれ、置き土産にドラゴンを落としていった。
ドラゴンはダンジョンを崩落させて外に出ようとしており、このままだと俺たちまで巻き込まれて生き埋めになる。
「とにかく逃げないと……! ドラゴンをどうするかは、ひとまず脱出してから組合に報告しましょう!」
「……分かった。だが俺に一つ、案がある」
すっかり慌ててしまっている俺──冷静でない自覚はあるがこのままだと生き埋めだ、落ち着けるわけがない──に対して中島さんは話を聞いて、むしろ落ち着き、冷静に考えていたみたいだった。
俺の目をまっすぐ見て、提案してくる。
「案?」
「この先の部屋は最奥だろう? だったらコアを回収して脱出する。あのドラゴンがダンジョンから出る前に脱出すれば、もしかしたら」
「……ダンジョンの消滅に巻き込まれて、ドラゴンを倒せるかも!?」
「可能性の話だ。そもそもやつの足止めでもしないと、成り立たない」
ひとまず危機を脱することばかり考えていた俺からすれば、それはまさしく天啓、一石二鳥になるかもしれない神がかったアイデアだ。
どうあれ奴が外に出れば、その時点で大災害確定だ。もしここで食い止められるとしたら……しない手はない。
だが、どうする? ここでやつの足止めをするとしたらまず、俺だ。
中島さんは関口くんを背負っている。そのままでもコアを取りには行けるだろうが、足止めだっていつまで有効かも分からない。なるべく迅速に、トップスピードが望ましい。
あと一人、あと一人いれば、なんとか!
「この場にもう一人、いてくれさえすれば──!」
「ウェーイ呼ばれて飛び出てウェウェウェウェーイ! 呼んだぁ?」
「──高木さん!?」
足りない一手が現れた。
ひたすらチャラいけど不思議と頼りになる、高木さんがやって来てくれた。
この話を投稿した時点で
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