マニアックな用語を使っての暗号文みたいな伝道はやめてもろて(真顔)
何より気になっていた青樹さんの現在のご様子が知れて、俺としてはなんとも安心する心地だ。
今は香苗さんと穏やかに話をされているけど、やはりその顔に以前の狂気は面影ほども見えない。
コンプレックスとトラウマ。いずれも哀しいほどに重く、深く、そして辛いものだったろう……
それでも今になってついに、それらを背負いながらも前を向きつつある彼女のことは、倶楽部幹部としての罪やそれに対する罰、罪償いを別にして心の底から応援したいところだよ。
「そうなのです青樹さん我らが救世主山形公平様はこれより先は首都圏に赴き倶楽部と同様の組織であるサークルおよびその協力者とも思しきダンジョン聖教過激派に向けてその神々しくも雄々しく美しい正義と信念そして世界を救う光を放たれるのですそして連中の迷妄傲慢を糺し邪悪に染まりし魂達に真なる救いの手を差し伸べるわけですね私がS級探査者認定式などという国による政治的アピールにすぎない虚栄のパレードに主賓として向かう理由使命とはつまるところそのお姿をこの目この耳この体全部でしかとたしかめ記録し保存し速やかに動画配信の形で世に広く知らしめることにあると言っても過言ではありません!!」
「そ、そうか……ええと、そうか」
「香苗さん!?」
ようやく和解できた師匠に向かって、あなたは何をいきなり伝道しているのですかね? 怖ぁ……
青樹さんもドン引きというか、真面目に受け取ろうとして結果的に微妙な反応になっちゃってるし。この人、倶楽部幹部になっちゃった経緯とか考えるとものすごく真面目で人の影響を受けやすい気質な気がするんだから止めてあげてよぉ!!
突如興奮する伝道師さん。面会を記録している郷田さんや監視している刑事さんも、珍妙なものを見る目で香苗さんを見ているよ。
ゴホン、と郷田さんが咳払いをした。
「ええと、御堂さん。すみませんが仲間内の暗号であったり何らかの符牒である可能性を鑑み、マニアックな用語を使っての身内話をされてしまうのは面会のルールに抵触しますので、はい」
「む……マニアックな身内話では決してありませんが失礼いたしました。ちなみに今のは公平くんの今後のスケジュールに軽く触れていただけですので悪しからず」
「はい、そこは承知しております。私も御堂さんの動画は常から拝見しておりますのでね、アレが平常運転なのは存じておりますとも」
「えぇ……?」
見てるんだ郷田さんまで、あのチャンネル……いやでもまあそうか、今をときめくS級探査者の、率直に言って奇怪な言動に満ちた動画群だもんな。
おまわりさん達が"この人いつか何かやらかすかも"なんて警戒してチェックしててもおかしくないわけか。郷田さんフットワーク軽いし、御自身でもご覧になっていてもおかしくはないかも。
微妙な静けさ。時計を見ればいつの間にやら面会もあと5分ってところだ。
そろそろ最後のやりとりになるだろう。青樹さんが、今しがたの香苗さんの長台詞を踏まえて俺達に話しかけてきた。
「首都圏に行き、サークルや過激派と争う、か……私は彼らとはあまり面識がないため、特にアドバイスらしいアドバイスもすることはできそうにない。すまない」
「どうかお気になさらず。あなたはあなたのことに専念してください。罪を償うこと、己を見つめ直すこと……これからの人生を、やり直すこと。この3つをね」
「ありがとう香苗。山形さんもですが、どうか向こうでもお気をつけください。どうあれ委員会の傘下組織である以上、我々の想像もつかないような突拍子も無い真似をしてきてもなんら不思議ではありません。倶楽部がそうだったように」
自身の、自分達の行いをも鑑みて心配してくださる。倶楽部とてバグスキルからスレイブモンスター、バグモンスターに果ては異世界の神の器なんてものさえ運用していたんだ。
そのいずれもが、システム側さえ把握していなかった想定外の事象であった以上……倶楽部と同じ立ち位置であるサークルや過激派とて、どんなことをしてくるか予想がつかないところがあるのは間違いなかった。
来たる新たな戦いに向け、香苗さんの師匠からの激励のお言葉をいただき俺達は頷く。
──と、ここで時間が来たらしい。郷田さんが軽く咳払いをして告げてきた。
「失礼、規定時間を迎えました。面会はこれにて終了となります」
「分かりました。今日はわざわざありがとう、香苗、山形さん。またいつの日か、会える時が来るのを生きる希望にして償いの日々を過ごすとするよ。君達も、元気でな」
彼の言葉に頷き、最後に言葉を残す。青樹さんはやはり翳りない微笑みとともに、俺達2人を見送ってくださっていた。
「青樹さん……今日は私達こそありがとうございました。どうか健やかに、叶う限り穏やかにお過ごしください」
「ありがとうございます、青樹さん。今日、ここであなたに会えて良かった。あなたはやっぱり、香苗さんのお師匠様ですね」
香苗さんも俺も、笑い返して最後に言葉を残す。
倶楽部幹部としてでない、香苗さんの師匠としての青樹さんとの面会はこうして、お互いに晴れやかな形で終わったのだった。
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