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きれいな青樹がやってきた

 面会室は施設の2階にあり、俺達はそこに通された。ドラマでよく見る、部屋を二分するアクリル板になんかあの、小さい穴がいくつも開けられた丸いやつが取り付けられていて内心ちょっとワクワクしちゃう。

 刑事ドラマの世界だコレ! もしくは弁護士ドラマ! っはー初めて来ちゃったよ俺。

 

 アクリル板の前、置かれた2つのパイプ椅子に2人座る。郷田さんは、部屋の片隅に置かれた机に座り、何やら帳簿を開いてアレコレ書き出している。

 たぶん面会内容の記録表だろう。面会において何が話されたのかここに記し、問題がないかたしかめるのだ。さらさらと慣れた手付きで記入しつつも、郷田さんは俺達に告げてきた。

 

「青樹はもう少ししたらやってくる手筈になっています。今しばらくお待ち下さい」

「分かりました」

 

 答え、2人でしばし待つ。さすがにこの場で世間話やら雑談やらをする気にはなれず、静かに時が流れるのを待つ。

 その間、俺は青樹さんと何か話すこととかあったか改めて考えてみることにした。

 

 まあ、概ね体調どうですか? ご加減どうですか? くらいしかないよね、うん。

 事件絡みのことも多少話していいとはお墨付きを得たものの、だからって本当に突っ込んだ話をするのはさすがにストップがかかるだろうし。俺としてもそんな話は個々のやり取りでするものでなく、公的機関による聴取、取り調べの中で明らかになるべきことだと思うしね。

 

 だからどちらかって言うと、青樹さんの今の様子とか心境について話を伺うのがメインになると思う。

 火野に唆されて真人類優生思想に染まり、一時は弟子として愛していた香苗さんさえも己の愛玩動物同然に思っていた彼女。人体実験を経て人造オペレータになったという、極めて陰惨かつ過酷な人生を歩んできた彼女は、今、少しでも前を向いていてくれているだろうか?

 そこが、俺としてはどうしても心配だ。

 

「ん……来ましたね」

「……!」

 

 と、考えているうちにオペレータの気配が近づいてきた。おそらくは青樹さんだろう。告げると隣で、香苗さんがわずかに身を強張らせるのが分かった。

 彼女にとってもまた、今は緊張の一時だろう。入院中に師弟水入らずで語らい、ついに和解と言えるだけの関係性改善を果たせた香苗さんだけど……それでもやはり数年間はお互い、ギクシャクなんて表現を通り越していた間柄なんだ。

 

 今日この時、改めてこれからのお二人の関係性が示されることになるのかも知れない。わずか20分程度だけど、とても重要な20分だ。

 固唾を呑んで近づくオペレータの気配を待つ──そして響くノックの音。ややしてからドアが開いて、刑事さんが先に入ってきた。次いでやってきたのが。

 

「青樹さん……!」

「香苗……それに、君は……」

 

 前髪を下ろしてどこか幼気な、それこそ香苗さんよりも子供のようにさえ見える、長身の女性。その手にはスキル封印拘束具だろう手錠がかけられており、無力化されているのが分かる。


 青樹佐智。元倶楽部幹部にして人造オペレータ、実験室という委員会傘下組織の被害者がついに姿を見せたのだ。

 こちらを見て目を丸くして驚き、すぐに納得したように微笑む彼女の顔つきは穏やかだ。少なくとも俺が以前に見た狂気は鳴りを潜めているね。

 

 青樹さんもまた、アクリル板を隔てて俺達の向かいの椅子に座る。やはり静かな目で香苗さんを見て、そして俺をも見る。

 かつて向けてきた敵意も憎悪もそこにはない。どちらかと言うと罪悪感とか後悔、後ろめたさのような色合いを感じる。


 香苗さんとのやり取りの中で俺にも申しわけないと仰ったらしいから、見当違いの理由で俺を付け狙ったのを気に病んでいるのか。

 今となっては過去のこと、反省はすべきかもしれないけど気に病む必要はないのだと言わなくちゃね……郷田さんがそして、見つめ合う俺達に向けて告げてきた。

 

「それでは面会を開始します。現在時刻14時10分につき、14時30分までとなります。では、どうぞ」

 

 面会の開始を告げる号令だ。今から20分、俺達と青樹さんの話し合いが認められた。

 何を言うべきか、にわかに逡巡しているとすぐに動きがあった。青樹さんがまず、俺に向けて深々と頭を下げてきたのだ。

 

「山形さん。まずはどうか謝罪させてください」

「え……」

「数々の蛮行、非礼、無礼。あなたにあらぬ疑いをかけ挙げ句に危害を加えようとしたこと、本当に申しわけなく思っています。ごめんなさい、すみませんでした……!」

「あ、青樹さん……」

 

 意外な初手というべきか、あるいは……納得の始まりというべきか。

 何よりもまず、己がやったことに向き合い謝罪する。そのまっすぐなひたむきさは、どこか香苗さんにも通ずる誠実さのように俺には思えるものだ。

 

 これが、この姿こそが本来の青樹さんなんだろう。

 そう思うとどうしてもやるせなさが募る。こんな人をあんなふうになるまで追い詰めた火野に、怒りが込み上げてくるよ。


 今はもう、あの男はすべての力を失い捕まっているけれど……

 どうか適切なる法の裁きを受け、これまでの道のりのすべてに対してできる限りの償いをして欲しいと、思わずにはいられないね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 青樹さんは、「自分が火野にスレイブコアを飲まされてから救出されるまで」の一部始終はもう知ってるんでしょうか? (自分が「ベーコン」になっていたコトも含めて) [一言] 面会時間20分か…
[一言] 漂白されて白樹になっておる…(゜д゜) そして救世主色に染めようと狂信者の魔の手が迫る そういや怪しいカルト宗教団体の色って何色や? 金ピカ?
[一言] きれいになったぶん、伝道が染み込みやすくなりましたね……
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