コマンドプロンプトの帰還
喧嘩するお二人さんだけど、片方のアルマの声は俺とワールドプロセッサ以外には聞こえていない。俺の魂の中で喚いているから仕方ないよね。
よって傍から見ればなんかいきなりいもしない誰かと喧嘩し始めたワールドプロセッサと、それを止めている俺という構図になる。
さぞや意味不明な光景なんだろうなあって思うけど、そこはさすがの精霊知能達だ。
俺が最終決戦においてアルマの魂だけは確保していたのを踏まえ、事情を分かってくれているのだ。
「察するに山形公平の中の邪悪なる思念か、喚いているのは」
「もう何もできないくせして、騒ぎぶりだけはいっちょ前みたいですよー? アルマ、だなんて名前までつけてもらっちゃってるみたいで、なんかすっごいムカつきですー!」
「名付けまでされているのか……そこまで恩情をかけられておいてよくもまあ宿主に口答えをする。まったく持って度し難い」
「父様の御意志でなけりゃ即座に消し飛ばしてるぜ、あんなやつ……おーうミュトス、こっち来いよお前さんも! 話そうぜ精霊知能達でよ、親睦だァ!」
「へへーっ! ありがたき幸せーっ!」
当たり前だけど大体辛辣な口振りだ、そりゃそうだよね。
魂だけでもう何もできなくなったとしても依然として、アルマが何をしても赦されることはない不倶戴天の敵であることには変わりないわけだし。
むしろ匿っている形になる俺にも糾弾の矛先を向けたりしてこないだけ、大変理性的な対応を取ってくれていると思うよ。
どちらかと言うと俺達の近くにいたミュトスも、シャーリヒッタに呼ばれて小走りで彼女のほうに向かっている。へへーって……なんとも子分チックなノリだなあ。
でも親睦を深めようと互いに歩み寄っている光景はとても素敵なものだ。
異世界の神の人格部分がベースとなっている上に、邪悪なる思念に三界機構のリソースまで注ぎ込んでいるという特殊極まりない存在であるミュトス。
そんな彼女をも受け入れようとしてくれるのは、コマンドプロンプトとしても山形公平としても嬉しい光景だ。優しい精霊知能達になってくれて良かったって思える。
ワールドプロセッサも同じ思いらしく、意図せずして2人、遠くから彼ら彼女らの団欒を優しい瞳で眺めていた。
「いい光景だな」
「ええ、とても……あなたがもたらしてくれたものです、コマンドプロンプト」
「お前の頑張りの結実でもある、ワールドプロセッサ。そして俺達だけでなく、この世界のあらゆるモノ達のお陰でもあるな」
「ええ、まったくもって」
500年かけてようやくもたらされた世界の平和。現世や概念領域は未だにドタバタしてるけど、それだって邪悪なる思念の危機に比べたらなんてこともない。
二人して改めてしみじみ感じ入る。精霊知能達のコミュニケーションをそうして愛しく見守りながらも、やがてワールドプロセッサは切り出してきた。
「……ミュトスは今後、シャーリヒッタ率いる現世介入用部隊・インターフェイサーの一員として活動してもらいます」
「分かたれた己の権能を、悪し様に利用しようとしているモノ達へのカウンターのためか。受肉するのか?」
「もちろん。そしてヴァール率いるWSOと秘密裏に協力する形で、委員会とその傘下組織、関連団体を追います」
今後のミュトスの予定を聞き、彼女を見る。リーベやシャーリヒッタに頭を撫でられて照れ笑いしているあの子は、おそらくダンジョン聖教過激派との戦いにおいては最重要ファクターとなるだろう。
何しろ向こうの連中、ドンピシャで彼女の権能を召喚しようとしているっぽいからね。たんなる権能だけの存在を、己の信奉する神とみなして現世に降臨させようとしているんだ。
そんなことをして、最終的に一体何を目論んでいるのか。そこは未だ分からないところではあるけど。
やつらに……先代聖女アンドヴァリによって利用されようとしている権能を解き放つことができるのは、かつて一体だったミュトスをおいて他にいない。
だからこそワールドプロセッサは多くのプロセスを経て、ミュトスを精霊知能にしたのだ。漂着した権能を、異世界の神をこの世界に正しく受け入れるためにね。
「シャーリヒッタが現在、現世においてあなたの家で暮らしていることを考えれば間違いなく、インターフェイサーおよびミュトスの活動範囲はその圏内となりましょう。ゆえにコマンドプロンプト、あなたにも彼女への協力をお願いしたく思います」
「もちろん、願ってもない話だよ。そうでなくともシャーリヒッタやインターフェイサーには微力ながら手伝えたらとは思ってたんだ。ミュトスという重大なファクターが加わるってんなら、なおのこと俺だってできる限りを尽くすさ」
嘘偽りなく本音を吐露する。俺という存在に何かしら力になれる要素があるなら、そしてそれが世界の平穏と安寧、秩序の維持につながることなら俺は喜んで手を貸そうとも。
これまではワールドプロセッサとコマンドプロンプト、それぞれがそれぞれの思惑の下に同じ目的へと別々に動いていたけど……ことこうなれば思いは一つだ。
あるいは今、この時をもってようやくシステム領域は本来の形を取り戻せたのかもしれないな。
世界維持機構と因果律管理機構。ともに分かち難い2つの魂が今、500年の時を越えてようやく一つに団結できるんだ。
「ありがとうございます。あなたのその献身、使命感責任感に私は……いつだって、助けられていますね」
「それは俺のセリフだよ。これからもよろしく頼む……ともに、世界の安定のために」
「ええ。世界の安定のために」
熱く握手を交わして、お互い見つめ合う。
システム領域への一時帰省──その末に俺はついに、コマンドプロンプトとして正しい立ち位置に帰還できたのだった。
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