あらゆる意味で山形くんファインプレーだった話
「ミュトスの存在、そして現状。そこから推測できる、今後起き得る問題──それらを三界機構の魂に説明し、協力を求めた結果。彼らは自身の魂をミュトスの魂のリソースとして変換してくださいました」
「よくそんな話を受け入れてくれたな。事実上ミュトスのために、輪廻転生さえ放棄して消滅したってことじゃないか……」
さらりと告げられた壮絶な話に、俺は眉をしかめる。
ミュトスを精霊知能として再構成するためのリソースに、なってくれた三界機構。それはすなわち、彼らのすべてが彼女に捧げられたと言っても過言ではない。
自壊してもなお、彼らの魂は並の概念存在では比べ物にならないほどのエネルギーを持っていた。
それが3つも揃えばそりゃ、ミュトス自身に邪悪なる思念の端末の分も合わせれば精霊知能としての規格に到達するだろうけど、そんな提案を受け入れるってのがそもそも本来ならばありえない話なんだよね。
どんな気持ちで魔天、断獄、災海の3体はその提案を呑んだのだろうか? 計り知れない心情が、そこにはあった気がしてならない。
精霊知能達も彼ら、元々は被害者でもあるかつてのワールドプロセッサ達に思いを馳せる。しんみりとした空気が流れる中、この世界のワールドプロセッサはしかし、ゆるりと首を横に振った。
「いえ、厳密には消滅まではしていません。私自身にも想定外の要素、すなわちコマンドプロンプトによって分解された邪悪なる思念の端末体のおかげで彼らは生き延びることとなりました」
「……なんだって?」
「本来ならば消滅までいかなければならないところを、予期せぬ追加リソースがあったおかげで人格部分だけは残すことができたのです。今はミュトスの中に宿る形ですが、たしかに彼らはその存在を保っていますよ」
「はい! 魔天さんも断獄さんも災海さんも、みーんな私の中から見てくれています!」
……つまるところはそう、ある意味これは俺のファインプレーに他ならないという話だった。
最終決戦の折、スキル《ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で》によって分解された邪悪なる思念の端末体。
そこから生まれたエネルギーをリソースとしてミュトスに組み込んだのがワールドプロセッサなわけだけど、それそのものは彼女にとっても想定外の事態だったのは先にも述べた通りだ。
だからだろう。想定外のリソースが追加されたゆえに、三界機構はある意味九死に一生を得ることとなった。
本来ならば3体の魂を、人格部分まで含めて使い切らなければ構成できなかったところに、追加でリソースがもたらされたことで人格部分だけはどうにか残すことができたのだ。
邪悪なる思念の端末も元を糺せば異なる世界のワールドプロセッサ。それゆえに莫大なリソースをもって構成されていたために実現した、まさしくもう一つの奇跡と言えた。
「俺の中にいるアルマと、同じような状態になっているのか……」
「ミュトスと明確に意思疎通できる段階ではないようですが、そうなりますね。今後、彼女が己の権能を取り戻して三界機構達にもリソースが返済されれば、多少なりとも顕現したりできるとは思いますが」
なるほど。ある意味今、ミュトスは三界機構達からリソースを借金しているに近い状態なんだな。分かたれし己の権能を取り戻すための力──すなわち精霊知能化──を、彼らと魂を融合させることで賄っている、と。
そして権能を取り戻せた暁には借り受けていたエネルギーを三界機構に返すことで、今はミュトスの中にいるモノ達もその分、復活できると。
本来ならば人格なんて残っていないだろうから返済も何もあったもんじゃなかったろう。
そのことを考えると邪悪なる思念の端末分のリソースを即座に確保できたワールドプロセッサのお手柄だな、これは。
『ふん、人格は残ってるんだね。まんまと人間相手にしてやられた雑魚どもが、悪運だけは強い……しかも僕のリソースの一部で生き残るとは、なんとも腹立たしい』
「おや、コマンドプロンプトの優しさによってのみ生かされているだけの塵芥の声が聞こえますね……おかしな話です。そもそもしてやられたのは、まんまと天地開闢結界を封じられて三界機構も無力化され、挙句の果てにはコマンドプロンプトによって直々に世界修復のためのリソースにまで分解させられたどこかの"元"ワールドプロセッサだったように思えるのですが」
『肝心なことはすべて人任せな上に何も言わずに暗躍するから、誰からも何一つ信用も信頼もされてない哀れで一人ぼっちな間抜けがなんか言ってるよ、こりゃ傑作だ! 腹黒すぎて子飼いの部下からさえ疑われてるようなやつが世界維持機構だなんて、この世界の哀れさったらないねえ!!』
「やめろ、喧嘩するなこんなところでまでお前ら!」
またしても嫌味と皮肉の掛け合いをはじめるWワールドプロセッサに、俺は慌ててストップをかける。
ワールドプロセッサはともかくアルマについては脳内での主張に過ぎないため、精霊知能達には聞こえてないからかみんなして首を傾げている。
とはいうものの、突然他者には決してしないような罵詈雑言を口にし始めた上司の姿から、ああなんか言い合いしてるんだなと察して若干距離を置いてはいるよね。
怖ぁ……
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