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攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─  作者: てんたくろー
本編

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誰が彼を唆したか

 次の部屋もほとんどモンスターはいなかった。猿が数匹、怯えた様子で威嚇してきたくらいか。

 運悪いことに進行方向上にいたから、見逃せるはずもなかったが。

 

「《鞭技》、トライスネーク」

 

 唸る鞭、しなる先端が猿たちの体を一息に打つ。凄まじい速度と勢いから繰り出される威力は、E級モンスターなど歯牙にもかけないほどだ。

 中島さん、たしかE級だったな。レベルも25と通常の範疇を出ないのに、ずいぶん強いが……一体?

 駆けながら聞くと、中島さんは短く答えた。

 

「古臭い、武術の家の生まれでね。探査者になる前から、ずっと身体は鍛えていたんだ。それでさ。あー、深くは聞かない方が良いかもよ」

「は、はあ……」

 

 この人もなんか抱えてるぅ、怖ぁ……

 朴訥さの中にも、有無を言わせない迫力を纏わせる中島さんはやはり、只者じゃないんだろう。古臭い武術とか言ってるけど、下手するとリアルにバトル漫画の住人な可能性だってある。

 クワバラクワバラ、触らぬ神に祟り無し、だ。こうなると高木さんの軽〜いノリが恋しくなる、が、すべては関口くんを連れ戻してからだ。

 

 次の部屋につく間際、背中が見えてきた。関口くんだ、部屋の中で戦っている。

 俺たちは飛び入りで横槍を入れた。戦っているモンスターに向け衝撃波を放つ。

 

「ムンっ!!」

「くがああああああっ!?」

「っ」

 

 横っ面を思い切り吹き飛ばして、消滅させる。後には関口くんだけだ。

 しかしまあ、駆けてくれたもんだ。次の部屋はもう、最奥じゃないか。これならもう、踏破までしてしまって良いのかもしれない。

 

「……来た、のか」

「当たり前だろ。ほら、帰ろう。踏破なら果たしたも同然だ、すぐに病院に」

「……く、ううう」

 

 呆然と、こちらを見る関口くんに手を差し伸べた、瞬間だった。

 彼が突如として胸を抑え、苦しみ始めた。やはり何かの病気か!?

 

「関口くん!?」

「来るなっ! 来ちゃ駄目だ!!」

 

 慌てて駆け寄ろうとした俺を止める。その声に込められた切迫、悲壮。

 息を呑む俺だったが中島さんと顔見合わせて頷き、なおも近付こうとする。苦しんでいる君を、放っておくものか!

 

「止めといた方が良いよ? アドミニストレータ。彼の苦しみの原因とは、他ならぬ君なのだからね」

「な、に?」

 

 ──そこに、邪悪は現れた。

 端末たる、少女とも少年ともつかない美貌の子が、最奥の部屋からやって来たのだ。

 息が止まる。脳内でリーベが、まさかと呟くのを遠くに聞いた。

 

「嫉妬、憎悪、悔しさ、怒り。ふふ、美味しそうなのがアドミニストレータの近くにいるなと思っていたけど、これは収穫だ」

「お、前は……! なぜここにいる!?」

「誰だ? あの子供は、探査者なのか?」

「ぶぶー、ハズレ。オペレータくん、発言権没収」

「な、……っ!?」

 

 誰何を問うた中島さんが、突如口元を抑えた。そのまま口を何度か開け閉めしていたが、息が荒くなるばかりで声が出てきていない。

 ……まさか、彼の声を封じたのか!

 

「別にここにいても良いんだけどね? 余計な茶々を入れられても困るし、ここは一つ黙っといてもらうよ。ごめーんね!」

「お、まえ……」

「さぁーて、ねえ幼稚なオペレータ。気分はどうだい? 昨日、僕があげたパワーはそろそろ芽吹くだろ?」

「ぐ、ぅううう……! こ、んな。や、ま……!」

 

 面白げに関口の周りを、おちょくるようにうろつく、端末。

 昨日だと……昨日にはもう、こいつは、関口くんに接触していたのか。それで関口くんは、俺に、何かを話そうとしていた? おそらくは、やつに与えられたというパワーについて、なのか。

 なんてことだ! 気付けなかった。端末の、愉快げな声がこちらに向けられる。

 

「邪悪なる思念、と君たちは呼ぶんだったか。失敬な話だよ、ええ? 僕の力には意思も何もない。与えられたものの、心の強い欲望に呼応して力を発揮するだけなのに」

「強い……欲望だと」

「そうとも! ここにいる彼の場合は、君への嫉妬。超えたい、下に見たいという欲望。君がかつて下したリッチの場合は、生きたい、他者になりすましてでも生き延びたいという欲望。それらに反応して願いを叶えてあげる、ふふ、夢のような力じゃないか」

「あのリッチにも、お前が力を与えていたのか!?」

「一応は僕の一部だからねえ。それがどんなにちっぽけでも、目に入ったなら気にはかけとくのが道理というものだろ?」

 

 ヘラヘラ笑ってこいつ、とんでもないことばかり言いやがる……!

 リッチに感じた邪悪なる思念、それが直接、こいつに与えられたものならば。関口くんもまた、リッチに近しいことになりつつあるということだ。

 俺が……憎くて。俺への妬みと嫉みにつけ込まれて、彼は今、苦しんでいる。正気と狂気の間で、それでもなお耐えようとしている。

 

 何だかもう、泣きたくなる心地で俺は呼びかけた。

 

「関口くん、頼む、負けないでくれ! 俺は、君ほどの人が妬む男じゃない!」

「って言ってるけど? ちなみに彼はね、坊や。アドミニストレータと言って探査者を管理する側にある、文字通り君の上役だ。今のままの君じゃあ、一生勝てないか、も、ね?」

「っ……!? く、ぅ──う、ぐぁあああああっ!!」

 

 決死の説得さえ、彼への悪意にすり替えて。

 端末の言葉は今度こそ、彼の心の均衡を崩した。苦痛に叫ぶ関口くんの身体を、暗く、闇の靄が包んでいく。

 

「お、お前はァァっ!!」

 

 もはや堪らず、俺は端末へと殴りかかった!

この話を投稿した時点で

ローファンタジー日間2位、週間2位、月間1位、四半期2位

総合月間3位

それぞれ頂戴しております

本当にありがとうございます

引き続きブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします

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― 新着の感想 ―
[一言] 鞭使いとは中島さんは、何ともマニアックな武術を扱う一族出身ですね。 敵さんは余裕をぶっこいて居るけど、実際はこう言う小賢しい手しか使えないようだね。
[良い点] 関口よ、認めたくないのは解るが闇墜ちしても結局、山なんとかさんがそれを解決して華持たせるだけになるから逆効果なんだぜ……? [一言] 銃(刃物でも可)に対してこいつらに意思は無いって言って…
[一言] 関口.......まぁいい気味だな。これに懲りたらとりあえず今まで迷惑かけた人に土下座しに行っとけ。
感想一覧
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