これも空間転移のちょっとした応用だ……
システム領域にまで伝播しようとしている救世の光に魂から震えてしまう心地を覚えながらも、俺達は案内を受けて、ビルに入った。
都市中央、これがバベルの塔ちゃんですかってなくらいに高く高く聳え立つ建築物だ。
草原にいた時から見えてたほどなので、たぶん現世のどんな建物よりも高いだろうなって気はする。
まあ物理法則も何もなく、置いたら終いのオブジェクトだからね。やろうと思えばどれだけでも盛れるよね。
「このビルの最上階層。精霊知能の中でも特別な許可を得ている限られた個体にのみ入れる領域にワールドプロセッサの端末が存在する空間へと続くワームホールが設置されています」
「ちなみにそれ以下の階層では主に、データ領域に絡んだ業務に就いている精霊知能が普段から活動しています。現世領域や概念領域の業務については中央区を離れて管理区や制御区、対応区なんかで行われていますね」
「現世や概念領域については自立稼働してくれているものな。こちらとしてはより根源的な部分、データ領域の管理制御をメインに据えるのも当然か。そもそも本来、システム領域の担うべき箇所はそこなわけだし」
システム領域のお仕事というと、いかにもすべて何もかも──それこそ現世から概念領域まであらゆる物事を制御管理していると思われるかもだけど、別にそんなこともない。
むしろ知的生命体の活動領域においてはシステム側が出しゃばる機会なんて極力排して、基本的には彼らの思うようにそれぞれの世界を動かしていってほしいってのが、少なくともこの世界におけるワールドプロセッサのスタンスだ。
そもそも500年前まではシステムプログラムに人格なんてなかったわけなので、介入する余地そのものが本来なかったりする。
そういうのをやるのは概念存在であったりしたわけだね。邪悪なる思念の一件が特大のイレギュラーだったことも併せ、そこは今現在のシステム領域においても常に念頭に置いていなければならない基本理念のはずだよ。
そしてそれゆえに、我々がメインでことにあたるべきは彼ら知的生命体が決して関わることができない、できてしまってはいけない領域に関する事項になる。
つまりはあらゆる物質、存在が持っているデータ部分についてだね。
今システム領域のガワを成しているオブジェクトなんかもそうだし、あるいはヒトやその他の生命体が持つ遺伝情報とか塩基配列、概念存在の特性に関するプログラミングなんかもそうだ。
この世界に存在するすべて物事についてのプログラムデータ、スクリプト。情報のみで構成されている領域についての管理と制御、保護活動こそがシステム領域の本来の仕事と言えるわけだった。
ビルの中、エントランスへと至る。受付カウンターがあり上層行きのエレベーター、エスカレーターがあり。近くには談話用のテラス席があったりと中身まで現世チックだ。
カウンターで受付をしていたり、テラス席で何やら打ち合わせ中っぽい精霊知能達がこちらを見て立ち上がり、深々頭を下げてくる。怖ぁ……重役チックな対応やめてほしい、胃のあたりがキュってなりそう。
ていうか精霊知能達、ビジネスシーンだからかみんなスーツ姿なんだよね。意外だ。
それでいて各人、自身の姿そのもののデザインは思い思いだからか老若男女目白押しで現世にはなかなかない光景になっているよ。
テラスで打ち合わせてる子達だって、小さな子供とおばあちゃん、おじさんと年代から性別までバラバラだし。
商談というか家族旅行の打ち合わせみたいですらある。いやまあ、これでおそらくやってることはデータ領域の運営に絡む重大案件についての話し合いなんだろうけど。茶化したら大変だよ。
「エレベーターで一気に上層へ行きましょう。最上階へは階段を使ってのみ行ける構造になっていますので」
アフツストの案内を受けてエレベーターへ。俺達が近づくとオートでドアが開き、なんの変哲もない、極めて普通の内部が見えた。
そのまま4人、入るとすぐに扉が閉まり、またすぐに開いた。外はエントランスでなくまったく別のオフィス的風景が広がっている。
いわゆる瞬間移動を果たしたイメージだな。
うーむ……見かけこそエレベーターだけどこれ、中身は空間転移を応用してるな。かなり工夫してるっぽいぞ。
ヴァールもそれに気づいてか、俺に確認を取ってきた。
「コマンドプロンプト。このエレベーター、おそらくだがワームホールにオブジェクトを組み込んでこう見せかけているだけだと思うのだが……」
「だろうな。ワームホールの接続先AとBの隙間、つまり空間同士の狭間を拡大解釈して"道"の概念を付与、そこにエレベーターのオブジェクトを被せて無理矢理それらしく見せたってところだろう。だから挙動自体は普段の空間転移と変わらないわけだな」
「さすがですねー二人とも。いかにもこれ、設置型のワームホールにガワを被せてるだけのものですよー。一見して見破るってなかなか、空間転移に長けた専門分野の精霊知能でも難しいのにすごいですー」
一発でからくりを看破した俺達二人を、リーベが感心した様子で褒めてくれる。いやあそれほどでも、えへへ。
まあそれはともかく、技術の応用力は大したもんだよ。都市部のオブジェクト設定はベテランがやったと聞いてるけど、このビルはとりわけ熟練の精霊知能が手掛けたんだろう。
思わぬところで思わぬ工夫を見せつけられて、こちらこそ感心しきりになる俺ちゃんである。
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