山形家の朝。システム側のモノ達の朝
──朝を迎えた。清々しい夏の光が眩しくカーテンの隙間から差し込む、なんとも静かな朝だ。
おはようございます山形公平です。自由研究を華麗にやっつけてからの翌日、くうくう寝ているアイにしがみつかれながらの起床となりました。
「ん、んん……」
「きゅー……きゅー……」
寝息を立てるアイを起こさないよう、慎重に剥がして起き上がる。軽く背伸びをすればそれなりに目も覚めるってなもんだ。
さーて今日はお忙しいぞー俺ちゃん。何しろ我が魂の故郷へと帰るわけだからね。実に150年ぶりともなる帰省だよ。
そう、システム領域へと一時帰還するのだ。別に俺としてはその必要はない気もしたんだけど、何かにつけ称号で催促されて、挙げ句に正規入場許可証みたいな効果まで付与されてはもはや無視するわけにもいかない。
リーベにシャーリヒッタも結構せがんできてたからね。かれこれ同じくらいの年月を経て一緒に帰省することとなったヴァールともども、曖昧な苦笑いを浮かべたのは記憶に新しい話だ。
「たしか朝飯食べたら行くとか言ってたな。準備とかも特にないから、手ぶらでサクッと行き来する形かあ」
時刻は6時53分。いつもよりちょっと早起きさんかな?
ここから着替えて身支度して朝食を済ませて、それから精霊知能三姉妹とともに帰省ツアーを敢行する形になる。
移動は誰かしらの空間転移を使うから、一応俺の自室に集まって赴く予定にはなっている。逆に言えば決まってるのってそのくらいで、行ってから先のことは場当たり対応じみた案内をリーベとシャーリヒッタから受ける感じになるかな。
脳内のアルマがしみじみつぶやいた。
『この世界のシステム領域ね……かつては8割方侵食していたけど今はどうなってるんだか。端末使ってうろちょろしたことはあるよ、残骸データだらけの、しょうもない風景だったけどね』
まったく興味がないんだろう、あからさまに白けたテンションだ。
まあこいつからしてみればすでに終わった話の、しかも一時は侵食していたため何もない場所だったのが分かりきっている場所だからな。
今はどうなってるか知らないけれど、侵食から解放されたのもつい最近の話だから未だに復興作業にも取りかかれているかどうかってところだろう。
アルマが一切関心を示さないのは、こいつ自身が作り出したものだろうことを踏まえると業腹ながら当然とも言えた。
『そもそもが現世じゃない以上、食うものどころか水一滴さえないわけだろ? やってらんないよそんなの、ちょっと顔出ししたらすぐに帰ろうよ公平。そんでその足で近くの中華料理店にでも行ってさ、もう思う存分ラーメンとチャーハンと回鍋肉とエビチリと春巻きと餃子を食べるんだ』
「お前、昨日結構外食したばっかだろうが俺ら……」
『毎日でも外食しろよ。いや君の母親の手料理も美味いんだけどね? それはそれこれはこれとして外食しろよー』
あとはまあ、ご覧の通りって感じでやはり、食事などとは無縁の領域に足を踏み入れるってことが何よりこいつ的には白ける原因みたいだ。どんだけだよ。
しきりに外食を勧めつつもうちの母ちゃんの手料理も褒めるあたり、微妙に料理人へのリスペクトは持ち合わせてそうなのがなんともはやだ。邪悪なる思念、かつてワールドプロセッサだったモノに認められる母ちゃん……うーん、喜ぶべきかどうか複雑。
さておき私服に着替えて俺は、アイを起こさないようにそろりと部屋を出て下階へ向かう。リビングのほうにはオペレータの気配が3つ、精霊知能三姉妹がすでにいるみたいだな。
昨日は結構遅くまでホラー映画を見ていたみたいだけど、そのあとはリーベの部屋で三人一緒に寝泊まりしたようだ。
やっぱり川の字になって寝たのかな、パジャマ姿で。家族である二人はともかくヴァールのそんな姿は想像するだに面白いしホッコリするんだけれど、本人的には複雑かもしれない。
あの娘生真面目さんで頑固さんだからなあ。そのへんが魅力的で、リーベやシャーリヒッタから妹として愛される理由でもありそうなんだけども。
洗い場へ行って顔を洗い、リビングへ向かう。ドアを開ければやはり、3人はすでにテーブルに着席していた。
「あっ、おはようございます公平さんー!」
「おはようございます父様! 今日もいい天気ですね、父様のお導きだぜ!」
「えぇ……? お、おはようリーベ、シャーリヒッタ。別にこの晴天は何もしてないからね俺、一応言っとくけども」
怖ぁ……開口一番気候操作疑惑をかけられたんですが。この夏の暑さが俺のせいとかやめてくれ、本当に炎上するから!
苦笑いとともに答えつつ返事する。リーベもシャーリヒッタもいつもどおりの元気さで実によろしい。
そしてもう一人──ヴァールにも声をかける。
「おはよう、ヴァール。よく眠れたか?」
「ああ、おはよう山形公平……眠れはした。眠れはしたが、両隣に寝る寸前までやかましい連中がいたな」
苦笑いしながらも、皮肉っぽく揶揄する。案の定川の字で寝たんだな、この子……
しかも寝落ちするまで喋ってたっぽいぞ、下手すると深夜まで起きてたまである。
それでも元気そのものなのは、さすが高レベルオペレータってところなんだけど、そんな彼女を見て黙ってないのが姉二人。
ニヤニヤ笑いながらもヴァールに話しかけていく。
「もー、そーんなこと言って! なんやかやウトウトしながら私達の話に付き合おうとしていたかわいいヴァールちゃんのくせにー」
「妹は真面目なやつだなー。寝たけりゃ反応せずにそのまま寝りゃあ良いのに、こっちが呼びかけると意地でも返事しようとするんだもんよ。ったく、いつまで経っても真面目すぎる妹だぜェ」
「誰がかわいいだ、誰が妹だ! 人が寝ようとする矢先に寝たかどうかを確認しに来るのなら、こちらとしては答えるしかないだろう! 何度も邪魔をしてくれたな、まったく!」
からかい混じりのリーベとシャーリヒッタ。それに強い口調で返すヴァール。
うーん、なんとなく昨夜の3人の様子が目に浮かぶようだけど、本当に生真面目すぎるよなあ。シャーリヒッタの言うように、眠いならそのまま寝れば良いと思うんだけど……
まあ、そういうところもこの子のいいところだな。
ソフィアさんもきっと愛しく思っているだろう彼女の長所を、俺もまた好ましく思うのだった。
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