勢いをつけないと実家に帰れないことってあるよね
「システム領域への帰還、里帰り?」
「はい、父様。こないだから話には上がってましたが、そろそろ本当に一度お帰りくださるのはどうかなって」
シャーリヒッタの唐突な提案。リーベ、ヴァールも交えて俺の部屋にて談笑していたところ、彼女が不意に持ち出してきたのだ。
こないだの親元への帰省あたりからちょくちょく出ていた、システム領域に一度帰らないかって話だね。人の身のままでも良いように、わざわざ称号効果の形で許可証をくれたんだからワールドプロセッサも承知の話みたいだ。
称号 皆とともに、皆と拓いていく時代を信じて
効果 高次元領域に正規ルートで進入できる
こんな感じの称号だったんだけど、たしか親元に向かう最中に得たんだったか。
高次元領域──すなわち概念領域よりも上層にあるデータ領域、さらには最深部にも等しいシステム領域まで、この効果により俺は俺のまま踏み入ることができるのだ。
「たしかに帰ってこい的な称号効果はもらってるし、そこまでされて帰らないつもりもないけど……そんな気軽に帰っても良いものなんだろうか感はちょっとあるんだよなあ」
「まあ、躊躇いがちになる気持ちは理解できる。人間として転生した今のあなたであれば余計にそう感じるだろう」
「そもそも現世存在じゃ、概念領域でさえも知覚することは稀ですからねー。アンタッチャブルな領域に近いと考えれば、そんなホイホイ帰って来いとか言われてもーって、話ですよねー」
ヴァールやリーベの言葉に軽く頷く。まあ、俺はそもそもシステム領域こそがホームなんだから、そこまで言うほどの躊躇いもないんだけどさ。
とはいえ山形公平という、未だ生きてここにいる人間でもあるのは間違いないのだ。人間としての尺度に照らして考えると、同じ県の山奥と一緒よ! みたいなノリではなかなか捉えられないんだよね。
ちなみに通常、概念領域にさえも現世の存在が生きたまま進入することはできない。
死んだ後ならそれぞれの地域や宗教観、あるいは死生観に合わせた概念領域の中の各神話世界、宗教世界に赴き、そこで適切な処置を行った上で魂の輪廻が行われる。
仮に何かの間違いで生きたまま高次元領域に迷い込んだとて、すぐさま最寄りの概念存在に感知されて追い出されたりするだろう。
概念領域よりも上の領域、あらゆるデータを格納している領域とかシステム領域に至ってはもっと極端で、そもそも現世存在や概念存在では知覚すらできない。
そして仮になんらかの事情で進入したとして──許可がない以上、ものの数分とかけずに魂が破損して死にかねない。空間自体の情報密度が桁違いなもんで、人体はもちろん心から魂に至るまで耐えることができないんだね。
邪悪なる思念との最終決戦の舞台となった、はじまりのダンジョン。一応システム領域の端っこというか最も外側の部分なんだけど、あそこも概ね同様だ。
だから決戦スキル保持者のみなさんが立ち入った途端、寒気やら怖気やら根源的恐怖を感じてたりしたんだけど……これは各人の魂が警告を発していたためだね。そのままそこにいると壊れちゃうよーってエマージェンシーなわけだ。
あの時はすぐさまリーベにより入場権限が付与されたんだったか。俺は当時まだ覚醒していなかったとはいえ魂がコマンドプロンプトそのものだから、そのへんはまったく問題なかったけれども。
「決戦スキル保持者達に付与した一時権限とは異なり、父様に付与された称号効果はもちろん永続的なものだぜ!」
「助かるよ。俺の場合でも魂はともかく人間の身体だから、システム領域の中心部分に行くってなると神魔終焉結界の補助があってもキツいかもだし」
「へへっ……ねえ父様ー、だから一度帰ってきてくださいよー。みんな父様の姿を直接見たくて仕方ないんですぜー。生コマプロ見たいんですぜー」
「生コマプロ」
ハムかな? まあそれはさておき、椅子に座る俺に抱きついて甘えてくるシャーリヒッタの言葉を受けて考える。
そもそもそのうち帰るつもりはしていたんだけど、それが具体的にいつ頃になるかまでは考えてなかったのが実際のところだ。
ただ、もう数日するといよいよ首都圏行きなもんだから、そうなるとしばらく忙しくなるかもしれない。二学期だって始まるしね。
そうなると今のうちに行っておくのが良いかもしれない。そのうちそのうちーとか言ってると忘れちゃいそうなのもあるしね。
「分かった、シャーリヒッタ。香苗さんのS級探査者認定式が行われるまでに一度、システム領域に帰るよ」
「やったっ! そしたら明日にでもぜひ!」
「明日!? 早くないか、いや俺は暇だから別に良いけども!」
「善は急げっていうでしょう!? なあリーベ!」
「あ、あははー」
猪突猛進、としか言いようのない勢いでトントン拍子に話を進めてくるシャーリヒッタに、さしものリーベもタジタジだ。
マジでいきなり、明日になりそうだなシステム領域への帰還。まあ向こうはいつだろうとそう変わりないんだろうしこっちも別に用意とか準備するものもないから気楽なんだけど、にしても話が早いなあ。
「もちろんオレにリーベ、ヴァールも一緒だぜ! みんな揃ってシステム領域に帰省だ、ヒャッホイ!」
「ワタシもか!?」
なんなら巻き込まれる形でヴァールまで面食らってるし。いや、この子も久しぶりになるだろうから帰省するの、良いとは俺も思うんだけどね。
というわけで急遽ながら明日、システム領域へと向かうことが確定した俺ちゃんだった。
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