山形公平、最大のピンチ!?(嘘は言ってない)
※いわゆる不快害虫の描写があります。苦手な方はご注意ください
意外と修羅場スキーな疑惑が出てきたアルマさんと好き勝手言い合いながら、俺は3階層目に突入した。
速度を落とすことなく道なりに進み、見えてきた部屋のモンスターを感知する。
かなりの数……群れて発生しているモンスターだろうか? うじゃうじゃと蠢く無数の気配を感じる。
まずいな。この手のモンスターって苦手なやつが多いイメージがあるんだよな、個人的に。
「嫌な予感がする……恐ろしく嫌な予感が。場合によっては全力を出さなきゃいけないかもしれない」
『なんとなく想像はつくけど君、案外本気で苦手なものには容赦一切ないよね』
「さすがにモンスターじゃなかったら、近づけないとか視界に入れないくらいに留めるよ。仕事だし逃げちゃいけないし戦うしかないから真っ向から挑むだけで、そうでなきゃ逃げてる」
ちょっと怖気づきそうな内心を感じてかアルマが、呆れた声を投げかけてくる。
C級モンスター相手に、場合によっては極限倍率を引き出しての対応さえ匂わせていることにドン引きしてそうな様子だ。
仕方ないだろ苦手なんだから。なんならこの先に待ち受ける光景になんとなし当たりがついているものの、嫌すぎて明言を避けているくらいだぞ。
走りながらも瞑想して心地を落ち着ける。ていうかね、聞こえてきてるんだよねなんか、わさわさと何やら擦れあう音とか、羽音らしい小刻みな振動音とかが。
それだけで鳥肌が立ってくる始末だ。
『言ってる間にそら、部屋が見えてきたよ……中にいるモノどもも。予想通りわんさかいるね』
「…………っ!!」
アルマの言う通りだった。遠くに見えてきた部屋の中、すでに確認してしまえる様相に俺は、ヒュッ……と息を呑み、そして全身に緊張と怖気を走らせた。
嫌な予感、的中。一気に汗が吹き出るのを自覚しつつも、俺は現実に立ち向かう思いで確認していく。
黒光りする身体。素早く、細かく動き、時には羽を動かしてあちこち飛び回る。あちこちに向く触覚。
現世においても普通の動物として見かける存在だ。現代日本においては結構な割合の方々から、ほぼほぼマジで嫌われているヤツだと思う。
ただ、モンスターの場合はサイズが桁違いだ。目測からでも分かるよ、あのサイズおかしい……
「お、俺の、身体の半分くらいはある……よね」
『あるねえ。で、しかも部屋内を無数に蠢いてると。あれ、スタンピードの発生条件満たしてるんじゃないの? エラーダンジョンのことはよく知らないけどそこんとこどうなんだい、コマンドプロンプト』
「す、スタンピードが起きる場合は一部屋程度じゃ収まらないから……も、もしも起きてたら、それこそダンジョン内があ、あ、あのモンスターどもで埋め尽くされてるよ……怖ぁ……」
『どんだけビビってるんだよ……いやまあ、たしかに僕をして多少、生理的嫌悪感を催させる埋まり方ではあるけど』
多少ってすごいな! 俺もうさっきから瞑想による感情リセットが追いついてなくて泣きそうなんですけど!
……いかん、冷静になれ山形くん。敵はあくまでモンスターで、浄化して救うべき異世界の魂なんだ。俺の果たすべき義務であり使命であり責任なんだから、怖気づいていてはいけないんだ。
部屋が近づいてきた。蠢くソレらもどんどん近づいてくる。
口にすることも嫌な、ある意味最凶の動物を模したそのモンスター群に対して、俺は。
俺は部屋の直前で立ち止まり、勇気を振り絞ってスキルを発動した!
「《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》! ……部屋全体を脱出不可能の完全に密室空間として隔離! 何があっても俺に近寄るなー!!」
『ん……こないだの親元で見せたやつの、内と外を入れ替えたバージョンってところか。入れないためでなく出さないための、隔離空間を作ったんだね』
俺の俺による俺のための空間作成スキルを用い、部屋全体をダンジョンからも切り離して独自の、入ることも出ることもできない完全隔離空間に仕立て上げる。
まずはこれで敵を一匹たりとも逃さず、かつ万一にも俺のほうに向かって飛んでこないようにした。いろんな意味で、身の安全を守った先手なわけだね。
さらにここからだ。俺の創り出した空間は、俺の攻撃を自在に伝導して内部に浸透させる。
一瞬だけ、俺は持てる力のすべてを発揮して次なる一手を打った!
「《誰もが安らげる世界のために》、極限倍率10万倍! からの《目に見えずとも、たしかにそこにあるもの》!!」
いつぞや、倶楽部幹部だった翠川によって町中で発生したエラーダンジョン。スタンピード間際のそれを食い止めるべく俺が仕掛けたコンビネーションと同様のものを今、発動する。
脱出不可能の空間を作り、かつその内部にモンスター浄化用のスキルを発動。極限倍率、つまりは邪悪なる思念本体をも追い詰めた出力によっての超強力な範囲浄化だ。
これにはいかに群れていようが俺にとって最悪の相手だろうがひとたまりもない。
無数の群れが攻撃から逃れようと散り散りに蠢くけれど、完全密室の空間からは逃れられるわけもなく瞬時に浄化され消え去っていく。
スキル発動開始からわずか1秒足らず。
ソレだけの間で、おそらくは100体近くはいたそのモンスター──名前はたしかそう、"ジャイアント黒光り"とかだったかな。名付けした人も明言を避けているあたり、俺同様に苦手だったのかもしれない──は、見事に一掃されたのだった。
何一つなくなった綺麗なお部屋を見て、俺は深く息を吐く。
「はぁー、ふぅー……死ぬかと思ったぁ……」
『僕を相手にしてた時の次くらいにはテンパってたね……本当に虫が苦手なんだなあ』
止めて。今、虫とか昆虫とかそういうワードは出さないで。
内心でアルマさんに懇願しつつも俺は、スキルを解除するのだった。
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