勇気を力に変える者達
アイドルグループ、ハミングバード・サーチャーズのイベントを無事に再開させるべく、どうにかできそうなら関口くんと二人で探査することになった。
とはいえこれはもちろん、調査業者さん達によるダンジョン調査の結果を聞いた上で、すぐに終わりそうだと判断できたらの話だ。
たとえばA級ダンジョンとかって結果が出た場合、規則上の問題で俺や関口くんには探査することができないからね。
一応俺ももうB級なわけなんだけど、さすがに自分の級より上の難易度と判定されたダンジョンに二人で、しかもC級を相方に潜ろうなんて絶対に許可は下りないだろうし。
反面、仮に潜れるダンジョンというのならば探査自体はすぐに目処が立つだろう。なんせ空間転移があるからね。
関口くんも俺が空間転移できるのを知ってるから、特段隠す余地もない。彼がそのへんをどう考えているかはさておくにせよ、まあある種の切り札みたいな感じだ。
実際にはあんまり早すぎても変に怪しまれかねないし悪目立ちするかもだから、多少は──小1時間ほどは時間をかけるとは思うけど。
イベント開始は元々が14時からということなので、探査中に他の準備をあらかた済ませておいてもらえれば問題なく、多少の遅れ程度で再開できるだろうと。そういう心算のようだった。
「……というわけでみんな、楽しく遊んでいるところに水を差して、本当にごめんなさい! 一時間ほど山形を借りていきたいんだ、どうか許してほしい」
「ごめん、みんな。俺も探査者だし、ダンジョンのことで困ってる人がいるなら力になりたい」
関口くんと二人、深々と頭を下げる。相手はもちろん一緒に遊んでいた友人達だ。
せっかくの楽しい時間を、こんな形で一時離脱することになる。そのことに申しわけなさを感じているのは、俺だけでなく関口くんも同様みたいだった。
だけど、これが俺達探査者だからね。目の前にダンジョンがあって、できるかもしれないことがあるのに何もしないでは立つ瀬がない。
まして俺はコマンドプロンプトとして、アドミニストレータとしての責務もある。関口くんだって今回の場合、せっかくゲストにお呼ばれした以上はどうにかイベントを行いたいって気持ちも強いだろう。
お互いが強く熱望する以上は、頭でもなんでも下げて、それでも認めてもらうのが筋というものだった。
「ちょ、頭上げてよ二人とも! まるで悪いことしてるみたいに言うけどぜんぜん、すごく立派なことじゃん!」
「そうだぜ関口くん、山形! なんで謝ってくるんだよ、気にせず頑張ってきてくれよ!」
「梨沙さん……松田くん」
そんな俺達へ、慌てて梨沙さんと松田くんが言った。頭を下げる俺達を見て、そんなことをする必要はないと説いてくれたんだ。
梨沙さんが俺の肩に手を置き、ゆっくりと顔を上げさせた。そして俺の目を覗き込み、柔らかく、慈愛のこもった表情で話しかけてくる。
「二人が怪我するかもって思うと心配だけど、でも……それでも探査者さんとして頑張りたいって思ってるのを、応援こそしても止めたりなんてできないよ。二人とも、怪我したりしないでね」
「無理せず、絶対に無事に帰ってきてね二人とも!」
「どんな時でもみんなのために、かあ。本当にカッコいいよな、山形は……帰ってこいよ」
「言っても一時間くらいでしょ? そのくらいならゲーセンで待ってるからさ、帰ってきたらまたみんなで遊べばいいしね!」
「みんな……」
楽しく遊んでいたところをいきなり横合いから邪魔されて、面白くないだろうに。それを、こんなにも理解を示して優しくしてくれて。
暖かく応援してくれるみんなの姿に、胸が熱くなる。なんて素晴らしい、素敵な人達だろう。優しくて、温かくて……本当に立派なのは、彼らのことをこそ言うんだ。
この、最高の友人達の想いにも応えたい。俺は内心で強く誓った。件のダンジョンに潜るとなれば、俺は全力を尽くして速やかにことをなす、と。
関口くんも同様だった。二人顔を見合わせ、頷く。
「やろう、関口くん。今の俺達ならどんなダンジョンでも怖くない」
「ああ、山形……俺もなんだか、不思議なくらい力が漲ってきてるよ。勇者も、勇気をもらうことってあるんだな」
照れたように笑う彼に、微笑む。
そうだよ、関口くん。俺達はいつだって勇気を分けてもらっているんだ。俺達が護りたい、助けたいと願い祈る人達から。
そしてその勇気を力に変えて、ダンジョンにだって立ち向かっていく。それこそが探査者、それこそがオペレータなんだ。
「よし、じゃあ行ってくるねみんな! すぐ戻ってくるから、みんなはみんなで楽しんでいて!」
「イベントが再開できそうならみんなも呼ぶよ、ぜひ来てほしい! ハミバ、これからもっともっと伸びるグループだからさ!」
何ものにも代えがたい、かけがえのない力を授けてもらえて俺達は、友人達に言葉を残してエスカレーターで一階へと向かう。
一切の迷いも躊躇もない。ただ胸に宿る想いを力に、困っている人達の力になろう。そう、俺も関口くんも思うばかりだ。
「行ってらっしゃい、気をつけてね!」
「気をつけろよ二人とも! ケガすんじゃねえぞー!」
みんなの声援をやはり背に受けて。
俺達は一階に下り、早足で催事場へと向かうのだった。
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