本当は怖い?システムさん
山の麓ダンジョンの最奥。いつもの見慣れた、薄暗い部屋にぼんやりとした光のラインが走る空間にて。俺たちはコアを無事に回収して、ダンジョン踏破の要項を満たした。
宝石のように輝く多面体の物質を手に取り、新田さんがボソリと呟く。
「コアってのも不思議なもんだよな、しかし。これがなんで、ダンジョンなんてもんを生み出してるのやら」
「その小さな物の中に、ダンジョンの記録や情報が内包されていて……特定状況下でそれらを読み取って出力している、というのが一般的な仮説ですね」
「ダンジョンコアそのものが一種のモンスターって説もあるな。逆に、ダンジョンこそがモンスターを人間から護る、檻のようなもんだって言説も。よくよく考えりゃ、これが一番の謎な気がしてならんぜ」
言われて、ダンジョンコアを見る。たしかに考えてみると、これこそ大ダンジョン時代で一番の謎物質だと思う。
ダンジョンを生み出し、モンスターをも生み出す。紛れもなく大ダンジョン時代の根幹に根ざす物体なのだが、これに関して分かっていることはあまりに少ない。
新田さんの言ったように、いくつかの説があるのは知っているのだが……実際、その正体とは何なんだろう?
リーベ的にはこれ、言えることだったりする?
『んー……まあ少しは。言っちゃうとダンジョンコアって別に、モンスターを生み出したりはしてませんよ? というかダンジョンとモンスターは本来、別枠のものです』
「そうなの……?」
「ん!? どうしたんだシャイニング山形! 敵か、敵なのか!?」
「ああいえ何でもないですごめんなさい」
ついうっかり声に出してしまった。すぐさま反応してくる奈良さんに、慌てて誤魔化して返事し、俺は脳内にてリーベに問いかけた。
ダンジョンとモンスターが別って、どういうことだ? セットだってみんな、それこそ常識というか、当たり前のことだと思ってたんだけど……
『オペレータ側はその認識で良いですよ? ただ、公平さんはアドミニストレータですから……真実は知るべきなんでしょうね。いえ、その真実というのも、結局はなぜ、この大ダンジョン時代が生まれたかってところに繋がるんですけど』
つまり、お前が姿を見せる時には分かることか。
今の、レベルが300に達してない俺には言うことじゃないってことだな。
『せっかくのご質問ですし、もうレベル300になるのも近いでしょうから、多少なら今でも言いますよー』
マジか、太っ腹だなリーベさん。
少しでも良いから教えてくれ、後はこっちで適当に解釈するなりするから。
『先ほどの、えーと新田? さんが言っていた説の一つ、モンスターを人間から護る檻、というのが一番近いニュアンスですかねー? いえ、むしろ闘技場もしくは狩場、とでも言うべきかもですがー』
闘技場……狩場?
どういうことだ、それじゃまるでモンスターが、探査者によって狩られるためにあるみたいじゃないか。
大ダンジョン時代において、モンスターはまさしく災厄だ。突然現れる大穴の中に潜み、入ってきた人間を待ち構えて襲ってくる。
時にはスタンピードなどで穴から這い出ても来る、人間という種の、最も新しい天敵と言えるだろう。
それが、今の言い方だと違う風に聞こえてくる。訝しむ俺に、リーベは寒々しさすら感じるいつもの調子で答えた。
『まさにそのためにいるんですよー? モンスターは存在そのものからして、人間に狩られるためにダンジョンに用意されたんです。すべては邪悪なる思念を、倒す可能性を少しでも高めるために』
そこから先はいずれまた。すべてを明らかにする時にー。
とだけ声を残して、リーベは黙っていった。
なんともゾッとする話ばかり言ってくれやがった、あいつ……
モンスターが、人間に狩られるために用意された? 誰に? なんのために? 邪悪なる思念を倒す可能性のためにか。
邪悪なる思念とモンスターの関係性ってなんなんだ? あの、端末くんちゃんの本体こそがモンスターを生み出しているんじゃないのか。今の口ぶりだと、システムさん側が生み出してることになるんですけど?
…………怖ぁ。
まさかシステムさん、邪悪なる思念を倒すためなら手段を選ばない感じの方ですか?
思えば決戦スキルなんてピンポイントメタまで用意して、念入りにやつを倒そうとしているのもシステムさんだ。何があったのかは知らないけど、色濃い殺意は前から薄っすら感じていた。
にしても、まさかモンスターまでもがシステムさんの掌の上ってことなのか? 人間を強くするために用意したとか、そんなんか?
だったら正直……ちょっとなあ。モヤッとするんですけど。モンスターによって人生狂わされた人だっているだろうし、なあ。
『……システムさんの考えていることとか、何があったのか。リーベがすべてを話せばきっと、納得はともかく理解はしてもらえると思います。公平さん、どうか、それまでは判断を保留にしてくださいませんか?』
うお、まだいたんかい!
どこか懇願に近い、リーベの暗い声音にビックリする俺だった。
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