割れ鍋に綴じ蓋(直球)
その後、俺も問題なくラーメン屋にて注文して梨沙さんと2人でテーブルに戻ってきた。彼女のほうはすでにうどんと、添え物として天ぷらを載せたトレイを持っている。
そこから順次ブザーが鳴って、準備ができた人から各人料理を受け取りに行ったのだ。松田くんはカレー、片岡くんは俺同様ラーメン。木下さんは丼もので、遠野さんは──
「バーガーセットのLサイズに加えて、単品でバーガーを二種類とサラダ……」
「あは、あはは……いやその、お腹ペコペコで」
「えぇ……?」
フードコートの入口らへんにある、ちょっとお高めのハンバーガーショップにてまさかのいつも通りである。そうだね、フードファイトだね。
いつもよく行くバーガー屋さんとは系列が違い、それゆえ特色も異なる。素材に拘っているらしいここのお店のハンバーガーは、特に見た目からしても野菜の瑞々しさが目立つね。
サイドにサラダなんかも頼んであるから栄養的にはバランスが、ある程度は取れてるんだろう……量を除けば。
セットのLサイズだけでも見てたら相当なボリュームなのを、追加でそれ以上の大きさのバーガーを2つである。
ぶっちゃけ、この中の誰よりも量が多い。
それぞれ大盛りサイズを頼んでいるはずの松田くんのカレー、片岡くんや俺のラーメンが普通サイズと見紛うほどだもの。
「すげぇ……」
「よく食べるなあ……」
「す、スタミナはつけないとね、うん」
健啖なのは良いんだけれども、ちょっと多すぎない?
これには男子勢も唖然とする中、木下さんがドン引きしつつも遠野さんにツッコミを入れた。予想はできていたものの、実際にことが起きるとそりゃあね、反応せざるを得ないよね。
ヒソヒソと小声で──少なくとも探査者である俺以外には聞こえないくらいの声量で──木下さんが遠野さんの耳元で話す。
「真知子……片岡くんの前では気をつけるって話はどうしたのよ? いやあんたが良いならそれでぜんぜん良いんだけど、大丈夫なの?」
「うう、あのねそのね、すっからかんな私の胃袋ちゃんが可哀想でつい……」
「別に食べたければ食べれば良いけどさあ、せめて一気に持ってくるんじゃなくて小刻みに頼むとかあるじゃない。結局食べる量は一緒でも、ひとまとめにするよりかは受ける印象も違ったでしょうに!」
「め、面倒だし……注文してからだと合間が空いちゃうし……胃袋ちゃんが可哀想だし……」
毎度毎食ドカ食いさせられるほうが胃袋ちゃん可哀想なんじゃ……と、思わなくもないやり取りだけど、遠野さんの胃袋はどう考えても特別製だ。すっからかんだと実際、可哀想なんだろうなあ。
というか遠野さん、片岡くんを意識してセーブする気ではいたんだね。こないだ隣県で遊んだ時も一人だけフードファイターの様相さながらだったのに、片岡くんの名前を出された途端に自重してたもんね。いやそれまでに食べた量だけでも相当だったけど。
想い人の前では豪胆さはあまり見せたくない、これも可愛らしい乙女心の発露ってところか。まあ現実はものの見事に、すっからかんで可哀想な胃袋ちゃんが優先されたけど。
木下さんの言うことも一理あって、どうせ量を食べるにしても小分けにしておけばまだ、視覚的に誤魔化せる余地はあったのかも知れない。
今テーブルの上、明らかに3人分以上はある量の食べ物が一人だけ眼の前に置かれているのを見るとそう思うもの。
松田くんが明らかに感心した様子で、ほえー、と吐息を漏らしながら遠野さんを褒め称えた。
「すげぇーな、遠野……いや知ってたけどやべぇわ、俺こんなに食えねえもん普通に。マジやべえ、憧れるわ普通に」
「ま、まあよっぽどお腹すいてたんでしょ? 女の子って割とその、頑張ればこのくらいはいけなくも……ない、かな」
「梨沙……! だよね! 梨沙だってこのくらいは普通にいけるもんね!!」
「…………え、う、あー。ま、あね? た、たまにね?」
なんてこった、咄嗟にフォローを入れた梨沙さんが巻き添えを食ってフードファイター疑惑を被った! 今までの生活の中でこの子が大食してた場面なんて特になかったろ!
困ったようにこっちを見てくる梨沙さん。いや俺にどうしろと、俺だってそこそこ食べるほうだけど、それにしたって遠野さんの日頃の食事量には遠く及ばないし。
と、そこである意味渦中にいる片岡くんが動いた。
遠野さんをじっと見つめ、そして俯きがちな彼女に、こう告げたのだ。
「遠野……カッコいいな」
「えっ……」
「前から、学校の昼とかでよく食べる姿を見てて思ってたんだよ。遠野は食事ってものに対して、すごく真面目でカッコいいなって。久しぶりに見て、改めて尊敬したくなった」
「か……片岡くん……!」
食事を愛する遠野さんこそ、食事に対して誠実に、真摯に向き合っている。命をいただくという行為に、真っ向から向き合っている。
そう解釈して、片岡くんは彼女のことを前々からカッコいい人だと思っていたと語る。そこに嘘やお世辞の色はない。そもそも片岡くん、根がすごい真面目だから大体常に本音だしね。
だからこそのこの言葉。遠野さんのフードファイターぶりを、全面的に肯定する姿勢を彼は見せてくれたのだ。
これには周囲もニッコリ、遠野さんはさらにニッコリ。さっきまでの曇り顔もどこへやら、彼女はまさしく向日葵のような満面の笑みを浮かべ、大きく頷くのだった。
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