端末くんちゃんだった頃のアルマは大変なモンスターストーカーでしたね……
図書館エントランス奥、喫茶店前のロビーはテーブルに着き、落ち着く。
無事に梨沙さん、木下さんと合流を果たした俺と松田くんだけど、今日集合するメンバーとしてはあと二人、片岡くんと遠野さんが到着していない。
そのためひとまずここにて待ち、彼と彼女の来館を静かに待つ運びとなっていた。
グルチャのメッセージを見るに俺達がバスに乗った直後に駅に着いたっぽいので、順当に考えればその次のバスに乗ったと考えられる。
バスは今の時期、概ね20分おきに駅とこの辺とをぐるぐる周回しているわけなので、あの2人も20分ズラしてここに到着するのだろう。
スマホで時計を確認する。9時すぎ。
集合時刻が9時半だから、まあそれまでには辿り着くよねって感じのペースだった。
「にしても片岡と遠野、揃ってのご到着とは……へへへ。よっ、御両人! って言えば良いのかな、こっち来たら」
「こら松田、からかわないの。真知子は本気なんだから変に話を混ぜ返すんじゃないわよ」
片岡くんと遠野さんのペアを羨んでいる節がある松田くんが、いかにもコミカルな3枚目らしい表情でからかいの言葉を口にする。
いささか古くないかな、御両人ってさ。昔ながらの伝統の野次馬感を出してくるじゃん。
そしてそんな彼を、木下さんがそれを軽く嗜める。遠野さんの内心を知っているからか、呆れ口調ながらも結構マジトーンだ。松田くんも悪い悪い、と素直に引き下がってるし。
当然ながらこのグループのみんなは学校だと大体いつも一緒だから、遠野さんが片岡くんに淡い想いを抱いていること、片岡くんもそう満更でもない塩梅ってことも勘づいている。
無口で真面目な片岡くんと、明るく天真爛漫な遠野さん。良いペアだと俺は思うしみんなもそう思っているからこそ、過度な干渉はせずに控えめに見守っているって構図になってるわけだね。
梨沙さんがふふ、と軽く笑ってつぶやいた。
「一学期の半ば、6月になる前にはもう、真知子ってば片岡くんのことを好きだったもんね。何がきっかけだったんだろう」
「そこだけは頑として言わないよねあの子。まあ聞いたところで砂糖吐くだけなんだろうけどさ」
「へえ……そんな頃からもう、遠野さんは片岡くんのことを」
「気づいてなかったかー。安定の山形だなあ、割と露骨だったぞいろいろと」
うーん、知らんかった。3人の話にいささか動揺する。
6月になる前からって、俺が初めて首都圏に行ったタイミングよりも前ってことじゃん。そんな頃から? しかも露骨だったの遠野さん?
夏休み入ってすぐ、みんなでプールに遊びに行った際に初めて気づいた俺ちゃんの鈍感力がエグい。世界獲れそう。
安定の山形とまで言われてもぐうの音もでない俺ちゃん、ぐぬぬと小さく唸っていると苦笑した梨沙さんが、肩に手をおいてやんわりとフォローしてくれるのだった。
「公平くんはあの頃忙しそうだったんだし仕方ないよ。ほら、なんか変な子供が絡んできたりもそのあたりだったし」
「変な子供……あー」
『……おい、まさか僕のこと言ってるのかこの女。変なとはなんだ失礼な、どこから見ても最高に完璧に美しかったろ僕の端末は!』
そこかよ。梨沙さんの話の中に出てきたワードに過剰反応した脳内のアルマさんに軽くツッコむ。そうか、そういえばそのあたりの時期にコイツの端末、みんなの前にも姿を表してるんだよなあ。
放課後、遊びに行こうとした矢先の商店街にひょっこり姿を見せたんだコイツは。そんでもって地獄の道連れに勧誘してきたわけなんだけど、その時の記憶が友人達にも色濃く刻まれているみたいだ。
あそこがほぼ唯一、俺の戦闘態勢を見せちゃった場面だもんな。折りに触れ怖かったと言われるあたり、どれだけピリピリしてたかが分かるってなもんだよ。
松田くんが天井を仰ぎ見て言う。
「あの子なー。めちゃくちゃ可愛かったけどめちゃくちゃ怖かったよなーなんか。見てるだけで鳥肌が立ったっていうか」
「あの子ってばなんだったの山形くん? 探査者の人? でもなんか、因縁あるみたいだったけど」
「ええと……」
続いて木下さんからも飛んできた質問。いずれも疑問に思って当然のものでずばり、あの子なんだったの? というやつだ。
残念ながら正直に答えていい質問じゃない。邪悪なる思念なんて世界の裏側の話だし、彼らは知る必要もなければその義務も、権利も資格もないのだ。知らないほうがいい。
ただ、それにしたってやつを目の当たりにしてその異常さを肌で感じ取ってるわけだし……俺との問答も聞いているわけだからね。気になるのも当たり前なのは分かるよ。
なのでここは一つ、と俺は咳払いして、みんなにこっそりと打ち明けた。
「えー……と。まあ、あのー因縁があるのはあるよね。うん。アイツはなんていうか……そう、人に擬態したモンスターみたいなやつでさ。俺と戦ったことがあって、いろいろしつこく絡まれてたんだよね、俺」
「は? モンスターって……普通に外に出てたぞ?」
「うん、だから危険度が高くてあんなに俺も警戒してたんだよね。あの場で戦うと周囲の人達やみんなが危なかったからさ、正直やばいなって思ってたんだ」
嘘は言ってない。何一つ嘘ではない。
邪悪なる思念の端末なんて人に擬態したモンスターと大差ないし、俺と戦ったことがあって、しつこく絡まれてたのも本当。
危険度が高くて警戒してたのも本当だしなんなら、あの時点で戦ってると周囲に被害が及ぶからマズいと思ってたのも偽りない事実だ。
……こう言うとアレだけど、悪質なストーカーみたいなやつだったな、こいつ。
脳内のアルマさんに向けて言ってやるとギャースカ騒ぐわけだけど、その一切を華麗にスルーして俺はさわやか~に笑って、みんなを安心させるように言うのだった。
「まあ、そのモンスターも夏休みに入る前にやっとこさ倒せたんだけどね。お陰で肩の荷が下りた気持ちで終業式を迎えられたよ、アハハハ」
「お、おう。そうか……大変だったんだな、山形……」
「お疲れ様でした、公平くん……」
誤魔化しつつ軽く笑うと、俺が一学期中それなりにヤバいことに巻き込まれていたと察したかみんな、労るような顔と声で慰めてくれた。
うーん、微妙に気まずい。変なエピソードのせいで若干冷えた空気を前に、御両人早く来てくれー! も願わずにはいられない俺でした。
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