少しずつでも歩いていこう。人間として、家族として
リーベとシャーリヒッタが風呂に入りに行き、リビングには両親と妹ちゃんと俺が残る。
いやまあ、だからなんだという話ではあるんだけども。ニヤニヤしながらこっちを見てくる3人にそこはかとなーく嫌な予感を覚えつつも、俺は台所に行ってコップに水を注ぎ始めた。水分補給だね。
風呂上りで乾いた身体に水を流し込む。うまい。
さーこれであとは寝るだけだなーって思いながらも、俺はなんかにこやかな家族に嫌々ながらも話しかけた。
「何さ、3人して」
「いやー公平が父様って。あんな可愛い子にそう呼ばせてるとか、ちょっと、ねえ?」
「マニアックだよねー」
「パッと見同い年くらいに見えるからこう、特殊な趣味感がものすごいんだよなあ」
「地味に考えないように目を逸らしていたことをズバッと言われた!?」
マニアックだとか特殊な趣味だとか、とても本人には聞かせられない暴言だけど正直ね、分かるようん……
普通に考えてあり得ないシチュエーションだもの、倒錯的にすぎる。助けてもない鶴が何やら嫁を気取って乗り込んできた、ってくらい荒唐無稽なんだよね、ぶっちゃけ。
とはいえそれでもシャーリヒッタは精霊知能、500年に渡り我が身の不出来をカバーし続け、ワールドプロセッサを補佐し続けてくれた功労者だ。
そんな彼女が擬似親子プレイがしたいぜ! などと言い出している以上、こちらとしては無下にもできないしたくない。まあ、少なくともTPOを弁えてくれている以上はね。
「一応、衆目の前だと父様呼びは控えてくれてるし、つまり分別はきっちり持ってるからひとまずはそれで良いかなって思うんだ。あの子の好意に応えてあげたくもあるしさ、あんまりツッコまないでもらえると助かるかも」
「そのへんは分かってるよ。さっきお前が風呂に入ってる間に、彼女の視点からいろいろ経緯を聞いたしな」
「正直、大分感情が煮凝ってるみたいで怖いところもあったけどね……でも総合的にはただただ、アンタを父親として慕いたいってだけみたいだし。他所でやらないなら別にいいかなって私達は思うわよ?」
「煮凝り……まあ、そこはきっちりとこちらでも線引きするよ」
あの子の内面については知る由もないし、なんなら今、一緒に風呂に入ってるリーベのほうが詳しいんだろうけど。
それでもシャーリヒッタが永年積み重ねてきた想いや感情を時々、持て余してそうな気配は俺も感じている。
母ちゃんはそれをして煮凝りと称したんだろう。様々なものが煮詰まって固まって、時折ドロリと崩れるように表出するソレを、怖いと思うのはある種当然だ。
もちろん、あの子自身が危険だとかって話じゃなくてね。知的生命体が持ち得る感情エネルギーってのは、熱意を帯びれば帯びるほどに他者を圧倒していくものだから。
今後一緒に生活していく中で、シャーリヒッタのそういう感情のうねりを少しずつ理解して、受け止めてあげられるようにしていきたいと思うよ。500年もの間、誰よりも私を愛し求め、乞い続けて来てくれたその献身に報いるためにも。
ぽつり、と優子ちゃんがつぶやいた。
「シャーリヒッタお姉ちゃん、兄ちゃんの妹ってことで私にもすごく優しかった。リーベ姉ちゃんとはタイプが違うけど、私もきっと仲良くやっていけると思う。兄ちゃんのことを父様って呼ぶのは、ちょっと慣れるのに時間がかかるかもだけど……」
「おいおいで良いよ、俺だって正直慣れきってない。ただ、おふざけでやってるわけじゃない以上、外野が茶化すべきものでもないってことだけは分かっといてくれれば良いよ」
この子もこの子なりに不安半分期待半分ってところか。当たり前だな、突然姉ができたんだし。
それでもポジティブに受け止めようとしてくれることをありがたく思うよ。俺とあの子の関係については複雑だけど、それ相応の理由があるから過度に気にしすぎないように受け止めてもらえると助かる。
そう言うと優子ちゃんは笑顔を浮かべ、力強く頷き応えてくれる。
わずかにあった翳りを拭い去るような、明るい笑みだった。
「だね。うん、なんか楽しみになってきた! 明日からの新しい生活! 私に、お姉ちゃんが2人もできたんだって!!」
「そうねえ。好きな食べ物とか趣味とかは今後作っていきたいって言ってたし、公平も優子も、いろんな経験をあの子と一緒に重ねていきなさいよ?」
「もちろんリーベちゃんも一緒にな。それが家族になっていくってことだし、ひいてはお前達の今後の長い人生をそれぞれ、豊かにしていってくれることだと俺は思う。良いことも悪いことも、全部が生きることへの糧だ」
「うん。そうするよ父ちゃん、母ちゃん」
両親の言葉を受けて、応える。俺も優子ちゃんもリーベもシャーリヒッタも、人間的にはまだまだ子供だ。これからたくさんのことを経験していって、そうして少しずつ成長していくんだ。
あるいは果てなんてない道のり、せめてみんなで歩いていけたらと思う。辛い時も苦しい時も、楽しい時も嬉しい時も。
シャーリヒッタも交えてのこれからの日々、人生に想いを馳せて。
俺は微笑みを浮かべて、水を飲むのだった。
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