やはり日常生活でのワープ能力はインチキじみている
とっぷりと日も暮れて今はもう21時前。居酒屋の前で解散して帰路につく俺達は、しかし駅に向かうでもなし、人気の少ない路地裏の空いた場所を歩いていた。
当初の予定ではもうちょい早く終わる予定だったし、大人組の酔い覚ましがてら遠くの駅まで歩いて向かおうって話になってたんだけどね……主に酒呑み組が思ったより長いこと呑んでたのもあり、想定外に時間がかかっちゃった。
大人がいるとは言え未成年が出歩くのはあまりよろしくない時間帯に差し掛かりそうってことなので一転、空間転移によるショートカットを実行しようという話になったのだ。
「マリーちゃんもだけどヴァールも飲みすぎちゃったものね、まったくもう」
「い、いやあ私ゃそこまでは、ファファファ! それにベナウィやクリストフがまあまあ一献つって勧めてくるもんだからつい」
「この場にいない弟子筋に罪を擦り付けるの、どうかと思うぜマリアベールの婆様よォ……」
呆れ返るソフィアさんとシャーリヒッタ。二人に挟まれて苦言を呈される形となった渦中のマリーさんはもはや、誤魔化し笑いを浮かべて途中寄ったコンビニで買った水を飲むばかりだ。
ああ、ちなみにサウダーデさんとベナウィさんはマジで二次会に縺れ込んでいった。宴が始まる前から呑んでたのも含めるとかれこれ4時間くらいぶっ続けで呑んでたと思うんだけど、それでもまだまだ呑み足りないんだとか。怖ぁ……
何が怖いって、そんなぶっ壊れた飲み方をするお二人をしてアレはない扱いされている往年のマリーさんだよ。
おそらく想像もつかない飲み方をしてたんだろうなと考えると、肝臓がぶっ壊れるのも当然だしソフィアさんやヴァールがキレるのも当たり前の話ではある。
まあ今回の場合、ヴァールも飲み過ぎでソフィアさんとバトンタッチすることになっちゃったんだけどね!
俺の隣、葵さんと並んでアイスクリームを食べているエリスさんが苦笑いして話しかけてきた。
「ハッハッハー……お疲れ様公平さん、どうだったあのヴァールさん、面倒だったでしょ?」
「お疲れ様ですエリスさん。いやあ、ははは……いろいろストレスとかもあるんでしょうね、あの子も」
「そりゃあ、天下のWSO統括理事様だもんねえ。要は誰より下からの突き上げを食らって、誰より誰かのために動き続けなきゃいけない立場だからさ。大変だよ」
しみじみ語るエリスさんは、おそらくは世界で指折り、ソフィアさんやヴァールと古くから知り合いなはずの人だ。だからこそ彼女達の苦労にも察することが多いんだろう、慈しみと労りを瞳に宿している。優しい顔だ。
そうだよな、WSOなんていう世界最大の国際機関の頂点にこの100年、ずっと君臨してきたんだ。栄光と栄誉に満ちた役職とは裏腹に、その責務、背負った使命、こなさなければならないタスクは想像を絶するものがあるだろう。
いろいろ溜め込んでいるなんて、言うまでもないことだ。
しかもそこに加えてシステム側の存在として、アドミニストレータ計画はじめ対邪悪なる思念のためにもいろいろ動いてくれていたからね。
本当に、そう考えると探査者・山形公平としてもシステム・コマンドプロンプトとしても頭が上がらないよ。多少酔っ払ってダル絡みしてきたって、俺にとってはむしろ少しでも寄り添えた気持ちがして今さらながら、ちょっぴり嬉しいまであった。
だから、ソフィアさんにも俺は言う。
溜め込んでいるのはこの人も同じだ。だから、ヴァールだけじゃなく彼女もまた、そうした胸の内を吐き出してくれても良いんだよって、ね。
「これからも何かあったら、俺にくらいは不満や愚痴を吐き出してほしいですね。ヴァールだけでなくソフィアさんも」
「え……私も、ですか?」
「もちろん。システム側の存在として、コマンドプロンプトとして、山形公平として……あなたの友達としてもね。辛い時にはせめて話だけでも聞くのが、友人ってものでしょう?」
「…………! あらあらまあまあ。ふふ、そうですね。たしかにそれは友人というもので、そして私達は友人です。はい、いざとなれば頼らせてくださいね?」
もう互いのプライベートな連絡先まで知り合っている、俺達は友達なんだ。そう言うとソフィアさんは酒由来ではなく頬を赤らめ、照れたように微笑んでくれた。
と、少し歩くといい感じに人気のまったくない空地が見えてきた。ここらで空間転移、サクッとやっちゃいましょうかね。
俺が転移させるとなるとわざわざ神魔終焉結界を発動しなきゃいけないのが若干の手間だし、ここはリーベに頼むとするか。
「頼めるか、リーベ」
「モチのロンですよー! 《空間転移》、転移先は山形家の庭先でー!」
「まあ、出た先に知らない人がたくさんいるのはアレだしなー」
山形家はなんやかや、この場にいる全員が一度は訪れている──ソフィアさんだけはヴァールの時にだけど。まあ人格交代すれば帰れるだろう──ので、うちの庭に指定して空間を繋げる。
発生するワームホール、人間大の裂け目の向こうには勝手知ったる懐かしの我が家が見えて、なんだかホッとするや。
あんまり超常現象を長々と引き起こすのもなんだし、サクッと転移しましょうかね。
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