宴も終わってさあ、それぞれの帰路へ
ソフィアさんが表に出てきたあたりで本当に宴も終わるタイミングを迎えたって空気になってきた。
酒呑み三師弟、というかマリーさんもさすがに彼女の前では酒は止めとこうかなって感じでスン……としてるし。なんだかんだで案の定、結構呑んでたよねこの人。
「マリーちゃん?」
「ファ、ファファファ〜」
もはや笑うしないとばかりにふにゃふにゃ声を上げて水をたらふく飲んでいる。
往年の話から鑑みるにあまり酔ってなさげなのがさすがの呑兵衛ぶりだけど、それはそれとして御高齢な上に肝臓が危うい身の上だからね。
じっとりとソフィアさんに見つめられつつも顔を背けているマリーさんから俺もそっと目線を逸していると、エリスさんに介抱されていた葵さんがおもむろに立ち上がった。
顔の赤らみも収まって、大分素面に戻っているみたいだ。さてさて、と切り出して宴を終えることを幹事として告げてくれた。
「宴もたけなわでございますがみなさん! そろそろ20時も回ってますので一旦終わりとしましょうか!」
「これ以上ダラダラ居座ってると、公平さんみたいな学生さんに悪いからねえ、ハッハッハー」
「大人が一緒とはいえ、あまりよろしい話でもありませんからね。一度解散して、まだ引き続き飲みたい方は別のお店で呑むと良いでしょう。あ、マリーちゃんは私と帰るのよ? わかってるわよね?」
「え。あ、いやいやファファファ! ええもちろん!」
怖ぁ……まだ飲む気だったのかマリーさん。ソフィアさんに満面の笑みで止められて顔が引きつってるけど、さすがにもう帰ったほうが良いですよ!
言いながらも荷物をまとめて退店する。ここの支払いをヴァールが全額受け持つつもりだったというのはソフィアさんも承知していたようで、泣く子も黙るクレジットカードで明朗会計一括払いをしてくださった。
パンピー山形くん的には結構背筋が凍る金額だったけど、そこを問うのは野暮ったい。ありがたくご馳走になりますとだけ言って、俺達は店の外へと出た。
夜の市場は賑やかさもすさまじく、特に俺達のように飲みに行くよ、飲んでるよと言う人達が右へ左へ行き交っているのが祭りめいた光景だ。
見れば近くにもいくつか居酒屋があり、ベナウィさんは思いっきりそこに興味関心をそそられていた。
「おお、ファンタスティック! いろいろあるものですねえ、飲み屋がこんなに!」
「二次会と行くのも面白いが、ベナウィ……おそらくは俺とお前のサシになりそうだな? 先生もさすがにもう無理だろう」
「エリスさんも葵を連れて帰りますよ、すみませんねハッハッハー。ほら葵、追加で水だよたーんとお飲み」
「はっはっはー! がぶがぶ飲みますよー!」
このまま二次会する気満々の彼だけど、現状それにノッてくれるのは師匠であり実は大層お飲みになられるサウダーデさんしかいないのが実際のところだ。
何しろマリーさん、葵さんが飲み過ぎでそれぞれソフィアさん、エリスさんに止められてるからね。
香苗さんは途中からソフトドリンクに切り替えてたから余裕はありそうだけど、そもそも飲み過ぎに気をつけてそうしたんだろうから二次会でまた呑む、なんてのはなかなかに本末転倒だ。
それに本人ももう、帰るつもりでいるようでリーベといろいろ話してるしね。
「それでは帰りは空間転移ですか? さすがにここでは人目に付くと思いますが……」
「繁華街を抜けて静かめな路地裏にでも移動しましょっかー。なんなら公平さんの因果操作で認識阻害してもらってもいいかもですしー」
「そ、そそそそんなこともできるんですか我らが救世主様は! 使徒リーべちゃん、そこのところ詳しくお願いしますメモメモメモり、メモメモメモり!」
「えぇ……?」
帰る算段つけてたんじゃないのか、なんでいきなり伝道師モード入ってるんだこの人、怖ぁ……
リーベが因果操作なんて口にするもんだから、香苗さんが人目も憚らず狂信者モードに突入しちゃったし。ちなみに認識阻害ってのはアレだな、《誰にも見られてないから誰にも気づかれてない》とかそういう塩梅の因果関係を弄る方法だ。
地味に疲れるけど、便利っちゃ便利な効果ではあるんだよねー。
「はふぅ、食い過ぎたー! 現世サイコーだな、食うのも飲むのも今日が初めてだったがこの満足感すげぇ!」
「ん……シャーリヒッタ。大丈夫か、食べ過ぎでお腹壊したりしそうなら家帰って薬飲もうか」
「さすがにそこまでは大丈夫ですよ、とうさ……もとい公平サン! でも、へへ……へへ、えへへへ!」
と、カルト宗教関係者のやり取りを遠巻きに見ているとシャーリヒッタがやってきて、満足気に腹を擦りながら俺に引っ付いてきた。
この子、昼からこっち結構飲み食いしてるもんな。楽しんでくれたならそれが一番だけど、さりとてそれで体調を崩すのも良くはない。
気を遣って言ってみると、ワイルドな赤髪を楽しげに揺らして彼女は、堪えきれないとばかりにものすごくにこやかな笑みを浮かべて言うのだった。
「家、帰る家! オレも今日から公平サンの家に"帰る"んですね! すっげー楽しみです!」
「…………そうだな。俺とリーベとお前と、3人で一緒に帰る家だ。改めてだけどこれからよろしくな、シャーリヒッタ」
「はいっ! こちらこそよろしくお願いします!」
今日からこの子も新しい山形家の住人なんだ。俺の家族なんだ。そのことを再度噛み締めてお互いに笑い合う。
きっと、もっと賑やかで楽しい生活になるだろう。その確信を持ちながら、俺達はこれにて宴を解散したのだった。
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