突然興奮するお姉さん
「関口ごときに憧れ? 公平くん、冗談は休み休みおねがいします」
関口くんを半ば強引に振り払って御堂さんが俺を車に乗せたあと。
軽快に走る車内でぽつり、やっぱり関口くんすごいなあ、あこがれちゃうなー。なんてこぼしたところ、彼女から出たのはこんな台詞だった。
「まだ界隈に詳しくないから仕方ないのかも知れませんが。あの子供が精々誇れるものなどスキル《勇者》くらいのものでしかありません」
「えっ。でも称号とか、狩人とか」
「あの辺のスキルはすべて後天的に得られるもので、しかも取得条件も判明しています。簡単なものですよ? 効果とて大したものでもありませんし、あなたが気に掛ける程度のものではありません」
「レベルとかも高かったですけど……」
「3年探査者をしていればあのくらいにはなります。むしろ低いくらいです。どうせ最低限しか潜らず、あとはひたすら取り巻き共にチヤホヤされていたのでしょう。あれはゴミです」
「酷ぉ……」
異様に辛辣すぎませんか御堂さん。言葉のナイフがサックサクだよ。
ていうかめっちゃ怒ってない? 正直、関口くんの思想はともかく言ってることって割と合ってるんだけどね……ええそう、俺は彼に気後れして探査者ですって言えませんでしたよ。
そんなことを言うと、彼女はさらに怒ったようだった。
「あなたはっ、自分の価値に無頓着すぎる!」
「えぇ……?」
「スキル《風さえ吹かない荒野を行くよ》、あれの効果がすべてを物語っています! あなたは特別なんです! この広い世界、たくさんいる人間の中でたった、たった一人っ! すべてを変えられる力を持っているんですっ!」
「は、はあ。いやでも、はあ」
「既にあなたのことは、最上級の探査者の皆が知っています! 本当に力ある者たちや組織は、あなたに宿る能力と課せられているであろう使命、運命に注目しているんです!」
「ちょちょちょちょっと? なにそれなにそれ」
「そんなあなたが! あんな程度の輩に自信喪失などと! まして自身の素性を隠すなど、許されないことです! 世界から、あなたという宝を隠さないでください!!」
「何これ宗教!?」
突然興奮する御堂さん。彼女の中で何者なんだよ俺は。少なくとも何か盛大に勘違いしているだろ、この人。
ていうか何、俺もう誰かしらからマークされてんの? 下手打つと襲撃とかされるの? 組織とか動いてるの? 怖いよぉ……
結構なシャウトをかましたからか、先程よりはずっと落ち着いた様子の御堂さん。失礼しました、と言ったきり、車内に沈黙が降りる。
そうこうしている間に車は組合本部に着いた。今日は放課後にダンジョン探査しようと思っていた都合、元より訪れるつもりでいた。
でもこうなると、話だけでダンジョン探査には行けないのかも知れないなぁ。どうなることやら。
「お待ちしておりました、御堂様、山形様。組合本部長室にて広瀬がお待ちです」
「既に広瀬本部長には連絡を通しています。ことは危急です、さあ行きましょう」
「あっ、はい」
言われるがまま、御堂さんに付いていく。広々とした探査者待合室に入り、数多いる先輩探査者さんたちの目を受けつつ、関係者以外立ち入り禁止のエリアへと進む。
エレベーターに乗り、最上階の15階を選択。狭い空間だが空気の入れ替えや清掃は随時行われているようで、沈黙も気にならない。この施設、さすが県庁駅前の高層ビルなだけはあるなあ。
ちなみにこのビル、探査者組合としては1階から3階までと、最上階の15階しか使っていない。
じゃあ残りの4階から14階はなんぞやって言うと、これがなんとS級探査者、つまり最上級とされる探査者たちの事務所階層なんだな、これが。
日本には今、10人しかいないんだったかな? そんな頂点に君臨する人たちのためにそれぞれ1階層ずつ割り当てられているそうな。
もっとも、そうしたS級さんたちだってみんながみんな、この辺に住んでるわけじゃないから。各都道府県ごとにこうした拠点を構えていて、攻略するダンジョンの位置によって毎度、河岸を変えているとのことだった。
さて15階に到着。エレベーターを抜けて広く長い廊下を進む。左右にも部屋は多いのだが、今回、広瀬さんの待つ本部長室は最奥らしい。
突き当りにあるドアを御堂さんがノック。悠然とそのまま開けると、めちゃくちゃ広いオフィスの中、難しい顔をして広瀬さんと他2名、おじさんおばさんがいた。
「失礼します。A級ライセンス御堂香苗、山形公平さんをお連れしました」
「ご苦労さまです……二人とも、どうぞおかけください」
「失礼します。さ、こちらへ」
「し、失礼しまぁ……」
空気が重い。お偉方がこっちガン見してくんの、キッツぅ。
促されるままソファに座る。呼応して本部長はじめおじさんとおばさんも向かいに座った。俺をガン見したまま。
俺がガチゴチに緊張しているのが見て取れるのか、お偉方は頬を緩めてこちらに、友好的な笑みを向けてくる。こちらをガン見したまま。
いやガン見止めろや!
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