第0話:The Beginning of ALL
これは、逆逆三里(W0460D)とずっとXナンバー(W5568E)が合宿のテンションで衝動書きしてしまった小説です。
二人三脚どころか六脚ぐらいの勢いで頑張りたいと思っています。
目が覚めたら、そこは
「どこだ? 此処」
見知らぬ部屋……
俺、高山恭介はある小部屋の中にいた。
紺の壁紙、紺のテーブル、紺の椅子。しかし所々置いてある灰皿や花瓶等の小物は漆器のように艶のある赤で、そのコントラストが今の状況と相まって異様だった。
しかし、この空間にはまったく見覚えが無い。それどころか、どうやって連れてこられたかすらも分からない。
気が付いたらこの部屋の真ん中に立っていた。
頬をつねってみる。
ぎゅーっ
「ぃだだだだだだだだっ!」
どうやら夢ではないようだ。俺は赤くなったほっぺたを触りつつ、自分の銃を確かめる。どちらも盗られてはいないようだ。それぞれ抜いて初弾を装填する。
いわゆる「拉致」をしたにも関わらず、相手はこちらの武器に手を付けていない。プレイヤーズもこんなマヌケな真似はしないだろう。
「意味が分からない……」
両手に握っているルシフェルと十六夜のグリップが軋む。
ガチャッ!
「!」
ドアノブが捻られ、扉がゆっくりと開く。
「誰だっ!」
俺はすぐに2丁の銃を構え、ドアの前に照準を合わせる。
「ホストに向かって『誰だ』は無いだろ」
ドアが開くと、そこには一人のスーツを着た男、いや青年が立っていた。大体歳は同じほどか。背はやや高めだが、威圧感はまったく無い。だがここで銃を降ろすような真似も危険だ。
青年は部屋に歩いて入ってくると、両手を広げて部屋を見渡す。
「美しい部屋だろ?」
「まあ、清潔ではあるけど」
「この紺色は、ブルマを表している。そしてこの赤も、同じくブルマを」
「うあぁああああっ!!」
バンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッチャキン!
俺は片手で握った拳銃の9mmルガーを全弾男に向けて撃ち尽くした。何だろう、今まで戦ったどんな敵よりも、コイツからは濃い、純粋な恐怖しか感じない。そんなに実戦経験があるわけじゃないけど。
「きっ、急に何言い出すんだこの変態!」
こいつは、こんなところじゃなきゃ、お近づきになりたくない種類の人間だ。
「さて、君はここに来る前までの記憶はあるかな?」
んな事を言い出すスーツの青年。そういえば、何してたんだけっか。
「たしか――ラノベの発売日で雨の中、本屋に駆け込んで、道路を渡ったところで……あれ?」
ここまでしか思い出せない。まるで脳が思い出すのを拒否しているかのように。
「そのあとのことさ。ヒントをやろう。自動車のライト」
「ライト?」
脳の細胞をフル稼働させる。……そして、思い出した。いや、思い出してしまった。
「あの痛車っ!」
「思い出したようだな」
そう、あの雨の中、初版の本を片手に道路を渡る俺の横から、とある学校の音楽活動部がカスタネットでうんたんしたり、菓子食ったり、合宿で海に遊びに行ったりする漫画のプリントが至る所にされた車か突っ込んできたことを。ってことは、
「じゃ、じゃあもしかして……俺は痛車に轢かれて死んだっていうのか? うそだろ?」
嫌だ、認めたくない! そんな、そんな痛い死に方なんて! まだ読みたい本とかいっぱいあったのに! 言いたい事だっていっぱい、やりたい事だってたくさんあったのに!
「いや、そんなに落ち込まれると、逆にやりにくいんだが」
「……ゴメン、立ち直れそうにないわ」
スーツの青年が仕切りなおすように咳払いをする。まだ何かあるらしい。
「そう悲観することはない。君はあの時の衝撃で、体から魂が抜け出てしまった状態なんだ。つまり」
「身体に戻れる可能性があるってことか?」
「ああ」
どうやら俺はまだ死んだわけではないらしい。良かった。
「んで、どこにあるんだ? 俺の身体は!?」
スーツの青年は顎に手を当てて考え込む。一体どこにあるんだ? こんなブルマのことしか考えてない変態の部屋からは一刻も早く出たかった。
「分からないんだ」
返ってきた答えに俺は愕然とする。
「んだそりゃ!? テメェ、知ってんじゃねーのかよ!」
「どうしたんだい、何か、良いことでもあったのかい?」
「なんで忍野!?」
さすが、ラノベばっかり読んでないな、とスーツの青年は呟いた。
「確かに君の体の在り処は分からない。しかし高山恭介。君と同じ境遇の魂がこの世界を彷徨っているはずだ」
「何だその設定。お前、逆逆に頼んで物語から消すぞ」
正直、そんな話に付き合っている暇は無い。家には腹をすかせた涼とアンプが待っているハズだ。涼に料理は作れないし、作ったとしてもあんな暗黒物質をアンプに食べさせるわけにはいかない。しかし、その言葉もスーツの青年には効かないようだった。
「残念だが、逆逆氏の権力はここには通じない。この世界は違う勢力からも介入を受けているのだから」
「違う勢力?」
「その名もXナンバー勢力」
「えっくすなんばー?」
「まぁ、いずれ分かるだろう。とにかく、君と同じ境遇の魂を見つけることだ。それと、体を見つけるのも急いだ方がいいかもな。中身のない、空っぽの器を狙う魂も少なくはないのだから」
「おい! どういうことか説明しろよ! おい!」
青年の体が陽炎のように揺らいで消える。何でこいつは最初にドアから入ってきたんだろうか。
「俺と同じ境遇の魂を見つける、か」
今は、奴の言うとおりにするしかなさそうだ。とっとと帰って買った本読みたいし。
一方その頃。
高山恭介が目覚めた部屋と全く同じレイアウトの部屋にて。
「ん、どこだここは」
俺、つまりアルバート=リョウは辺りを見渡して呟いた。こんな部屋に見覚えはないし、来たという記憶もない。テロリストにでも拉致されたのだろうか? 日頃からそんな隙を見せないで暮らすようにはしているのだが、どうやらボロが出たらしい。その証拠がこの異様な状況だ。ったく、鈍ったか? エミリオ辺りにに知られたら何を言われるか分かったものではない。そんなことを考えながら背中のバックパックやホルスターを確認する。どうやら装備品に手は付けられていないようだ。手足も縛られていない。――テロリストではないのか?
「ギャングのガキどもか? それにしたって拳銃の1挺ぐらい持っていくよな」
俺を拉致した人間は何をしようとしている? クソッ、考えが読めない。
「とりあえず、襲撃しに来るとしたらドアか」
ドアノブに手榴弾をワイヤートラップとして設置。迂闊に外にでれば、どんなトラップがあるか分からない。不用意に動くのは危険だ。
しばらくして、ドアノブがまわされた。誰か入って来る!
「迂闊に爆発させないほうが良い。この部屋に風穴が開けば君の魂は異次元にあっという間に飛ばされてしまうだろう」
扉の向こうの声が俺に警告する。どうやら若い男のようだ。
「悪いが、SFは読んでいなかったもんでな。異次元とか魂とかそんな話に興味はない。お前は何者だ。どうやって俺をここに連れてきた。答えろ」
俺は愛銃SG552を構えて尋問する。
「俺を入れたら答えてやろう。とりあえずその物騒なモノを外せ」
安全ピンを手榴弾に差し込み、ワイヤーを外す。ライフルは構えたままだ。
「良いぞ、入れ。両手を高く上げてゆっくりとな」
この男、トラップの存在を予見していたのか?壁越しだ、あり得ない……
ドアからは一人のスーツを着た男が入ってくる。脇下に武器は確認できない。腰、足首も同様だ。
「ホストの体をジロジロ見るなんて、どういう了見だ?」
「こんな胡散臭い場所に上着を着て現れるんだ、この程度のチェックは最低限だ」
「ほう、なるほどなるほど。あの少年と違ってすぐには警戒を解かないか……さて」
男は両手を広げる。
「美しい色で塗装してあるだろう?この部屋は私の空間なのでね、自分好みに模様替えしているんだ。 この紺は、スクール水着の紺。そして赤は競泳用の水着を」
「チッ」
シュカッ!ドスッ!
右手でライフルを支えつつ、左手でスローイングダガーを指で挟んで投擲する。細い両刃のナイフは太腿に撃ち込まれて、相手の動きを止める
――筈だった。
「ハハハ、流石はあのXナンバーと付き合っているだけあって、ツッコミは速くて鋭いな。だが言っただろう」
ナイフの柄を男は掴んで、そのまま引き抜く。
その刃にも、男の体にも、血は一滴も付いていなかった。
「この部屋は『私の空間』だ」
男はナイフを山なりの軌道で投げて返す。俺はそれをキャッチすると、ベルトのシースに納める。
「……ほほぅ、立派な手品をお持ちだな。で、こんな所まで俺を呼びつけた理由は何だ? 情報か?」
「生憎、君の事を知る必要は無い。知っているからな。それより、君がここに来るまでの記憶はあるかな?」
この部屋に来るまでの記憶……何も思い出せない。雨降る午後、ニューヨーク警察本部にいつものように射撃練習場を借り、装備を車で積んで出かける所だった。車に乗り込もうとして装備を担いだ所までは覚えているのだが……
「ヒントをやろう。自動車のライト」
「ライト?」
そして思い出す。ああっ、クソっ!
「あの時かっ!」
路肩に出していた車に乗り込む時に、真正面からやってきたあのケバケバしい、イラストのペイントされた車。たしかレイが違法DVDをせっせと焼いていた、学生がバンド活動をしてステージの上でコケて下着を露呈するジャパニメーションの柄だった。その車はスピードを落とす気配無く、それどころか加速して俺の方に……
「俺は、あの車に轢かれて死んだって事か?」
Damn it!なんて事だっ!生憎昔から銃を握って危険な任務に就いていたお陰で、こんな歳で他の兵士よりも多くの死線をくぐり抜けてきた俺だ。当然最期は銃弾で、戦場に倒れるものだと思っていた。
だがそれが? NYのど真ん中で? クレイジーな車に轢かれて死ぬだって? ハッ、笑えないジョークだっ!
だが悪態をつこうと口を開きかけた時、俺はとんでもないことに気が付いてしまった……
「うぁああああああああっ!」
俺は頭を抱えて絶叫する。そうだ、なんたる失態だっ!
「せっかく射撃場のレンタル料金を払ったのに、行けずじまいじゃないかっ!!」
「意外と、ケチなんだな」
「ケチ? ケチだと? いいや違う。これは経営者としての判断だっ!」
「あの警察署長、人は良さそうだが貰える代金はキッチリと貰っていくだろう。クソっ、どうせなら半年契約でなく1ヶ月、せめて俺の名前ではなく部隊の名前を偽名でも良いから登録しておくんだったっ!
スポンサーのクニモトにもアーチボルト家にも全く申し訳が立たない。任務に全く不必要なカネが外部へ渡ってしまったじゃないか!
そうだ、そもそもカネを統括しておいた俺が死んでいるんだぞ。残りの人間に部隊の資金を管理し、適宜運用させる事が出来るのか?否だ。今までの株、土地、国債を含む資産運用を行ってきた際の資料は俺が所持していた。保管場所の暗証番号を知っているのは、俺一人じゃないか!」
畜生、少し泣けてきた。ここまで理不尽な目に遭うのは久々だ。
さて、とスーツ男が仕切り直すように言った。
「まあ落ち着け、その金が無駄になることはないかもしれない」
「どういうことだ?」
「君はあの時の衝撃で、体から魂が抜け出てしまった状態なんだ。簡単に言ってしまえば、仮死状態に近い」
さっきからこいつは何を言っているんだ。
「高山恭介はすんなり理解したんだがな。彼はライトノベルに長く触れていて軽く中二病になっていたからか。つまり、君の肉体はまだ死んでいない」
タカヤマキョウスケという人物がどんな人間なのかは知らんが、俺と同じような境遇であることは推測できた。それにしても、
「死んでいない、だと」
「ああ、そうとも。君だってここが天国――神が創った楽園とは思っていないんだろう?」
「当たり前だ。こんなふざけた部屋が楽園って言うのなら地獄に堕ちたほうがマシだ」
そもそも、天国に行くには俺は命を奪いすぎたが。
「あの世界に戻りたいのなら、君と同じ境遇の魂を見つけることだ。それと、体を見つけるのも急いだ方がいいかもな。中身のない、空っぽの器を狙う魂も少なくはないのだから」
どうやら目的ははっきりしたようだ。タカヤマキョウスケを探せ、という事らしい。
「聞いておくが、Xナンバーは関係しているのか?」
「ああ。君をここに連れてくるのはXナンバーの協力無しでできなかった」
男が陽炎のように揺らいで消える。アレは本当に人間だったのだろうか。
「Xナンバー……殺す」
拳銃のスライドを引いて初弾を装填し、殺意も新たに俺は部屋から出た。