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怪物勇者 名も無き物語  作者: Toooji
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名も無き物語

登場人物の名前もない

どこかの国の物語です。


童話絵本のように読んでいただけると幸いです。

海を超えた小国の王子がこの城に入り込み1年が経っていた。


王子が来た当初は皆も警戒していたが、平和ボケしたこの国の住人たちは、光り輝く金髪をなびかせ容姿端麗で絵本から抜け出してきたような王子の姿と、まさに王族といった気品ある振る舞いの若き青年を、いつの間にか尊敬に近い眼差しで迎え入れていった。

王子の方も、チャーム(魅了)の魔法を絡めた甘い言葉を巧みに操り、権力者はもちろん城に住むほとんどの人に近ずき、相手の心のスキをつき秘密や本音を聞きだす。ついつい話してしまった者達の弱音や野心から相手の弱みを握り、王子にとって不都合な者には、根も葉も無い悪い噂を城中にばら撒き排除し、残りの扱いやすい者達は抵抗しない従順な駒として洗脳をしていった。

そして今では、城のほとんどの者達が王子中心に動きはじめ、国王は最愛の一人娘である王女を、この頼れる若き王子の元に嫁いで欲しいと婚姻発表をするにいたったのである。


ずいぶんと長い間平和だったこの国は、国王も戦争を知らぬまま国を治めてきていたのだが、その寛大な精神と身分の差を気にしない平等な統治により国中の人々に信頼されていたため、城の内情を知らない大半の国民たちは、国王の発表に歓喜した。


しかしその歓喜の中、場内に住むひとりの男が王子を苦々しく見つめていた。


地位も強さも名前すらなく、王宮の馬小屋で馬達の世話をしながら暮らし「おい、お前」としか呼ばれない男なのだが、この清廉潔白な王子の正体が、かつて心無き怪物達を生み出し自らの快楽と欲望の赴くままに村や小国を滅ぼし、殺戮の限りを繰り返していた魔王と呼ばる悪魔であることを、この男だけが知っていたのである。


そして王子がこの城に来てから1年もの間、王子の動向を密かに探り、その隠された野望を阻むべく準備をすすめ、婚礼の儀の前夜である今日、王子の真実を暴くべく作戦を実行しようとしていた。



時は13年ほど前に遡る


海岸沿いの小さな村の砂浜に、ボロ布に包まれた男がひとり流れ着いた。

身動きひとつしない為、誰も気づかないまま、しばらくそこに放置されていたのだが、数日後ひとりの少女が走り寄って来て声をかけた。

「大丈夫?お水を飲む」

両手で大事そうに持たれたコップから、男の口に水が流し込まれる。

男のほんの少し開いた瞳にうっすらと光が差し込んだ。

そして顔全体を少し傾け少女の顔をぼんやりと見つめる。

「生きてる!!生きてるは、お父様!」

少女は満面の笑みを浮かべ、砂浜を駆け出してどこかへ向かう。


しばらくすると、甲冑に身を包んだたくさんの兵達を連れ、豪華な衣装に身を包んだ父親らしき者が少女に手を引かれやってくる。


「お父様、この子を助けてあげて」

懇願する少女に困り果てた様子の父親は

「急に馬車を止めろと言うから何事かと思えば・・・

仕方あるまい、このモノを城へ連れていき手当をしてやれ」

父親に抱きつく少女。

男は兵士達に担ぎあげられ、荷馬車の荷台に載せられ城へと連れていかれた。

数日後、男を乗せた荷馬車は、この国の中央にある王家の城に到着していた。

白を基調としたとても大きく美しい、まさに平和のシンボルのような立派な城である。

そして助けてくれた少女と父親はどうやらこの国の国王と姫だったようである。


連れてこられた男は、城の敷地内にある騎馬隊が管理する広い馬小屋の片隅に簡易な藁のベッドを作り寝かされ、馬達の世話と管理をする獣医達により治療が施された。

男の様態は、とても生きていられるとは思えないほど深刻だったが、不思議と鼓動を止めることなく生き続けていたため、獣医達は揃って首を傾げていた。

時折、浜辺で助けてくれた姫がやってきては獣医の静止を押しのけて、寝たきりの男の世話をやいていた。

それは周りから見ると、自らが拾ってきた捨て犬を、はじめてできた弟を自分で育てようとしている子供のようにも見えたが、男にとってその行為は神の加護のようにも思えるものだった。


それから数か月がたち男は立ち上がり動けるまで回復していった。

しばらくはリハビリもかねて、世話になっている騎馬隊の馬たちの世話や庭の掃除を率先して行い、休憩時間になると小さな姫様がやってきて手を引かれながら城内の庭や近道、城外に抜ける隠し通路なども案内された。

そんなある日、姫様に連れられて国王が馬小屋にやってきた。

男はひざをつき恩人でもある国王に深々と頭を下げる。

「頭を上げてよい、いつも姫が世話になっておる。

お主の働きは、周りの者から聞いておる。

行く宛もないのであれば、このままここで働いてくれぬか?

そして、この危なっかしい姫を陰ながら守ってほしい」

男は今だ声が出せなかったため、大きく首を縦に振り

喜びをアピールした。

「も~お父様ったら!私がこの子を守ってあげてるのよ」

少しふてくされながらも嬉しそうな姫に

国王も優しい笑みで答えた。




その国は平和だった。

人々は勤勉に働き、国王の住む王都は広く栄えて、陸続きの土地にある全ての町や村には王都直属の精鋭部隊が配備されており治安も保たれていたため、盗賊や魔物の襲撃、不穏分子の対応ができていた。

さらに国王自らが周期的に国中の町や村を巡り民の暮らしを見て回っていたため、悪政を行う者も現れることなく、民達は安心して働き国税を収めることが出来たし、民に寄り添う国王を国中に見せることが反乱分子の抑止力にもなっていた。


助けられた男は、国王直属の部隊でもある騎馬隊の馬の世話と管理、その他の雑用諸々を仕事として与えられ日々を過ごしていた。 姫様もしばらくの間は男と過ごすのが楽しかったのか毎日の日課である庭の散歩を楽しみにしていたが、5年、10年と過ぎた頃にはほとんど庭を過ぎた場所にある馬小屋の方まで足を伸ばすことは無くなっていたのだが、男の忠誠心は変わらず全ての仕事を国王と姫様のためにと誠実で完璧にこなしていたため、騎馬隊の馬達も良く調教された強く美しく馬に育ち、国王直属部隊の名に恥じぬ最強の騎馬と国中に名を轟かせているのは男の忠義の賜物と言っても過言ではないほどであった。


男がこの国に拾われて12年が過ぎた頃、王都近くの港町に小さいながらも豪華な客船が漂着した。

隣国の王族が嵐に巻き込まれ、大きく航路を外れ難破してしまったため近海で助けられたとのこだった。 難破船から救出されたのは、その国の王子である、金の髪に整った顔立ちの利発そうな青年と、側使いの執事、数人の使用人に船の船員達の十数名程度だったのだが、この国は自国で独自の発展をしてきたため、他国との交流が極端に少なかった事もあり、救出された全員を町長と警備隊の管理下のもと手厚く保護し、数週間後には国賓として王都に迎え入れる運びとなった。

物腰の柔らかな王子とよく教育された船員達は、町の民たちに温かく向かい入れられ、それに答えるかのように王子と船員は町の者に敬意をもって接し、王都に向かう際は別れを惜しむものも現れるほどだった。 その報告は、事細かく警備隊より国王の元に届けられていた為、王都訪問の際も歓迎ムードの中、国王直属騎馬隊の護衛の元に迎え入れられた。

馬の世話係の男は護衛向かった馬達の勇姿をひと目見ようと、よその国から来る国賓パレードに集まる群衆から少し離れた時計台の上から隠れて見下ろしていた。この場所はまだ幼かったお転婆姫が城を抜け出して町の冒険をする際に見つけたと言う隠れた秘密の場所だった。

しばらくすると、予定通りの時間にパレードの先頭が国の南門よりぞろぞろと入って着た。

町の民たちは外国の人が珍しいのもあり、左右の沿道に沢山あつまっていた為、まるでお祭り騒ぎのようになっていた。 先に出迎えに行った歩兵隊が綺麗に整列し両手足を伸ばした行進で現れる。そのあとによく手入れされた美しい騎馬隊が足並みを揃えて入って来る。

この国を代表する騎馬達として申し分ない一糸乱れぬパレードなのだが、普段から接している男は、馬達が何やら落ち着かないように見えた。

それは周りの観客のせいで興奮してしまってているのかと心配したのだが、その本当の理由はすぐにわかった。 騎馬隊の後ろから現れた、国賓用の立派な馬車は左右の大きなガラス窓から中の様子がうかがえるのだが、男のいた時計台からでは装飾された屋根のせいでちょうど中が死角となっていて王子の姿は見ることが出来なかったが、しかしその馬車から放たれる、警戒と敵意に満ちた禍々しいオーラのようなものを男は感じとった。 男はすかさず時計台の中に身を隠し震え上がる。「あれは・・・魔王のオーラじゃないか・・・」 男は忘れかけていた記憶の奥底に染み付いた、恐怖からその場で身を丸め動けなくなっていた。

そんな男の恐怖とはよそに、小国の王子を乗せた馬車はお祭り騒ぎの国民たちの中、ゆっくりと王と王女の暮らす白き美しい白の中に迎えられていった。


他国の王子が王都に来賓としてやってきてから、早くも1年が経とうとしている。


城下町を含めたこの国全体は今まで通りに平和で活気ある民達で溢れ、景気のよい日々を過ごしていた。

馬の世話係をしている男は、あのパレードの日以来、以前にも増して人前に現れることは無くなっていた。

毎日与えられた仕事である馬達の世話と調教を行った後は、誰にも気付かれないように馬小屋に戻り藁のベッドの奥で目立たぬよう眠りにつき、夜になると馬小屋を抜け出して、姫から教わった隠し通路や裏道を使って、王室の警備や最短経路などを徹底的に調べあげていたのである。

王子が王都に来てから1年、チャーム(魅了)の魔法を使い、国王を含め城中の者を王子の都合のいい駒とかえ、ついには姫さえも魅了して明日、婚礼の儀を行うまできていたのである。

もしこのまま儀式が行われてしまえば、実質この国のNo.2となりこの国は王子という名の魔王に支配されることになるであろう。

何故かチャームなどの状態異常に抗体のあり、馬小屋の隅で王子の目に止ならぬようコソコソ生きていた、姫に拾われた名も無い男だけがこの国の救える唯一の存在である事に誰も気づいてはいなかった。


婚礼の儀前夜、男は姫を魔王から救い出すために1年かけて練り上げた作戦を実行しようとしていた。

つづきます。

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