マーチ
「コ○ラのマーチと、○イの実ってどっちが好き?」
伏字なのに何にも隠れていない商品名を堂々と言いつつ壮太郎が聞いてきた。
右手にはコアラの菓子、左手にはリスの菓子を持っている。
「○イの実。」
そう言って俺は、左手からリスを奪取した。右手に残るコアラが心なしか寂しそう。
「二択なら、普通はキノコとタケノコを聞くんじゃないのか?」
「そこをあえてなのだよ、あ、え、て!」
フフンと鼻を鳴らす壮太郎。
奪い返してこないと言うことは食べても良いと判断して、とっとと蓋を開けた。
だが、久しぶりに食べるとなると、どうやって開けるんだったか忘れていた。
「箱の横に、剥がせるように印があんじゃん、それをビィーーとすれば開くんじゃん。」
「ああ、そうだっけか。」
手に持った一つがこんなにも小さかったかと記憶を手繰る。俺が成長したのか、○イの実が縮んだのか。
「懐かしい、こんな甘ったるかったっけ?」
「パイでチョコだろ?そりゃ甘いんじゃねえの?」
ああ、あえて言わなかった名前を出したな、こいつ。てか、疑問形?
「え、壮太郎食べたことないのかよ。」
「うん、ない。」
「どうやったら、幼少期に○イの実を食べずに過ごすんだよ、お前んち菓子買ってもらえなかったとか?」
「お菓子は手作りばっかりだったな。」
「逆だったか。」
「そ、俺初めて。友達とお菓子食べながらダベるって一回やってみたかったんだ!」
「そんなん、言ってくれればいつでもしたのに。」
もう菓子も残り少ない。そもそも一人分でも量足りないぐらいだし、男二人でがっつくにしては、、
「自分で稼いだお金で好きなだけ買うってのが夢だったんだ。んで、今日がバイトの初給料日!もう結構前から楽しみで仕方なかったんだー!」
ええ、今好きなだけって言ったか?そういえばいつもよりリュックがパンパンになっている気がする。
もしかして、
「さっき言ってた、キノコもタケノコも、ポテチもチョコもグミもポッ○ーもなーんでもあるぞ!」
リュックを机の上で逆さに振ると、ドサドサと見覚えのある菓子たちが降ってきた。
「さあ、ダベるぞ!お菓子も好きなだけ食えよな!」
胃もたれ必死な量の菓子とキラッキラした壮太郎の目。俺なら断わんないって思われたんだろうな、実際断るわけないし。
「とりあえず、飲み物買ってこようぜ。」