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ドラマティック・パラドクス  作者: 横山 恵斗
12/12

真実と真意(2)

すごく遅れてしまってすみません。一気に投稿してしまいます。よろしくお願いします。

「いいから、早く話してやれ。森田。」


 山下が横から流れを絶つと、森田は姿勢を正して話をした。


「君もさっき見た通り、あれは時間軸の違う君自身の未来だ。」


「俺もいずれああなるってことですか。」


「いや、そうじゃない。僕たち、時の旅人は過去の事物を変えて未来を変える。その度に、終着点は同じであれ、その終着点に行きつくまでの過程にズレが出てくるってわけだ。」


「それってどういうことですか。」


 山下は森田の遠回しな表現を聞き兼ねて横から口を出した。


「つまり、時の旅人は自分達が行きついた「死」という終着点を完全に変えるために行くんだ。改変に成功するまでは、歴史を変えたまま、同じ終着点へ、ということになる。あいつは、それを自力ではなく生きてる自分でやってるだけの話だ。」


 言い終えると山下は紅茶を飲み干した。


「僕らは、彼の手伝いを強制された、奴隷みたいなものかな。切符と記憶を人質のようにされて、今までこうして動いてきた。実際、君の前の君、18人目の高山 翔は命を落としたよ。18回という試行回数を持ってしても簡単には行かない。上手く時間を変えてもどうしても死んでしまうんだ。」



「二十人目を作ると言っていたね。となると、君は狙われるかもしれない。同じ世界に高山くんは2人もいらないしね。彼を止めるのが先か、君が死ぬのが先か。時間の問題だろうね。」


 森田は落ち着いた声だった。言葉の1つ1つが抜けていきそうになるのをなんとか捉えているような感覚だった。それだけ、自分にとっては大きく、整理のできない事実だった。


「彼の行動を止めるってどういうこと。」


 小田が口を挟んだ。


 確かに、「彼の行動を止める」ことが「彼の存在を消すこと」と同値であるとすれば、ここに集まっている全員が消え去ってしまうことになる。(彼の行為の結果によって自分達が存在しているためだ。)


「それは、彼自身の死のルートを止めることだと僕は思っている。」


「でも、それならあなたたちが無かったことになっちゃうでしょ。」

 と小田は慌てて返す。


「難しい話なんだけど、時の改変に成功してもその人の行為が消えないんだ。つまり、時の旅人としてやったことは歴史としても記憶としても消えないってことさ。恐らく、改変したっていう歴史がないと成立しないからなんだろうね。」


 森田は喋り終えると、ふうっと大きく溜息をついた。


「あまり一度に聞いても仕方ない。今日はこの辺にしておこう。僕も夜仕事があるしね。」

 全員のティーカップを回収しながらキッチンへ向かっていた。


 山下は森田の部屋に入ることになった。この家は3部屋あるのだが、森田と山下で1部屋、残りの3人で1部屋という割り当てだった。桜良は自分と一緒がいいと言っていたし、小田は1人部屋は嫌だという理由だった。自分がアルバイトの間、小田には桜良の面倒を見てもらっていた。


一緒にいる時間が長いことでものすごく親密になっていた。自分と小田も、この短い期間で距離を縮めていったのは確かだ。その夜、灯りがついていない部屋で3人は並んで寝ていた。以前に使っていたベットは売り払って布団をしいている。桜良は桃色のパジャマを着て、隣で寝息を立てていた。


 この日は中々寝れなかった。もちろん、日中に色々起きたからである。不安と言い切るには少し違うような焦燥感に近いものに追われていた。これからどうするか。具体的な物なんてどこにも浮かばず、漠然とした問いだけが回り回っているだけである。少し嫌になって、ガサゴソと音を立てながら、体勢を変える。


「まだ起きてたの。」


 小田は屈む体制になって布団から抜け出しながらそう尋ねた。彼女も眠れないのだろうか。


「少し寝付けなくて。そっちこそ、なんで起きてんだ。」


「考え事してたら時間過ぎてたって感じかな。」


「俺、水飲んでくる。」


「あたしもいく。」


 2人して冷蔵庫の方へ向かうと、2Lのペットボトルに入った水をコップに注ぐ。


「だいじょうぶ?」


「なにが。」


「なにがって。ほら、ね。」


 小田は昼間のことを口に出しにくいようだった。

 察してほしいと言わんばかりにこちらを見る。


「まぁ、少し整理はついたかなぁ。」


 思ってもないことを口にした。その方が余計な心配を買わなくて済むと思っていた。


「嘘はだめだよ。」

 見透かされてるような気がした。そこまで隠そうと抵抗していた訳ではないのだが。


「ソファー、座って話そ。」

「あぁ、うん。」


 居間にある時計は午前1時を指していた。森田も山下も寝ていたのだろうか、部屋の灯りは消えていた。

「私はね、ちゃんと翔君のことお手伝いしてから帰るつもりだから。そのために来たんだもん。」

「でも、遥を巻き込んでまでするわけにはいかないと思ってる。」

「ほら、そういう所!!」


 小田は、つい大声で叫んでしまっていた。周りを見回して、人指し指を口に当てると話を続けた。


「全部ひとりで抱えこもうとする所がだめなの。いっつも何が起きる度、そう。私に全然話そうとしてくれないでしょ。ちゃんと話して。」


「そりゃぁ、焦りっていうか。もう分かんなくなってるよ。どうしていいかだって見えてこない。」

「私に話してよ。」

「でも、」


「でもじゃない。一緒に住んでて、全部真っすぐなところ好きだよ。桜良ちゃんを一生懸命守ろうとしてるのも見てきたし、それでいて周りにはその苦労を見せないって、かっこいいと思う。」




 少し間が空いた。


褒められるなんて久しぶりだった。確かに桜良は自分が一人で救ったのもあって、情が入らない訳もなかった。アルバイトの時間は仕方なく小田に預けているが、それ以外の時間は常に桜良と一緒にいた。それを彼女はよく見ているのだろうと思う。


 だが、それと同じぐらい、大きな感情を抱いているのは気づいていた。彼女への感情だった。少しずつ膨れ上がる赤い風船のようなものだった。気がつかない振りをしていたのだと思う。どう思われているかなんて知る方法もない。居間の電気はつけていないと暗いまま、隣の横顔が見える。


「私ね、」


 小田は、そう呟いて一旦止めた。

 彼女からのその言葉を待っていたのかもしれない。男らしくないと自分では思っていたし、自分から言うなんて不自然とも思っていた。


 多分お互い気持ちを認識しているのだろうし、どちらが先に言い出すかみたいなものだった。


「私ね、翔君のこと好き。私が未来に帰るまで一緒にいて。」


 小田はくるりと向きを変えてそう告げた。目が何秒間も合う。

「俺も好きだよ。」


 気づいたら彼女を引き寄せていた。腕を背中に回して抱きしめていた。


「心配だったんだよ。俺が死ねばなんてもう言わないで。」


「うん。大丈夫。ありがとな。」


 体を少し離して、今度は顔に手を添えた。互いに見つめあってなにかを待っている。何を待っているかなんて分かりきっていた。少しずつ近づく。滑らかな肌が愛しかった。唇が触れあった。向こう側も大して驚いていないようだった。


「もう寝よう。このことは内緒な。」

「当たり前でしょ。」

 桜良を挟んで二人で寝転がった。胸の鼓動も無理やり静めて目を閉じた。




「彼は一体何をしてくるのだろうね。」

 森田はホットコーヒーを一口飲んだ。数日経って、少し気持ちの整理がついた。先手を打たれる前に、こちらから先手を打ってしまおうと考えていた。


「君の存在を消すのだとしたら、どえやって消すのだろうね。」


「直接殺すなんてことはしないだろうな。」

 山下は食い気味に答えた。


「過去に行ってお前自身の存在を消すことかもな。」


「だから、その、こう、もっと具体的に。」

 自分はもどかしく感じていた。


「お前の人生の分岐点となるポイントを探せばいい。分岐点で手を加えられれば、お前ごといなくなる。」


「でも、そんなのどこかなんて分からないじゃないですか。」


 自分は朝食の皿を重ねながらそう言った。森田は立ち上がってこう言った。

「僕なら一つ知ってるよ。ただ長いこと滞在することになる。覚悟があるなら僕もついていこう。」

「桜良もいく。」

「それなら僕と高山君とさくらちゃんで行こう。後のことは任せましたよ。」

 森田は今すぐにでも出発できるといわんばかりの威勢だった。

「行くってどこに。」



 「2009年だ。」 





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