軽薄な命
「何が変わりのいないプロだ…肝心な時に、一番救いたいと思ったときに
救えない、そんな成功率通りな結果しか出せないなら、俺はロボットと何が違うんだ」
俺は彼女を治せなかった、それどころか手術の負担から彼女は息を引き取ってしまった
自分の無力さにこんなにも打ちひしがれたことはなかった
あの日から俺の日常は変わったようで変わらなかった
医者としての生活を続けて、いろんな人を見続けた
ただ、どうしても患者と深く関われず、成功率の低い手術は避けるようになり
院内ではどうしても悪く言われてきた
だが、あんな思いをもう一度味わうくらいならそんなことはどうでもよかった
淡々と機械的な日常を過ごす日々の中のある日
一通の政府からの郵便が来たのだが、最初俺は無視という選択肢を採った
というのも、政府は全職のロボット化を強引なまでに推し進めているのである
これは医者のような現状アイデンティティを保って働いている人々から反発されている
俺もその一人であるが、今の俺にロボット以上の価値があるとは言えない
そんな中で政府からの招集と分かりきっている郵便に目を通すことはしなかった
その次の日、いつものように朝の工程を終え病院に向かうと
見慣れていても異常と感じるほどのロボットがフロントにいて
明らかに困った顔をした受付が俺を見つけるとこちらを指さした
嫌な予感がしたが病院への迷惑を考え留まると
ロボットの陰から燕尾服を着た男がこちらに歩いて来て
「貴方が◇◇◇◇ですね、一度首相官邸までご同行お願いします」
と唐突に言ったのだった
傍に目をやると院長が出てきているのが見えて
逃げ場がないことを理解した
官邸への道中何を聞いても答えられることはなく
それどころか目隠しを強要され建物内へと歩を進めていった
視界が開いたとき真っ白で何もなくさっきの男と布で隠された何かがそこにいて
なぜか俺はそれに目を奪われていた
「早速ですがここに呼ばせていただいた理由についてお話させていただきますね」
「ここまでずっと無視を決め込んできた割にはあっさり話すんだな」
そんな俺の皮肉も受け付けないように薄気味悪い微笑みを張り付けたままそいつは続ける
「貴方の働きは政府にも届いています、大変優秀な医者であると
ただある日から政府が監視している国民のバイタル値に異常な波を描く人物が現れました
まあ、すでに察しているところかと思いますが貴方ですね」
そこでそいつの表情が変わった、さっきまでのとは違う恐怖すら覚えさせる顔で
「そこで政府で今企画されているプロジェクトの対象に選ばれました
簡単にいうのであればモルモットですね、ロボットによってバイタル値の正常化を図る
体よく言っていますが目的はロボットへの依存です
そこで政府反対派の中から条件に合う貴方に目を付けたわけですが」
違和感を覚えた俺は返しがないと分かりながらつい声を挟む
「それを今言っていいのか、それを言われて俺が首を縦に振ると思っているのか」
「それについては問題ありませんよ」
返事が初めて返ってきたことに驚きながら続きを促す
「貴方がこのプロジェクトを断ることができないことは分かっていますのでね
まあ、うだうだ説明していても仕方ないので見てもらいますか」
そう言うとそいつはおもむろに隣のそれにかかった布を引き剥がした
「・・・っ!」
俺は息をのむと同時に目を見開き声を荒げる
「なっ、なんなんだよそれは」
そこにいたのは確かに見送って火葬されたはずのあの子で
俺がこの手で殺してしまった久栗美沙だった
そんな俺の反応を楽しむようにそいつは口を開く
「もうお判りでしょうがこの子はロボです
そしてあなたのバイタル値を正常に戻してくれる子ですよ」
五歩ほど空いていた距離を詰め、俺は感情のままに胸ぐらを掴む
「おまえは、おまえらは命を何だと思ってるんだ!」
そこで初めて極めて人間臭い気味の悪い笑みを浮かべていたこいつも
ロボであるということに気付いた
「そう私もロボなんですよ」
飄々としながらそいつは続ける
「貴方ですら気づかない、なんなら私自身ですらそのことを忘れる時がある」
そう言いながら見せるそいつの表情に俺はゾッとし、後退った
「気味が悪いでしょう、こんなにもロボは人間に近づいた
いや近づきすぎたのかもしれない、だからこそ上の人間は貴方で試すことにしたんですよ
ロボと人間が人間と人間として過ごすことが出来るかどうかを」
意味が分からなかった、こいつらは人間を作ろうとしているのだ
この世の理を崩し、何者かになろうとしているのだ
「正気とは思えないな、俺がこの提案を受けることはないし
関わろうと思うわけがないだろう」
できるだけ平静を装いつつそういうと俺は踵を返そうとする
「ところで、これは余談なのですが」
一度そいつに目を向ける
「私やこの子、まあこの子はまだ起動されていないのですが
政府の最新型のロボットには人間と同じの感覚器があるんですよ」
その言葉が含む意味を俺は理解してしまう
「これからこの子は起動されますが、貴方がこのプロジェクトを受けないのであれば
存在価値のなくなったこの子を上はどうするでしょうか、ただ処分するだけなら
まだましでしょうが、感覚器を試すために様々な実験を受けることに」
「それ以上は言わなくていい」
「ああ、そうですか
ただこれだけは言うように言われているので
この子の人格、記憶は手術前の久栗美沙がプログラムされています
その事を踏まえてこのプロジェクトに参加いただけますか」
手術前ということはきっと俺の事も知っていて
これから死地に向かうと覚悟を決めた強いあの子なのだろう
想像したくもない、目覚めてすぐ何もわからないまま実験に使われるあの子を
これは俺に罰を受けろということなのかもしれない
もう一度殺してしまうくらいなら
「もっと詳細を説明してくれ」
俺は参加することを決めた
長いですが読んでいただきありがとうございます
物語の中でも大きな転換だったと思います
ほとんど感覚で書いているので言い回しがおかしかったり
誤字があるかもしれません
指摘いただけると助かります
次はいつになるかわかりませんが年内を予定しているので
お待ちいただけると幸いです