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斜陽国家カラネシア

作者: 藍染 シオン

モノカルチャーに依存し過ぎたある小国家の末路。

 私の住む国、カラネシアは赤道沿いの太平洋に浮かぶ小さな島である。

 元々は流刑地としての無人島であったが、流された罪人たちが独自の文化を築き、二十世紀初頭では国と呼べるまでに発展した。

 それまではその独自の生態系や文化が脚光を浴び、観光地としても人気があったが、二十一世紀に入ると温暖化による気候変化から生態系は徐々に崩れ、観光客は減少傾向にあり、GDPの減少と加速するデフレーション、景気の低迷から抜け出したいという国民の思いは強くなる一方であった。

 しかし、観光に次ぐ新たな貿易手段を見つけるには中々に難儀であった。土地は肥えていたが面積は狭く、故に輸出物を生産する目途がなく、自給自足のサイクルからはなかなか抜け出せないでいた。

 そんなある日、極東の国からやってきたある男女があるものに目をつけた。それは食用としては用途の少ない芋から摂取したデンプンの塊であり、『タピオカ』なるものだ。

 そこからは破竹の勢いだったことは今でも憶えている。様々なメディア(・・・・)なるものが一斉に押し寄せ、一時期は人であふれ返った。

 訊く話によると、カラネシアで採れるキャッサバから取れるタピオカは従来のモノとは食感が大きく異なるらしく、若い女性を筆頭に人気を博しているそうだ。

 「これは売れるぞ」と焚きつけられた村の人々の目が変わる。それを皮切りにカラネシアはキャッサバもといタピオカの大量生産を図った。

 何故この時にもっと早く気付かなかったのか。皆は思い続けているだろう。しかしそれほどまでに、人々の飽くなき富への欲求は、盲目にするには十分だった。

 カラネシアは目覚ましい発展を遂げた。インフラの整備や車の輸入、埋め立て地に摩天楼のようなマンションが一つ建った暁には見違えるように人々の暮らしは豊かに思えた。

 始まりは村のある人物が余興ついでに作った代物だったが、まさかそれがここまで経済発展に貢献するとは本人ですら思ってもいなかっただろう。

 新しい時代に進むべきだ。古い文化を捨てて先進的グローバルな文化を築き上げよう。という半ば狂信的なスローガンは、伝統的な衣装を洋服やスーツに一新し、新設のファストフード店を常に満員にさせた。

 国産物はキャッサバに依存し、モノカルチャー経済の様相を成していた。


 極東の国には昔からこんな言葉があった。盛者必衰というものだ。


 ある日を境に、我々のキャッサバの輸出量がめっきり減った。原因は至極単純かつ無常で、『飽きた』からだという。

 所詮は嗜好品。石油などの必需品とは異なり、我々生産者としてはなくてはならぬ代物だが、消費者としてはあってもなくてもどうでもいいモノなのだ。タピオカの流行は風と共に去ったのだ。

 しかし残された我々はどうすればいい? キャッサバの大量生産のために行った焼き畑は土地を不毛なものにしてしまった。これから新たな物を作ろうにも、どうしようもない。

 豊かな暮らしに胡坐をかき、職にもつかず豪遊に耽った住民たちに残されたものは、高級外車と海上の別荘だけとなった。

 多くは難民となり国を離れた。しかし、周辺に大きな国がないため、国を逃れた者たちがその後どうなったかは誰も知らない。

 私を含め島に残った人々は、ほとんどが外国からの援助金でやりくりしている。だが、それもいつまで続くか分からない。

 これは神が我々に下した天罰なのだろうか。蝋で象った翼を纏ったイカロスのように。

 私は今日も、外国から貰った金で外国から仕入れたパンを食べている。

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