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ありきたりへの帰還

 なんとなく、天界のどこかが、最近慌ただしかった。日常ではなかった。



 仕事に追われる上位の天使や、それを見習って密かにでも職務を果たしていく相棒の人間たち。定期的に天界を通過していく魂を見上げながら、天での暮らしに精を出す。



 そんなのがいつものことだった。常に動いていても、誰しもが心に余裕を持っていた。



 それをかき乱す誰かが現れてから、1人また1人とその渦に飲まれて、どんどん余裕というものを失っていった。



 彼らは一体何者なんだろう。その行く末はどうなるのか。噂もあっという間に広まり、近くを通りがかるだけで、興味を惹かれるようになる者たちが増えた。



 彼らに自覚はないかもしれないが、今やほとんどの天界に住む者たちが、あの2人組を認知している。完全な生者でも死者でもなく、ずっとここに留まっている彼が、皆物珍しいのだ。



 そして今回、彼は自分のそんな曖昧な状況にけりをつけたわけだ。



「そんな派手なことは、勿論してないですね。でも2人組……アークとゼルさんの今回の動きは、絶対に天界に大きな影響を与えましたよね」



 だな、と私は口を潤しながら返事する。



「ラフィーは最近大丈夫か?」


「当然ですよ。というか、前よりもリラックスというか、ほんわかしてるような」


「……そうか」



 それはお前もだ、と言いたくなったところを、喉に茶を流し込んで抑えた。



 私が座っている前で、律儀に立って報告をしてくれているフォーリ。彼も、その一件以来マイペースさが増したと思う。仕事に支障はないものの、行動がワンテンポ遅れるのは否めない。



 しかし、私が「遅い」と指摘しても、柔らかい雰囲気で謝られるので、なんとなく怒る気にはなれないのだ。仕事の速さと対応が良い塩梅で両立している。



「何か他に大きな問題は?」


「ありません。僕が確認した限りは」


「アークもか?」


「はい。ゼルさんもこっそりいますし、大丈夫ですよ」


「それが安心できないのだがな。まぁ今では心配するような要素もないがな」


「ですよね」


 

 フォーリはにかっと笑った。



 すっかり平和だな、と戻ってきたありきたりに浸っている時。



「ハイン! いるか!」


「……大声を出す前に、その目で周りをよく見ろ。いる」



 四大天使を呼び捨てにし、ノックも合図もせず室内に入ってくる。張りのある活発な声。聞き慣れたルイズの叫び声だ。



「おい! あの後アークはお前が連れて行ったんだろ」



 ルイズはフォーリを思いっきり指差して、そして恨みがましくきっと一瞬睨んだ。フォーリはなにも反応しない。



「はい。ラフィーへの対応を決定した後、彼の扱いについて相談したかったのでついてきてもらいました。



 極めて冷静に答えるフォーリに対して、ルイズは情熱的だ。



「まだどこにもいないじゃん! どこに行ったのさ」


「はいはい、落ち着いて」



 流石にフォーリでも手に負えなくなる予兆を感じたらしい。何とかなだめるようにして、ルイズを私の部屋の椅子に座らせた。



 すっかりいつもの、のほほんとした雲のような日常になった天界。そんな今日までのエピローグを知らない彼女に、フォーリは一つひとつ丁寧に教えていった。

時系列が迷子かもしれませんが、前回のやや後です。大した事件が起きたわけでもありませんが、2人が天界の中を奔走する姿は多くの人の心を動かしていました。物語自体は大凡終わりです。いわゆるエピローグで、ゆっくり終われたらと思います。

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