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地上でのラフィー

 「ずっと地上に行くチャンスを伺っていたボクは、思う存分人間の住まいを味わって楽しもうとしました。



 別に交流を図りたいとか、そういうのじゃないんです。ボクたちとは違う文化や体質、考え方をする人間はどんなものなのか。俯瞰して見て観察するぐらいのことが、したかったんです。



 そうして色んな場所を飛び回りました。悲喜交々、多種多様な表情が地上に降りるたびに垣間見えて、その時も実に有意義な時間を過ごせました。



 ……病院に行ってアークを見つけたのは、大きなサイレンが聞こえたからです。



 何回か地上に来ているので、それが救急車という車の鳴らす音だと言うことはわかりました。気の向くままにその音についていくと、救急車は真っ白な建物に着きました。



 病院です。中に運ばれていった子供がちらっと見えて、ボクは強く興味をひかれました。あの子供はどうしたのだろうか。どんなことが行われるのだろうか。



 世界線が違う、というのは観察するのに楽な条件ですよね。台に乗せられた子供を、ボクは真っ直ぐ追いかけました。



 そのあとは……少し刺激が強くて、細かくは覚えていません。



 人間にとっては当たり前だろうけど、その方面に完全に無知だったボクは、既に死にかけという体にさらに刃を入れて弄る、手術という行為が奇行にしか見えなかったんです。



 臓物をいとも容易く裂き、容赦なく血を噴きださせる。流石にいたたまれず手術用の部屋を出ました。手術後、病室に行くまでの時間はあっという間にすぎました。



 落ち着いた頃には、知らない男の子が生死の間で彷徨っている側で、呆然と立ち尽くしていました。



 知らない、といっても手術する辺りまでは見届けたので、本当に僅かばかりの親近感は感じていましたが。



 ふと、自分が体を緊張させていることに気づきました。どこか、心の底で恐怖を感じていたんです。物も言えないようななにかが、喉の奥で詰まっているような。



 ボクは頬を叩いて、我に帰るように矯正しました。そして、恐怖の正体を明確にしてしまいました。



 『目の前の子供は、もうすぐ死んでしまう』。そういう現実が、ボクにはわかっていたんです。



 手術をした人間たちは、恐らくあの部屋に運んだ時から息をしていない子供に、一縷の望みをかけて病室へ運んだのでしょう。男の子の家族たちの心情も考慮すれば、即座に死は宣告しにくいでしょうし。



 男の子にされていた処置は、ほぼ無意味なものでした。口につけられていた硬いマスクのようなものも、虫の息となった呼吸をさらに辛くさせているような、そんな気がしました。



 その時ボクは不意に、無力感を感じたんです。手を伸ばせば悠々と届くこの距離で、ボクはこの子供を救ってやれない。娯楽も与えられない。



 死を転覆させちゃいけないっていうのは勿論わかってます。でもなにかしてやりたい。でもしちゃいけないしできない。



 すごく、すごく悔しかったです。



 だからって、それが理由になるわけじゃないですけど、本能的に衝動的に動いていたんです。



 気づけばボクは、自分の治癒の力を使って、息も絶え絶えな男の子を救ってしまっていました。次第に、みるみると荒い呼吸が整ってきました。



 ただしその時、血の気が引くとかそういうことはなかったです。治癒をしたのは衝動ですけど、それに伴うリスクを考えないで腹を決めなかったわけじゃありません。



 元気をどんどん取り戻していく男の子が起きないことを確認しながら、ボクは改めてある決心をしました。



 ボクは救った子供の顔を目に焼き付けると、天界に何事もなかったように戻ることにしました。そして、地上であったことは側近の部下にもヒールにも、誰にも一言も話しませんでした。



 本来は、それでボクだけが荷を背負うことになるはずでした。狂っていったのは、『ボクが助けたのは体だけ』だったからです。



 ちょうど魂と、アークとすれ違ったボクが何にも気づかずに体を回復させてしまったから、おかしなことになってしまったんです。



 ボクは非常に焦りました。勿論内心ですけど。ヘブンバックでアークにあった時、ボクはとてもびっくりしました。



 そこからボクは、考えたんです。救ってしまったあの命を無駄にしないように。



 そして、単純ですけど、黙ってそれを隠し通すことにしました。

お読みいただきありがとうございます。

流石に長いのでわけました。

今回の本文も若干長いので、ちょっぴり+で楽しんでください。


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