最後の息抜き
「あ、ゼル! あれ」
ぼくは遠くから見えてきたシルエットを指差して、ゼルに口で伝える。もしかしたらあれは、神を連れたグリウやリザレイかもしれない。
「……あぁ。リィも側にいるな」
ぼんやりと形を作っていたシルエットは、だんだんはっきりしたものになっていく。
その正体はおおよそぼくの予想した通りだったが、若干ずれがあった。それにぼくは、少し戸惑ってしまった。
「あら、皆集まってたのね。待たせちゃってごめんなさいね」
リィが辺りをキョロキョロ見回しながら、申し訳なさそうに言う。隣に立っているリザレイも、あまり主張はしてこない。
と思ったが、よく見てみると以前よりもやや明るい雰囲気をまとっている気がする。ここ最近よく見ていたのは、ピリピリしていた彼女だ。一体何があったのだろう。
「かまいませんよ」
優しくゼルが返事する。僕がこれまでに会った人、ほぼ全員が集合したこの場に現れた、3人をそれぞれじっと見つめる。
「それより……神を呼んだんですよね? 一体どこに?」
そう、それが最も気になっていた部分だ。ここに来た3人組は、リィ・リザレイ・グリウだけで、神らしき物体すら見当たらない。
「あー、それはねー」
面倒臭そうに語尾を伸ばすリィ。そんな彼女に代わるつもりか、リザレイがぼくの目を一瞬捉えた後、説明をし始めた。
「あの、ちょっと複雑なのですが……」
「ほう」
ゼルは頭を思考モードに変えたのか、真面目な顔つきになった。内心はどうなのか知らないが。
リザレイはグリウを手で指し示す。
「彼、一見グリウのように見えるんですが、実は違うんです。今グリウは神に取り憑かれている様な状況で、この体に神が入っているんです。ですから、このグリウは、今は神だと思ってもらって構いません」
そんなことを一通り話した後、リザレイは頭を左右に動かした。
「色々と端折ったところはありましたが、わかりましたか?」
「僕は、まあまあわかったね。つまりは、グリウが神ってことね。同じこと言ってるだけだけどさ」
ゼルが軽く笑う。対してリザレイはにっこりしながら頷いた。
「へー、グリウが……こいつが神かぁ」
興味津々といった様子でグリウに近づくのは、礼儀なんて知るはずもないルイズだ。
そんな彼女を制止するのは、やはりいつものヒール。天使すら管理しているヒールも、自由奔放なルイズの取扱には困ってしまう。それもいつものことだ。
「ルイズちゃん。違う体とは言ったって神よ。ちょっとは弁えて」
「だって、オーラとか全然感じないぞ?」
「そういう問題じゃないの!」
神に近づいたルイズの背中を押して、なんとか離れさせようとする。
つまりはよく見る茶番だ。神とリザレイが、呆れた目と微妙な目をかち合わせた。
「……私はなんの為にきたのだ?」
「すみません。もうそろそろ本題に入ってもらいますから」
リザレイと神は目を合わせて、そしてゼルの方を見た。2つの視線に当てられた天使は、今度はぼくに同意を求めてきた。
頷きかけてきた意味を言葉に表せるほど理解できてはいないが、考えていることは一緒のはずだ。ぼくは頷いた。
「……まず、僕はラフィーを呼んで来ますね」
ゼルは、ラフィーを呼び出す為に守護天使たちの職場へ飲まれていった。
「これから説得か」
「緊張してるんですか?」
独り言を言う神にぼくは言う。
「そういう訳ではない。正直言って、何をどう言ったらいいのかはっきりしなくてな」
「あー、それは……」
ぼくは横目にリザレイを見て、助言を求める。彼女も話は聞いていたらしく、神に教えようと数歩歩く。
すると彼女がぼくの視界に入ることになるのだが、その時不意に覚えた感覚があった。リザレイへの微妙な違和感だ。
そうだ、彼女がこれまで“神様”と呼んでいたのが、“神”と呼ぶ様になっている。
まさか彼女の、神への認識が変わったのだろうか。こんな、たった数時間で。
気にはなったが、聞く間はなかった。もう始まる。ラフィーの本音を暴く場が、展開されるのだ。
守護天使たちがキビキビと働く中、その長がおもむろに現れた。
お読みいただきありがとうございます。
ここからは、のんびり世間話とかはせず、さっさか次の展開を書いていくつもりです。今話までの他愛ない日常を噛み締めていただけていたら幸いです。




