リザレイの変化
「そうか」
砂時計の砂が落ちきる程の時間が経った。私は気まずいように感じない沈黙だったけれど、リザレイなんかはまごまごしていたかもしれない。
そんな中、私に言い迫られた彼は口を開いたのだ。
「何に納得したのかしら?」
「私を説得させるのにかける覚悟だ」
焦る様子も困る様子もなく、彼は話し出した。
「正直なところ、私もなにも知らないわけではない。私たちの世界からちらちらと覗いてはいたのだよ」
私たちの世界、というのは神々の住まう世界という奴だろう。
「といっても、地上から人間がやってきた。天使がそれの対応をしている。それくらいの軽い認識だった。次第にことが大きくなっていったのは驚いたがな。ついに私にまで辿り着いてきた」
腕を組んで、ひとりでこくこくと頷いている。どこか鼻に付く彼に私は言う。
「だから本気か確かめたの?」
「いや、そういうのは全く意識していなかったな。まさかこっちに来るまでは思っていなかった。所詮は内輪の馴れ合いで、冥土へ行けば終わる関係と踏んでいたくらいだ」
彼はしゃがみこみ、そして立ち上がった。指先には尖った破片がある。しばらく見つめた後手首を回して、それを見せつけてきた。
まるで当てつけのようで私は睨んだが、当の彼はふっと笑っている。
「覚悟度合いは本気だとわかった。ラフィーの行為が理に反していることも、真実だとわかった」
「本当に、ラフィーのことは信じてなかったっていうか、気にしてなかったというか……なのね」
「言い訳がましいが忙しいのだ。死んだ人間を放っておく奴を野放しにするほどではないがな」
言いながら、祭壇から彼は降りていく。
物分かりが良いんだか悪いんだか。性格が善良なのか捻くれているのか。考えない方が利口な疑問が頭に浮かぶ。彼については全くわからない。
「さて、この体はしばらく使わせてもらう。ラフィーの居場所を教えてもらおうか」
振り返った神は、余裕そうな表情でそんな言葉を吐いた。
はいはい、とあしらいながら神についていこうとすると、後ろで声がした。
「あ、待ってください」
それはリザレイの声。不意に私は思い出す。彼女の神に対する思いを。
神への盲信という前提の札をつけたリザレイを見ると、ひとつひとつの言葉が刺々しく聞こえてきてしまう。
「ねぇ?」
「あ、はい?」
私からの疑問符に彼女は答える。
「その……さっきナイフを割ったの、不愉快だったら悪いけど。私が決めたことだからさ」
なにをしでかすかわからない彼女に、丁寧に言葉をかける。
そんな慎重になっていた私が、可笑しく思えたのだろうか。リザレイからは、笑いが漏れていた。
「えっ、なに?」
「ふふ……リィさん。別にいいんですよ。それは」
口に手を当てて息を漏らしながら笑っている。
「ちょっと、そんな笑わなくてもいいじゃない」
「あはは、だってもう私気にしてないですから。……ちょっと前に悟ったんですよ。言い表せないんですけど、そんな愚直に信じることじゃないなって」
「へー……?」
「占いとかと一緒なんですよ、きっと。都合のいい時だけ信じれば良いんです!」
彼女は元気に笑った。ピースやウインクでも決めれば、写真に可愛く収まりそうだ。
「ふーん。いいことなんじゃない?」
ですよね! とリザレイは言う。なんだか、こんな元気で活発なリザレイは久しぶりな気がする。
なんとなく、彼女の頭に手を置いた。
「元気に笑ってるのが一番可愛いわよ。あいつも待ってる。行きましょ」
お読みいただきありがとうございます。
リザレイも吹っ切れたようです。
皆垢抜けて良い感じになってきました。
ここから神も加わったラフィーの説得を、書いていきます。




