嵐の前の静けさ
「ふぁ〜……あーまだかしら」
結構のんびりしながら祭壇に来たというのに、しばらく待っても誰も来る気配がない。ひょっとして、ゼルが私を呼んだのは一番最初なのかしら。
「だとしたら……わかってないわ。暇すぎるじゃない」
少し前から、私はすっかり地べたに座っている。三角座りをしたり胡座をかいたり、石のところを選んで軽く寝そべってみたり。
欲を持つ生物たるもの、暇すぎるというのはよくない。色んな面で、極限まで追い詰められるととんでもない行動を起こしてしまう。
「暇による奇行は、生物には起こりうるものよ。私を暇にさせるあいつが悪い」
ひとりでうんうんと頷く。そこに、遠くから何となく聞こえていた足音の正体が現れた。私は立ち上がってそっちを見る。
「生物全般というより、貴方だからではないですか?」
「失礼じゃないの。グリウ」
隣に大人びた少女を連れて、高貴な身分の天使が祭壇に訪れた。高貴と言っても身なりの問題で、私よりは低いところにいるが。
グリウとかゼルのような若干高位の天使たちは、私に近い身分だからか時折小馬鹿にするような言動が見られる。それとも性格故だろうか。
それとは違って、大方の天使たちや人間の相棒たちは、しっかりと私を慕っている。目の前でにこやかにしているリザレイのように。
「リィさんも、神様にお話に来たんですね」
「ええ。どっちかって言えば反抗の方のご意見だけど。貴方はいいのかしら」
「いい、とは?」
「神様に楯突くことがあるかもしれないのよ」
リザレイは笑みを消して、俯き加減で黙ってしまった。重い空気が流れた気がした。下手に質問をした私の責任だ。フォローをしなければ。
「……ま、そんな時の為に私がいるから。気負いせずにね」
「はい。お願いします……」
彼女は一礼して、顔を上げた。その目が私と合った。
その時、不思議なものを感じた。神への異常な信仰を持つ彼女は、今さっきの私の言葉にたじろいでいることだろうと思っていた。
けれど、たった今合わせた目は、そんなこと全てひっくるめた覚悟を決めた瞳に思えたのだ。具体的に言えば、迷いのないまっすぐな目。困る様子は塵芥もなかった。
「あの、なにか?」
「あ、ううん。なにもないわ」
やんわりと返事してにこっと笑ってみせる。リザレイもつられていた。
「それで、聞いてる話は一緒ですよね?」
斜め前方にいるグリウが聞く。
「そうね。確かねぇ、ラフィーの迷惑行為を神に否定してもらうって感じだったと思うわ」
「……ええ、多分一緒ですね」
何故かグリウはため息をついた。まさか私に呆れているなんてことがあるのだろうか。まぁ彼らがわかっているならいいのだ。
グリウとリザレイを背にして、祭壇に近くなるよう歩き出す。
「じゃあ、ふたりとも。そろそろ神様に会おうかしら?」
硬い意志をもった天使と相棒は、私の後ろを歩いてついてきている。囁き声の会話が聞こえてくる。
「あれが祭壇……案外粗末なのね」
「なんだ、見たことないのか」
「だって、相棒になって以来ほぼ来ないもの。例え相棒が神様の御心を知る役目だとしてもね」
「お前はお前のことで忙しいしな」
理由はよくわからないが、私は微笑ましくにんまりとしていた。
そして、祭壇の石畳の足を跨ぎかける一歩手前あたりまで来た。そこで私は立ち止まり、懐に手をやった。
「どうしました?」
グリウが言う。
「なんでもないわ。さぁ、ここに登って」
コツコツコツ。石畳に乗る足音がする。神を呼ぶのは、呼び慣れているグリウだ。
どうしてか、ここまできて緊張してきた。そして深呼吸をして一息つく。
懐を指でなぞる。神様から頂いたナイフの存在をしっかりと認識する。このナイフのおかげで助かってきた出来事ひとつひとつを、走馬灯のように思い出しながら。
「……さて。準備はいいわね?」
お読みいただきありがとうございます。
視点変わりまして、祭壇サイドですね。奔放なリィと複雑なリザレイと中立のグリウの3人、神との対話でどうなっていくのか、次をお待ちください。




